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ポアソン比はこう使う!せん断変形と免震ゴムの理解に必須の知識

ゴムでできたブロックを上から押すと、グニッと縦方向に潰れます。そして、横方向にはグニッとはらみ出します。

 

逆にブロックをつまんで上に引っ張ると、グイっと縦方向に伸びます。そして、横方向にはグイっとお腹が引っ込んだようになります。

 

押すと膨らんで、引っ張ると細くなる、この太さの変化の比率を「ポアソン比」と言います。材料ごとに値が決まっており、ゴムでは0.5弱、金属では0.3前後になります。

 

構造計算における登場頻度が高くはありませんが、やはり構造設計者としてはしっかりと理解しておくべきです。「せん断変形」や「免震ゴム」を考えるうえでは必須の知識です。

 

 

ポアソン比の定義

「物体の弾性範囲内で応力を加えたときに、応力の直交方向に生じるひずみと、応力方向に生じるひずみとの比」がポアソン比です。これでは表現があまりにもお堅いので、もっと噛み砕いて説明します。

 

弾性

まず「物体の弾性範囲内」とは、「力を抜くと変形が元に戻る範囲」のことです。バネにオモリを吊るすと伸びるが、オモリを外せば元の長さに戻る、ということです。

 

しかし、オモリが重くなり過ぎると、バネが伸び切ってしまいます。こうなると、オモリを外しても元には戻りません。

 

変形が残るということは、物体に損傷が生じたということです。ポアソン比は、物体に損傷が生じない範囲で力を加えた場合において有効な数値であることがわかります。

弾性・非弾性・弾塑性とは?設計の際に欠かせない視点

 

ひずみ

次に「応力の直交方向に生じるひずみ」と「応力方向に生じるひずみ」とは、冒頭に挙げたように「押されたり引っ張られたりして、横にはらみ出たり引っ込んだりした度合い」と「押されたり引っ張られたりして、縦に伸びたり縮んだりした度合い」のことです。

 

ここで重要なのは、横や縦に変形した「量」ではなく、「度合い」であるという点です。「ひずみ」というのは、部材の長さに対する変形の割合を指します。

 

長さが10cmの棒と100mのロープとでは、同じ1mmの変形でも意味するところは違います。棒にとっては1%も長さが変化したことになりますが、ロープにとってはたかだか1/1000%です。

 

計算例

ポアソン比のとても簡単な計算例を挙げます。

 

ある材料でできた長さ50cm、直径4cmの円柱状の棒があります。この棒を引っ張ると、長さが2mm長くなり、直径が0.04mm細くなります。では、この材料のポアソン比はいくらでしょうか。

 

応力方向のひずみ:2mm/50cm=0.4%

直交方向のひずみ:0.04mm/4cm=0.1%

 

ポアソン比:0.1/0.4=0.25 というように求めることができます。

 

実際にはひずみには正負があります。そのためマイナスをつけて符号を変える必要があるのですが、普通の材料では正の値になることさえ知っていればいいかと思います。

 

単位

ポアソン比には単位はありません。単位が無い「ひずみ」と「ひずみ」の比率なので、当然ポアソン比自体にも単位がありません。

 

比率を表す値を「%」で表記する場合がありますが、ポアソン比については使用されていないようです。単に、0.3だとか0.4とだけ表記されます。

 

コンクリート・鋼材・木材のポアソン比

ポアソン比は材料固有の値です。建築で使用する各材料が、大体どのくらいの値になるかは覚えておいて損は無いでしょう。

 

コンクリート

コンクリートは砂、砂利、水、セメントの混合材料です。その配合によって特性は変化しますが、ポアソン比は1/51/7程度の値をとります。

 

構造設計時に使用する値としては、1/61/50.2が多いと思います。

 

鋼材

鋼材のポアソン比は0.3、これ一択です。

 

後述しますが、鋼材についてはポアソン比の値が重要になることはほとんどありません。とりあえず値だけは暗記しておきましょう。

 

木材

木材は加力する方向によって性質が異なります。繊維方向、半径方向、接線方向、それぞれポアソン比の値も違います。

 

当然樹種によって値は違いますし、自然材料のためばらつきも大きいです。正確に検証したい場合は、その都度実験して値を求める方がよさそうです。

 

特異なポアソン比:0.5と負の値

ポアソン比0.5とは

金属系の材料では大体ポアソン比の値は0.3程度ですが、ゴム系の材料では0.5に近い値になります。ただ、決して0.5を超えることはありません。

 

