建物に生じる重力や地震の力を地盤まで伝えるのが柱や梁などの構造部材の役割です。
□■□疑問■□■
構造設計では「力の流れをイメージしろ」とよく言われます。具体的にどういったことを指すのでしょうか。
□■□回答■□■
建物は地盤に支えられています。そのため建物に生じた力は全て、最終的には地盤まで伝達されなければいけません。水平な部材である床や梁と、鉛直な部材である柱や壁を不連続なく繋げてやる必要があります。力の流れを、順を追ってみていきましょう。
重力の伝達
床⇒梁
重力は建物内にある、ありとあらゆるものに作用します。特に床の高さには、柱や壁以外の大半の重さが集中しています。床の上にある人や物はもちろん、梁も床にくっついていますし、耐震壁以外は壁も床や梁に支えられています。
鉄筋コンクリート造(RC造)でも鉄骨造(S造)でも床はコンクリートで造られており、「床スラブ」と呼ばれます。厚さは150mm程度で、水平な一枚の大きな板のようなものです。大抵は4辺を梁によって支えられており、まずはこの梁まで力を伝達しなくてはなりません。
床スラブは水平(横)に設置されており、重力は鉛直(縦)方向に作用するので、部材と力の向きが違います。この、部材に直交する力を「せん断力」と言います。「せん断力」は部材をずらそうとする力です。はさみで紙が切れるのもせん断力によるものです。
「せん断力」は床全面に作用しますが、床を支えてくれる梁は4辺にしかありません。力がかかる位置と力を支える位置がずれていると、部材を回転させようとする力が働きます。これを「力のモーメント」と言います。
床スラブが「せん断力」と「力のモーメント」に抵抗できるよう設計することで、梁まで力を伝達することができます。床スラブ内に生じる「せん断力」に抵抗する力を「せん断応力」、「力のモーメント」に抵抗する力を「曲げモーメント」といいます。
力学的には用語をしっかりと使い分ける必要がありますが、感覚的には「ずらす力」と「回転させる力」があることを理解しておけばいいです。
梁⇒柱
床から梁に力が伝わってきました。
梁も床同様水平な部材なので、床から伝わる「せん断力」は梁にも「せん断力」として作用します。「せん断力」は梁全面に作用しますが、梁を支えてくれる柱は両端にしかありません。力がかかる位置と力を支える位置がずれているので、やはり「力のモーメント」が作用します。
床の「曲げモーメント」は、梁をねじれさせようとする方向に作用します。しかし、梁はねじれに対して強くないため、あまり大きな力を負担できません。
ではどうなるかというと、床の中央部の「曲げモーメント」が大きくなり、梁に接する床の端部ではほとんど力が作用しなくなります。「力のモーメント」は「せん断力」に応じて発生する「おまけの力」なので、実は地盤まで伝達する必要はなく、建物内部で処理ができてしまいます。
梁の反対側にも床がある場合、両側の床の「曲げモーメント」同士が釣り合うことで床の端部まで力を伝えることができます。梁に生じる力は床同士で打ち消しあうことになるので、ほとんど生じません。
結局梁にも床と同じように「せん断力」と「力のモーメント」が作用します。若干違うのは、床スラブが「面」であるのに対し、梁は「線」であるということです。床スラブでは4辺を目指して二次元的に力が伝わりますが、梁では両端を目指して一次元的に力が伝わります。
梁が「せん断力」と「力のモーメント」に抵抗できるよう設計することで、柱まで力を伝達することができます。
柱⇒基礎・地盤
柱まで力がやってきました。
重力は、梁にとって部材と直交する方向でしたが、柱にとっては部材と同じ縦方向です。この、部材に平行する力を「軸力」と言います。「軸力」は部材を伸び縮みさせようとする力です。梁から伝わってくる「せん断力」は柱に「軸力」として作用します。
上の階の柱からも「軸力」が伝わってくるので、下の階の柱にはどんどん「軸力」が蓄積されていくことになります。そして柱から基礎、基礎から地盤へと最終的に力が伝達されていきます。
では重力により柱に「せん断力」が作用しないかというと、そうではありません。まず、梁に生じている「曲げモーメント」が柱を回転させようとします。しかし、柱の足元は固定されているため横に動くことも回転することもできません。この柱を回転しないよう拘束する力が柱に作用する「せん断力」および「力のモーメント」になります。
柱が「せん断力」、「力のモーメント」、「軸力」に抵抗できるよう設計することで、基礎および地盤まで力を伝達することができます。
地震の力の伝達
床⇒柱・壁
地震の力は慣性力、つまり重さ×加速度で生じます。そのため重さが集中する床に大きな力が生じます。重力とは違い水平方向に作用するので、床スラブを面外に曲げるのではなく、面内にずらすような「せん断力」が作用します。
面内の変形に対しては非常に硬くて強いため、梁に頼らずとも床から柱や壁まで直接力を伝達することができます。
柱・壁⇒基礎・地盤
床から伝達される「せん断力」は柱や壁に対しても直交方向の力なので、柱や壁にも「せん断力」が作用します。また、力が掛かる部分(部材の頂部)と力を伝える先(部材の脚部)には距離があるので、「力のモーメント」も作用します。
梁は柱や壁に繋がっていますので、「力のモーメント」が梁を回転させようとします。しかし梁は回転しようにも両端を柱や壁に固定されているので回転できず、「せん断力」が作用します。この「せん断力」は鉛直方向(縦方向)の力のため、柱や壁には「軸力」が作用することになります。
結局柱や壁には重力の時と同様、「せん断力」、「力のモーメント」、「軸力」が作用し、それが基礎へと、そして地盤へと伝わっていきます。
設計上の留意点
柱の連続性
柱にはどんどん上の階からの軸力が蓄積します。建物下部で柱の位置がずれると、その蓄積された軸力をどうにかして伝達しなくてはなりません。そのため、できるだけ柱を連続させるべきです。
どうしても柱をずらす場合は「上の階の柱の軸力」⇒「その柱を支える梁のせん断力」⇒「下の階の柱の軸力」という順で力が伝達されるため、梁には大きな負担がかかります。十分余裕を持った設計が必要でしょう。
壁の連続性
3階では壁が東面に、2階では西面に、そして1階では再び東面にだけある建物を考えてみましょう。地震時に3階に生じた地震力は東面の壁に集中します。そして2階では西面の壁に集中します。3階の壁が負担していた地震の力は、どうやって2階の壁まで伝達されたのでしょうか。
答えは「3階の床を通って2階の壁まで伝達されている」です。そして次は2階の床を通って逆側の1階の壁まで伝達されていくのです。力が上から下に真っ直ぐ降りていくのではなく、ジグザグに降りていくことになります。
地震時には「床は硬くて強いもの」という仮定の下構造計算を行いますが、こうした極端な設計では床の設計をしっかり行う必要があります。
穴だらけの床
エレベーター等の縦動線や大きな吹き抜けがあると、床に接していない柱や壁が出てきます。この柱や壁に地震の力を負担させる場合は、どうやってそこまで地震の力を伝達するか考える必要があります。
床の追加が難しい場合には、その材に取り付いている梁の「軸力」により伝達する必要があります。梁は通常「軸力」の負担を考慮していない部材なので、従来とは違う設計をすることになります。どうしても力の伝達ができない場合には、その柱や壁に期待しない設計に切り替えることになります。
構造計算ソフトでは特別に指定しない限り床の抜けを考慮しないで計算を行います。設計の初期から力の流れを考えておかなければなりません。