バッコ博士の構造塾

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タワーマンションの何階が安全?超高層ビルの地震時の揺れを徹底解説

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タワーマンションが増え、サラリーマン家庭でも手が届く値段の物件も出てきました。供用設備が充実しているものが多く、高層階では素晴らしい眺望が期待できます。

 

ただ、いくら魅力的な物件でも「絶対に購入しない」と決めている人たちもいます。

 

それは、「タワーマンションは地震が怖い」と考えているからです。特に高層階ほど忌避される傾向にあるようです。

 

タワーマンションを購入するかしないか、それは個人個人が判断することです。ただ、超高層ビルの地震時の揺れについて、一体どれだけ知っているのでしょうか。

 

地震の特性や地盤の影響を受けるため一概には言えませんが、高層ほど揺れやすい傾向があるのは確かです。とはいえ、必ずしも30階が20階より、20階が10階より揺れるわけではありません。

 

また、揺れの大きさが室内被害の大きさに完全に比例するわけでもありません。低層の住宅より「怖い」かもしれませんが、「安全」かもしれません。

 

盲目的に怖がるのではなく、よく理解してから判断しても遅くないでしょう。

 

 

「揺れ」とはなんだ

高層階が揺れるか揺れないかを議論する前に、「揺れ」とはなにか確認しておく必要があります。

 

「昨日の地震は結構揺れたね」「いや、うちはそんなに揺れなかったかな」といった会話を交わしたことがあるかと思いますが、この「揺れ」の正体は「加速度」です。

 

建物に限らず世の中の物体は、その動きを「変位」「速度」「加速度」で表現することができます。

 

そして、あなたが感じる「揺れ」には変位も速度も関係ありません。加速度だけが影響します。1つずつ紐解いてきましょう。

 

変位とは

新幹線を例にとって考えてみます。

 

東海道新幹線に乗り、東京から大阪へ行くとしましょう。移動距離は500km程度でしょうか。このときあなたに生じた「変位」は500kmということになります。

 

「変位」とは「元々の場所から動いた距離」のことです。あなたは500kmというとてつもない変位を経験したわけですが、ものすごい揺れを感じたでしょうか。

 

「名古屋までなら揺れは小さくなり、博多まで行くとものすごい揺れだ」とはならないでしょう。変位は揺れに関係しないのです。

 

速度とは

「速度」は日常でもよく使う言葉なのでわかりやすいですね。

 

現在「のぞみ」では最高285km/hまで出るそうです。「そんなに速いと揺れるから在来線に乗り換えよう」という人はいませんね。

 

むしろ新幹線の方が揺れは小さいです。ということで、速度も揺れに関係しません

 

加速度とは

最後に「加速度」ですが、これは「速度の変化率」です。

 

速度が急激に変化する、つまり急発進、急ブレーキをすると大きな「加速度」が生じます。すると中にいる乗客は座席に押し付けられたり、前につんのめったりします。

 

この、体が前に行ったり後ろに行ったりするのが「揺れ」です。「揺れ」とは「加速度」なのです。

 

あるとき、かの天才アイザック・ニュートンが思いついたわけです。「質量に加速度を掛けると力になる」と。

 

この力を「慣性力」といい、この慣性力をどの程度感じるかで「揺れた」「揺れない」を判断しているわけです。家具が倒れ、室内がぐちゃぐちゃになるかどうかも「加速度」が大きく影響しています。

 

室内被害は「揺れ」だけじゃない

 「家具が倒れて危ない」だけが室内被害ではありません。壁紙の破れや建具の歪みといった被害も抑えたいものです。そして、これらは「加速度」ではなく「変形」によって生じます。

 

少し混乱したでしょうか。さきほどとは別の例で考えてみましょう。

 

きれいに包装されたお菓子の箱を想像してください。この箱をガサガサ振ると、中のお菓子はぐちゃぐちゃになりますね。これが「家具が倒れた」のと同じ状況です。

 

でも包装自体はそれほど傷んでいないと思います。箱がある程度硬ければ、包装は守られます。

 

ではこの箱を無理やりねじるとどうなるでしょうか。角の部分やねじれの大きい部分から包装紙が破れ始めますね。これが「壁紙が破れた」のと同じ状況です。

 

箱が変形することで、箱にくっついている部分もいっしょに変形し損傷を受けるのです。ただ、このとき中のお菓子はそれほど影響を受けず、きれいに整列したままです。

 

