バッコ博士の構造塾

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タワーマンションの何階に住む?超高層ビルの揺れ方を徹底解説

タワーマンションが増え、サラリーマン家庭でも手が届く値段の物件も出てきました。供用設備が充実しているものが多く、高層階では素晴らしい眺望が期待できます。

 

□■□疑問■□■

タワーマンションは地震が怖いです。やはり高層階ほど揺れは激しいのでしょうか。

 

□■□回答■□■

地震の特性や地盤の影響を受けるため一概には言えませんが、高層ほど揺れやすい傾向があるのは確かです。ただ、必ずしも30階が20階より、20階が10階より揺れるわけではありませんし、揺れの大きさが室内被害の大きさに完全に比例するわけでもありません。また、低層の住宅より「怖い」かもしれませんが、「安全」かもしれません。

 

 

「揺れ」とはなんだ

 高層階が揺れるか揺れないかを議論する前に「揺れ」とはなにか確認しておく必要があります。「昨日の地震は結構揺れたね」「いや、うちはそんなに揺れなかったかな」といった会話を交わしたことがあるかと思いますが、この「揺れ」の正体は「加速度」です。

 

建物に限らず世の中の全ての物体は、その動きを「変位」「速度」「加速度」で表現することができます。あなたが感じる「揺れ」には変位も速度も関係ありません。加速度だけが影響します。1つずつ紐解いてきましょう。

 

新幹線を例にとって考えてみます。東海道新幹線に乗り、東京から大阪へ行くとしましょう。移動距離は500km程度でしょうか。このときあなたに生じた「変位」は500kmということになります。「変位」とは「元々の場所から動いた距離」のことです。あなたは500kmというとてつもない「変位」を経験したわけですが、ものすごい揺れを感じたでしょうか。「名古屋までなら揺れは小さくなり、博多まで行くとものすごい揺れだ」とはならないでしょう。「変位」は揺れに関係しないのです。

 

「速度」は日常でもよく使う言葉なのでわかりやすいですね。現在「のぞみ」では最高285km/hまで出るそうです。「そんなに速いと揺れるから在来線に乗り換えよう」という人はいませんね。むしろ新幹線の方が揺れは小さいです。ということで「速度」も揺れに関係しません。

 

最後に「加速度」ですが、これは「速度の変化率」です。速度が急激に変化する、つまり急発進、急ブレーキをすると大きな「加速度」が生じます。すると中にいる乗客は座席に押し付けられたり、前につんのめったりします。この、体が前に行ったり後ろに行ったりするのが「揺れ」です。「揺れ」とは「加速度」なのです。

 

あるとき、かの天才アイザック・ニュートンが思いついたわけです。「質量に加速度を欠けると力になる」と。この力を慣性力といい、この慣性力をどの程度感じるかで「揺れた」「揺れない」を判断しているわけです。家具が倒れ、室内がぐちゃぐちゃになるかどうかも「加速度」が大きく影響しています。

 

室内被害は「揺れ」だけじゃない

 「家具が倒れて危ない」だけが室内被害ではありません。壁紙の破れや建具の歪みといった被害も抑えたいものです。そして、これらは「加速度」ではなく「変形」によって生じます。

 

少し混乱したでしょうか。さきほどとは別の例で考えてみましょう。きれいに包装されたお菓子の箱を想像してください。この箱をガサガサ振ると、中のお菓子はぐちゃぐちゃになりますね。これが「家具が倒れた」のと同じ状況です。でも包装自体はそれほど傷んでいないと思います。箱がある程度硬ければ、包装は守られます。

 

ではこの箱を無理やりねじるとどうなるでしょうか。角の部分やねじれの大きい部分から包装紙が破れ始めますね。これが「壁紙が破れた」のと同じ状況です。箱が変形することで、箱にくっついている部分もいっしょに変形し損傷を受けるのです。ただ、このとき中のお菓子はそれほど影響を受けず、きれいに整列したままです。

 

「加速度」による被害と「変形」による被害の2種類あることがおわかりいただけたと思います。

 

超高層建物の揺れ方

 高層階の変形は小さい

 「超高層建物では、高層階の変形が小さい」というと変に聞こえるでしょうか。実際に建物頂部が大きく揺れている映像を見たことがあるかもしれません。でもそれは「変位」であって「変形」ではないのです。

 

「変位」とは「元々の場所から動いた距離」なので「高層階の変位が大きい」は正しいです。しかしそれは「変形が大きい低層階」の上に高層階が載っているからであって、高層階の「変形」が大きいわけではありません。ややこしいですかね。高層階は支えるべき力が小さいので「変形」は小さいのです。

 

高層階は壁紙の破れや建具の歪みが生じにくい、ということです。

 

高層階の加速度は大きい?

東北地方太平洋沖地震ではタワーマンションの高層階に住む方々は大変怖い思いをしたことと思います。「あれだけ揺れて震度5なのか」「震度7が来たらどうなるのか」と思われたことでしょう。ただ、少し安心してください。「地面の揺れが2倍になれば建物の揺れも2倍になる」といった単純なことは起こりません。

 

東北地方太平洋沖地震での観測データを用いて解析を行うと、確かに高層階ほど大きな加速度が生じる傾向があります。しかし、観測データを2倍、3倍と大きくして解析していくと傾向が変化します。

 

建物に生じるひび割れ等の影響で建物の揺れ方の特性が変わり、中層階では地面や低層階よりも最大加速度が小さくなる場合があります。高層階でも、低層階の2倍以上あった最大加速度が低層階と同程度まで小さくなる場合もあります。

 

もちろん地震の特性やその他諸々により変化しますが、あまり悲観し過ぎることはよくありません。ただし、地面の揺れが収まったあともしばらく後揺れが続く(揺れが収まらない)可能性があります。後揺れに関しては完全に高層階ほど大きいので、それが嫌な場合は揺れを抑える装置(ダンパー)があるといいかもしれません。

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時刻歴応答解析

建物の高さが60mを超えると、この「時刻歴応答解析」が必須になります。通常の建物だと「この建物をゆっくり横に押していくといつ壊れるのか」というやり方で間接的に地震に対する強さを計算します。時刻歴応答解析では「地面がこう揺れたら建物はこう揺れて、次に地面がこう揺れたら建物はこう揺れて、さらにその次地面が・・・」を延々と繰り返すことでいろいろな地震に対する強さを直接的に計算します。

 

どちらがより正確か明らかでしょう。被害を受けたときに甚大な影響がある分、しっかりと計算されているのです。

 

低層建物よりもタワーマンションが大きく揺れる地震は存在します。もしかしたら怖いときもあるでしょう。でも、安全性は高いですよ