立方体で考えてみましょう。ポアソン比が0.5ということは、上からグッと押しつぶした分の半分だけ、前後・左右に膨らむということです。変形量が非常に小さい範囲だと仮定すると、実はこのときの体積変化はゼロになるのです。

 

証明は別に難しくはないのですが、わかりやすいよう具体的な数字で計算してみましょう。

 

一辺が1の立方体を0.001だけ押し潰すと、その正方形の断面は一辺が0.0005だけ長くなります。その体積は

 

10.001)×(10.0005)×(10.0005)=0.99999925

 

となり、ほぼ1ですね。ほとんど変化していないことがわかります。

 

では、もしポアソン比が0.5を超えるとどうなるのでしょうか。その場合、押し潰せば押し潰すほど断面が広がっていってしまうので、体積は増加することになってしまうのです。

 

潰すほど大きくなる材料、そんなものはありませんね。だからポアソン比は0.5までなのです。

 

ポアソン比がマイナスとは

押すと太くなり、引っ張ると細くなる、これが普通の材料です。では、押すと細くなり、引っ張ると太くなるようなものは存在しないのでしょうか。

 

もしそうした材料があれば、ポアソン比の定義に従えば「ポアソン比がマイナス」の材料ということになります。

 

実際にそうした材料があるかと言うと、実は稀にではありますが存在します。ただ、建築の構造体に使用されることは無いでしょう。

 

しかし、特殊な材料を使用しなくても、ポアソン比がマイナスになる「部材」を作ることは可能です。アイデアコンペなどで提案されているものもあります。

 

ポアソン比の使いどころ

「ポアソン比が大きいから、柱が横に膨らんじゃって困るよ」と悩む構造設計者はいません。せいぜい鉄骨の柱の軸方向ひずみは0.1%、その30%である0.03%だけ柱が太くなったところで困る人はいません。

 

では、太さの変化についての検討が必要ないのであれば、一体何にポアソン比を使うのでしょうか。

 

せん断剛性の算出:ヤング率とせん断弾性係数

物体の縦の変形には「縦」と「横」があり、縦は「伸び縮み」、横は「ずれ」による変形です。専門的に言うと、縦は「軸方向変形」であり、横は「せん断変形」です。

 

ポアソン比とは物体の縦と横のひずみの関係ですので、つまりは軸方向変形とせん断変形の関係性を表す値ということです。

 

物体には縦の変形に対する硬さである「縦弾性係数(ヤング率)」と、横の変形に対する硬さである「横弾性係数(せん断弾性係数)」があります。この2つの値は互いにポアソン比によって表現することが可能なのです。

 

ヤング率=2(1-ポアソン比)×せん断弾性係数

 

「ヤング率」はコンクリート強度が分かれば計算式により求めることができます。そしてポアソン比が分かれば「せん断弾性係数」を求めることができます。

 

鉄筋コンクリートの壁は、主として「せん断変形」をします。そのため、コンクリートのせん断弾性係数を知ることは非常に重要になります。

 

ただ、鉄骨造のラーメン構造では「曲げ変形」が主となります。そのため、せん断弾性係数が多少変化しようとあまり計算結果に影響はありません。

 

免震ゴムの開発:縦に硬く横に柔らかい

前述のように、ゴム系の材料はポアソン比が0.5に近い値を示します。これは「上から押し潰すと横に膨らんで、ほとんど体積変化が生じない」ということです。

 

逆に言うと、「横に膨らまないようにすれば、めちゃくちゃ硬くなる」ということでもあります。

 

免震建物を実現するには、「建物の重量を支えるために鉛直方向(縦方向)には硬く、地震の力を受け流すために水平方向(横方向)には柔らかい」部材が必要でした。

 

そのため、薄いゴムと鋼板がミルフィーユ状になった「免震ゴム」なる製品が開発されました。

免震建物を支える免震ゴム:強くて柔らかいを実現する秘密

 

薄いゴムの上下は鋼板で拘束されており、横に膨らみにくい構造になっています。そのため、鉛直方向に対して非常に硬くなっています。

 

ただ、水平方向に関しては拘束がありません。ゴムが横にずれても、上下の鋼板はそのままゴムの変形についていくだけです。

 

ポアソン比についてしっかり理解していないと、こうしたアイデアは出てきません。何か新しいことをしたいと思うなら、構造力学の基礎は疎かにできません。

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