バッコ博士の構造塾

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残留変位・残留変形とは?制振・免震建物の応答に与える影響

針金をほんの少しだけ曲げてから手を離すと、針金は元に戻ります。しかし、グイっと曲げてしまうと、手を離しても元に戻らなくなります。

 

建物の場合も同様で、小さな地震の後では元に戻ったとしても、大きな地震の後では元に戻らないことがあります。変形して傾いたままになり、人為的に元に戻さない限りはそのままです。

 

建物が元の位置に比べてどれだけズレてしまったかを、「残留変位」と言います。

 

真っ直ぐだった建物が傾いてしまっても、何もいいことはありません。残留変位はできるだけ小さく、可能であればゼロにするのが望ましいです。

 

ここでは、残留変位が生じる要因と、残留変位が建物の安全性に与える影響について説明します。

 

 

なぜ残留変位が生じるか

大地震が生じると、建物は水平方向(横方向)に大きく移動します。柱や梁、壁が力を負担することで変形し、それらを総合したものが建物の変位になります。

変形と変位

 

各部材に生じる力が小さいうちは問題ありません。力を抜けば、つまり地震が収まれば変形はなくなります。これを「弾性」と言います。変形がなくなれば、建物も元の位置に戻ることができます。

 

しかし、力が大きくなると部材に損傷が生じます。部材が損傷すると、変形したままになってしまいます。これを「非弾性」と言います。変形が残れば、建物は傾いたままになります。

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一度に全ての部材が損傷することはあまりありません。一部、あるいは大部分の部材は損傷せず、地震後は元に戻ろうとします。

 

戻ろうとする部材と、損傷してそのまま留まろうとする部材とのバランスで残留変位の大きさが決まります。

 

構造種別による残留変位の違い

耐震構造

世の中にある建物の大半は耐震構造です。耐震構造では、柱や梁といった骨組の強さにより地震に耐えます。

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そのため、耐震構造の残留変位は骨組の損傷に起因します。柱や梁に使用される鋼材や鉄筋が大きな力を受け、非弾性になることで伸びたまま、曲がったままで留まろうとします。

 

強度が大きい部材は弾性の範囲が広いため、高強度材料を使用することで残留変位を減らすことができます。

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制振構造

耐震構造に、建物揺れのエネルギーを吸収できる装置である「制振ダンパー」を付加した構造が制振構造です。耐震構造と同様、骨組の損傷によっても残留変位は生じますが、制振ダンパーに起因して生じる場合もあります。

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制振ダンパーにはいろいろな種類がありますが、「変位依存型ダンパー」を使用した場合に残留変位が生じる可能性があります。変位に応じて力を発揮するタイプのダンパーで、「鋼材ダンパー」「摩擦ダンパー」が該当します。

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鋼材ダンパーは骨組に先んじて損傷することで、骨組に代わってエネルギー吸収を行います。損傷に強い材が使用されるので耐久性に問題は無いのですが、変形は残ることになります。

 

摩擦ダンパーは摩擦面がずれることで、摩擦熱によりエネルギー吸収を行います。一度ずれてしまえば、再度逆向きの力を加えるまではずれたままになります。

 

変位依存型ダンパーを使用する場合、骨組に損傷がなくても残留変位が生じる可能性があります。

 

免震構造

耐震構造の建物の下に、「免震層」と呼ばれる地震の力を伝えにくくする層を設けた構造が免震構造です。建物自体に残留変位が生じなくても、免震層に残留変位が生じることがあります。

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免震層には建物の重さを支える装置である「免震支承」と、揺れを小さくするための装置である「免震ダンパー」の2つが設置されています。このうち、免震ダンパーに起因して残留変位が生じる場合があります。

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制振構造のところで挙げたように、免震ダンパーにも変位に依存して力を発揮するものがあります。金属製のダンパーや摩擦を利用したダンパーは変位に依存するので、これらのダンパーを使用した場合は免震層に残留変位が生じる可能性があります。

 

免震層に生じる変形は建物に生じる変形に比べて非常に大きいため、残留変位自体も大きくなる傾向にあります。

 

残留変位がある建物の耐震性

骨組に起因する残留変位の場合

柱や梁の損傷により残留変位が生じている場合、耐震性は明らかに低下しています。

 

柱や梁が吸収できるエネルギーには限界があります。残留変位が生じているということは、先の地震でそのいくらかを使用してしまったということです。

 

もちろん、それが即危険であるということにはなりません。ただ、残留変位があまりにも大きい場合には、かなり耐震性が棄損されている可能性があります。

 

ダンパーに起因する残留変位の場合

では、制振ダンパーや免震ダンパーに起因した残留変位の場合はどうでしょうか。建物自体には損傷が生じていないので、問題無いと言えるでしょうか。

 

残留変位により建物が片側に寄っているので、寄っている側にさらにドンっと押されるような地震が起こると影響はありそうです。

 

しかし、実際にはいきなりドンっと大きな揺れが来ることはなく、その前に小さな揺れが少なからずあります。元々骨組は損傷しておらず元の位置に戻ろうとしているので、小さな揺れが残留変位を解消する方向に働きます。

 

そのため、残留変位が耐震性に与える影響はほとんどありません。極端に大きな残留変位であれば多少の影響はありますが、基本的には気にしなくても大丈夫でしょう。

 

残留変位の大きさはなにで決まるか

建物をそうっと押していき、途中でそうっと離す、その場合はどの程度残留変位が生じるかは計算できます。しかし地震などではガタガタと建物が左右に揺すられるので、どの程度残留変位が生じるかは予測できません。

 

とはいえ、大まかな傾向があるのは確かです。残留変位が生じやすいのは、どんな建物、どんな地震動でしょうか。

 

建物

前述のように、損傷しにくいよう高強度の材料を使用していると残留変位が小さくなります。また、耐震壁やブレースを多用して変形自体を小さくすることも有効です。

 

制振構造にしても免震構造にしても、変位依存型のダンパーを多用していると残留変位が大きくなりやすいです。速度依存型のダンパーであれば力を抜けば元に戻るので、残留変位を小さくしたいならダンパーの種類に気を付ければいいでしょう。

 

地震動

建物の損傷が大きくなるほど変形は元に戻りにくくなるので、地震が大きければ大きいほど残留変位は大きくなりやすいです。

 

ただ、大きな揺れの後に小さな揺れが続くようだと、少しずつ残留変位が解消されていきます。ドンっと片側に押すような短い地震が最も残留変位を大きくしやすいと言えます。