バッコ博士の構造塾

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層間変形角・層間変位がよくわかる:その意味と計算方法と制限値

どんなに硬いものでも、力を加えれば変形します。建物も例外ではなく、物を置いたり風が吹いたりすれば、それに応じて揺れたり変形したりしています。

 

ただその程度が小さいため、普段生活している分にはあまり気づかないだけです。歩道橋の真ん中で立ち止まってみると、僅かに上下に揺れていることがわかるかもしれません。

 

人が歩く程度の力の変化では微々たるものですが、地震の様に大きな力が生じるときにはより大きな変形が生じます。

 

建築基準法では、地震や強風に対してどれだけ建物が変形してもよいかを規定しています。そして、その判断基準に用いられる指標が「層間変形角」です。

 

この記事では層間変形角について細かく見ていくことにします。

 

 

変形と変位

まず、基本となる言葉の定義を確認しておきましょう。混同されやすいですが「変形」「変位」は似て非なる言葉です。

 

「変形」とは「物のが変わること」で、「変位」とは「物の位置が変わること」です。漢字の意味の通りですね。

 

英訳するとdeformation(変形)とdisplacement(変位)です。こちらの方が違いを理解しやすいと言う人もいます。

 

変形(deformation):形が変わること

変位(displacement):位置が変わること

 

基本なので、両者の違いをしっかりと認識しておきましょう。

 

層間変形角・層間変位とは

注目する変位

建物に生じる「変形」にはいろいろなものがあります。

 

曲げ変形、せん断変形、軸変形、ねじれ変形、といった外力に起因するものから、乾燥収縮などの材料特性に起因する変形、熱応力などの周辺環境に起因する変形など様々です。

 

こうした各部材の変形が積み重なり、建物に「変位」が生じます。

 

変位はその方向により分類することができます。鉛直変位(縦方向)と水平変位(横方向)です。

 

重力は鉛直方向に作用するので基本的には鉛直変位、地震や風は水平方向に作用するので基本的には水平変位を引き起こします。

 

重力により水平変位が生じることもありますし、地震により鉛直変位が生じることもありますが、あまり重視されません。大事なのは地震時の水平変位です。

 

建物の水平変位

地震や風により建物に水平方向の力が生じると、2階よりも3階、3階よりも4階の水平変位が大きくなります。

 

「高層階の方が揺れる」というイメージをほとんどの人は持っているでしょう。実際にはもう少し複雑なのですが、上の方ほど変位が大きくなるのは確かです。

タワーマンションの何階に住む?超高層ビルの地震時の揺れ方を徹底解説

 

そのため、「建物屋上部での水平変位を○○cm以下にしなさい」という規定を作るわけにはいきません。2階建てのビルと40階建てのビルとでは、その意味が大きく違ってくるからです。

 

層間変位とは

そこで重要になってくるのが「層間変位」という考え方です。

 

層間変位とは、読んで字のごとく「層間」の「変位」です。「層」とは建物各階の床と床の間のことです。上下階の床と床との変位差が層間変位になります。

 

なぜ「全体」の変位ではなく「層間」の変位が重要なのか、各部材の気持ちになって考えてみるとよくわかります。

 

例として3階の柱について考えてみましょう。

 

その柱の下側には3階の床があり、上側には4階の床があります。そして今、3階の床が2mも水平に変位しているとしたら、この柱はどうなるでしょうか。

 

実は、これだけでは3階の柱がどうなるか、まったくわかりません。

 

1階や2階の柱は平均して1mも変形しているので大変なことになっている可能性があります。しかし、もし4階の床も同じく2mだけ水平に変位しているとしたら、3階の柱自身は全く変形をしていないことになります。

 

3階の柱にとって大切なのは、4階の床の変位と3階の床の変位の差である3階の層間変位なのです。3階だけでなく、4階の情報もなくては判断できません。

 

層間変形角とは

ただの「水平変位」ではなく「層間変位」が重要であることはお分かりいただけたかと思います。

 

しかし、まだ問題があります。ある2つの階における「層間変位」が同じだからといって、各部材が置かれている状況が同じだとは言えません。

 

階高が10mの階と3mの階では、層間変位が同じであっても意味するところが違ってきます。同じ層間変位であれば、階高が高い階の柱の方が緩やかに変形していることになります。

 

そこで出てくるのが「層間変形角」という考え方です。「層間変位」をその階の「階高」で除したものを層間変形角と言います。

 

層間変形角を比べることで、各階の部材に生じる変形の度合いを比べることができるようになります。

 

もしかしたら、「あれ、変位を使って計算したのに変形(角)に変わったぞ」と思われるかもしれません。

 

確かに計算上はそうなのですが、求まった値は「各層の部材が変形する角度」を表しているので「層間変形角」で間違いありません。「層間変位角」という言葉は無いのです。

 

地震時・強風時の層間変形角はどのくらい?

建築基準法による制限値

建築基準法により、建物に生じる層間変形角には制限が与えられています。想定する災害のレベルや、建物の特性によってその値は変化します。

 

建物に生じる変位は「構造計算」により求めることができます。計算値が基準を満足するよう設計しなくてはなりません。

構造計算とは?真面目に計算した建物ほど弱くなる不思議

 

まず、50年に一度程度の確率で生じる地震や風についての規定です。建物を使用している間に一度は経験する可能性が高そうな災害については、層間変形角を1/200以下にするよう求められています。

 

階高が3mであれば15mmの層間変位まで許容できるということです。この程度の変位であれば、目視では気づきにくいレベルです。

 

また、外装材や構造体には損傷が出ないようにしなくてはなりません。しっかりと変形に追従できるよう工夫を施せば、層間変形角1/120以下まで緩和することもできます。

 

次に500年に一度、つまり建物を使用している間に経験する可能性は低そうだけれども考慮しないわけにもいかない地震や風に対しては、層間変形角の制限はありません。倒壊さえしなければいいのです。

 

ただし、高度な計算が求められるような超高層ビル等では層間変形角を1/100以下にするよう求められます。その場合、「時刻歴応答解析」等の高度な計算により変形を求めることになります。

時刻歴応答解析がよくわかる:免震建物・超高層ビル検証の必須技術

 

倒壊時

建築基準法による制限値は「補修無しで継続使用できる」、「倒壊には至らない」と言ったところで線引きをしています。では実際に倒壊するときにはどのくらいまで変形可能なのでしょうか。

 

建物が倒壊するというのは非常に複雑な事象なので、正確な値を出すことはできません。また、構造形式等によっても大きく変わります。ただ、だいたいこれくらいという値はあります。

 

まず、RC造(鉄筋コンクリート造)では層間変形角1/50を少し超えた程度でしょうか。壁が多いか少ないかでも変わってきそうです。

 

鉄骨造ではRC造よりもう少し粘るでしょう。実験では1/10でも倒れずに形状を保っているような例もあり、結局のところよくわかっていないのが実情です。

 

木造では1/30を超えたあたりが目安になるでしょうか。ここまで変形すると接合部の釘が抜けるなど、かなりギリギリの状況のはずです。