「加速度」による被害と「変形」による被害の2種類あることがおわかりいただけたと思います。

 

超高層建物の揺れ方

 高層階の変形は小さい

 「超高層建物では、高層階の変形が小さい」というと変に聞こえるでしょうか。

 

実際に建物頂部が大きく揺れている映像を見たことがあるかもしれません。でもそれは「変位」であって「変形」ではないのです。

 

「変位」とは「元々の場所から動いた距離」なので「高層階の変位が大きい」は正しいです。しかしそれは「変形が大きい低層階」の上に高層階が載っているからであって、高層階の「変形」が大きいわけではありません。

 

ややこしいですかね。高層階は支えるべき力が小さいので「変形」は小さいのです。高層階は壁紙の破れや建具の歪みが生じにくい、ということです。

 

高層階の加速度は大きい?

東北地方太平洋沖地震ではタワーマンションの高層階に住む方々は大変怖い思いをしたことと思います。

 

「あれだけ揺れて震度5なのか」「震度7が来たらどうなるのか」と思われたことでしょう。ただ、少し安心してください。「地面の揺れが2倍になれば建物の揺れも2倍になる」といった単純なことは起こりません。

 

東北地方太平洋沖地震での観測データを用いて解析を行うと、確かに高層階ほど大きな加速度が生じる傾向があります。しかし、観測データを2倍、3倍と大きくして解析していくと傾向が変化します。

 

建物に生じるひび割れ等の影響で建物の揺れ方の特性が変わり、中層階では地面や低層階よりも最大加速度が小さくなる場合があります。高層階でも、低層階の2倍以上あった最大加速度が低層階と同程度まで小さくなる場合もあります。

 

もちろん地震の特性やその他諸々により変化しますが、あまり悲観し過ぎることはよくありません。ただし、地面の揺れが収まったあともしばらく後揺れが続く(揺れが収まらない)可能性があります。

 

後揺れに関しては完全に高層階ほど大きいので、揺れを抑える装置(ダンパー)を導入した「制振構造」のマンションがいいかもしれません。

制振構造がよくわかる:アクティブ制振からパッシブ制振まで

 

最上階は買いか?

高層階であればどの階も似たような揺れ方をするかというと、そうではありません。最上階およびその下2階くらいは特に揺れが激しくなる傾向にあります。

 

高層階の揺れが小さくなるような特性の地震であっても、最上階付近だけは揺れが小さくならないということもあります。場合によっては数階下に比べて2倍、3倍揺れることすらあります。

 

ただ、階の変形自体は非常に小さくなります。タワーマンションでは上から下まで同じ柱を同じ大きさにしている場合が多いので、最上階では十分すぎるほどの大きさになります。

 

壁紙の破れや建具の歪みはまず発生しません。家具の転倒防止をしっかりしておけば、金銭的な被害はむしろ少なくなる可能性もあります。とはいえ、個人的には避けたいかなと思います。

 

共振現象

低層建物から超高層建物まで、日本の建物の高さは数mから200m以上と幅広く分布しています。建物の高さによって、建物の揺れ方は大きく変わります。

 

低層建物を大きく揺らす地震と、高層建物を大きく揺らす地震は同じではありません。建物の揺れ方と地震の揺れの特性が一致したときに大きく揺れるのです。これを「共振」といいます。

共振現象の恐怖:建物と地盤の固有振動数・固有周期の関係

 

東北地方太平洋沖地震では高層建物を、熊本地震では低層建物を強く揺らしました。低層だろうが高層だろうがリスクがあることを理解しておきましょう。

 

時刻歴応答解析

建物の高さが60mを超えると、「時刻歴応答解析」という高度な計算が必須になります。

時刻歴応答解析がよくわかる:免震建物・超高層ビル検証の必須技術

 

通常の建物だと「この建物をゆっくり横に押していくといつ壊れるのか」というやり方で間接的に地震に対する強さを計算します。

 

時刻歴応答解析では「地面がこう揺れたら建物はこう揺れて、次に地面がこう揺れたら建物はこう揺れて、さらにその次地面が・・・」を延々と繰り返すことでいろいろな地震に対する強さを直接的に計算します。

 

どちらがより正確か明らかでしょう。被害を受けたときに甚大な影響がある分、しっかりと計算されているのです。

 

低層建物よりもタワーマンションが大きく揺れる地震は存在します。もしかしたら怖いときもあるでしょう。でも、安全性は高いですよ。