バッコ博士の構造塾

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マンションと一戸建ての耐震性能比較:本当に地震に強いのはどっち?

結婚や子供の誕生、その他人生の節目を迎えると、自分の家を購入するかどうか検討する人が増えます。

 

昔から「賃貸が得か、購入が得か」の議論は尽きませんが、購入するとしたら「マンションか、一戸建てか」というのも大きなテーマです。

 

結局、どちらの問いも正しい答えがあるわけではなく、その人のライフスタイルや価値観に依って変わるでしょう。外野がとやかく言う問題ではありません。

 

ただ、正しい判断を下すには正しい情報が必要です。そして情報が溢れている昨今、根本的に間違っているもの、比較が適切でないものも相当数あります。

 

ここでは純粋に「耐震性」にのみ特化した正しい情報をお伝えしようと思います。

 

 

最高の性能

同じ一戸建てでも地震に強いものと弱いものがありますし、当然マンションでも地震に強いものと弱いものがあります。

 

弱い一戸建てと強いマンションを比べて「マンションの方が強い」と主張しても何の意味もありません。

 

そこで、ある特定の条件の下で実現できる最高の性能の比較を行いました。

 

層数で比較

一戸建てとマンションの大きな違いの一つとして「建物の規模」があります。平面的にも立面的にも大きく違います。

 

一戸建てであれば大半が2階建てです。平屋や3階建てもありますが、4階建て以上はよほどのお金持ちでなければありません。

 

一方マンションでは3階建て以下というのは少なく、高いものでは30階、40階以上です。

 

では、低層の建物と高層の建物、どちらの方が地震に強い建物にできるでしょうか。これは明らかに低層の建物の方が強い建物にすることができます。

 

建物を上に積めば積むほど1階部分の単位面積当たりの負担重量が大きくなります。そして重量が大きくなれば、それだけ地震の力も大きくなります。

 

低層だろうが高層だろうが、1階に配置できる柱や壁の量には差がありません。であれば、地震の力が相対的に小さい低層建物の方が強くできるのも当然です。

 

実際には低層では柱・壁を小さく、高層では大きくすることで性能のバランスを取っています。そのため、「低層が強くて高層が弱い」ということが一般的に成り立つわけではありません。

 

ただ、「耐震性能を上積みしたい」、「普通よりも強い建物にしたい」と考えたときに余裕を持ってできるのは低層の建物ということになります。

 

建築基準法に定められた耐震性能を大幅に超える建物の比率としては、高層建物よりも低層建物の方が格段に高いでしょう。

 

材料で比較

次は使用する材料での比較です。

 

一戸建てでは木造、マンションではRC造(鉄筋コンクリート造)が圧倒的に多いですので、木と鉄筋コンクリートの比較を行います。

 

木造の耐力壁は、その強さに応じて「壁倍率」という数値が割り当てられています。壁倍率の最大値は現在5とされています。

 

壁倍率1の壁は、壁の長さ1mあたり200kgfの力に耐えられます。これは「200kgfで壊れる」ということではなく、「200kgfまでならあまり問題無い」ということです。

 

最も強い木造の耐力壁は壁倍率が5なので、1mあたり200kgfの5倍の1000kgf(1tf)まで耐えられることになります。

 

ではRC造の壁はどうでしょうか。一般的な厚さである180mmとして考えます。

 

鉄筋をふんだんに入れれば、2N/mm2程度のせん断(壁が横にずれる)の力は負担できるでしょう。さらに鉄筋を増やすことも不可能ではないですが、現実的な範囲としてこの値を採用します。

 

2N/mm2に断面積を乗じてやると、約36,000kgf(36tf)になります。木造の36倍も耐力があります。室内空間を多少狭めてもいいなら、壁を厚くすることでさらに強くすることも可能です。

 

しかし、壁の強さだけを単純に比較して耐震性能を論じてはいけません。建物の重さ自体が全く違うからです。

 

木造よりもRC造の方が大幅に重く、一般階の単位床面積当たりの重量は5倍以上になる場合もあります。その分だけ地震の際に生じる力も大きくなります。

建物の重さの話 :耐震性・安全性を計る基礎の基礎

 

ということでRC造の方が約7倍(強さ36倍÷重さ5倍)強くできる、ということになります。

 

また、壁の「硬さ」という点でも圧倒的にRC造の方が上です。木造の壁に比べてRCの壁の方が最大の力を発揮するまでの変形が非常に小さいのです。

 

建物の耐震性を上げるには「強さ」と「硬さ」の両方が重要になります。

「剛性」と「強度」の違い:剛性と強度のどちらが大きいと安全なの?

 

建物が硬くなると変形が小さくなり、建具や内装の被害が軽減されます。また、地面から伝わってくる揺れが建物内で増幅しにくくなり、結果として地震力が小さくなります。

 

よって、RC造の方が木造よりも耐震性が高い建物にすることができそうです。

 

免震建物の性能

今までは「地震の力に如何に耐えるか」という「耐震」の考え方で比較してみました。次は「地震の力を伝えない」という「免震」の考え方で比較してみましょう。

 

免震は建物が壊れにくいのはもちろんのこと、室内で感じる揺れの大きさも劇的に小さくなります。家具の転倒等によるリスクを大幅に軽減でき、現時点で最高の地震対策技術と言えます。

免震構造がよくわかる:固有周期・振動モード・エネルギー吸収

 

以前は特殊な技術でしたが、今ではかなり一般化してきています。ただ、軽い建物、低層な建物は設計が難しいという特徴があります。

免震構造の設計:押さえておきたい基本の数値と装置の特徴

 

「軽い」、「低層」、この2つの条件に木造の一戸建てはぴったりと当てはまります。ビルと同じような装置を用いるとうまく設計ができないため、一戸建て専用の装置を用いる場合が大半です。

 

そのため同じ免震建物であっても、一戸建てとマンションでは異なる免震装置を使っていることになります。そして、免震の性能としてはマンションの方が優れています。

 

免震にすれば一戸建てでもマンションでも同じだと思っている人は注意してください。もちろん一戸建てであっても、お金さえ掛ければマンションと同等の性能の免震にすることは可能ではあります。

木造住宅なら耐震で十分である:構造の専門家がたどり着いた結論

 

一般論として

前述のように、高層よりも低層、木造よりもRC造の方が強い建物にできます。

 

最高性能の比較で言えば

RC造一戸建て低層のRCマンション 木造 一戸建て 高層マンション

となるでしょう。

 

また、免震であれば一戸建てよりもマンションの方が高い性能を期待できる場合が多いです。

 

しかし、「じゃあ一般的にはどっちが強いの」と聞かれるとなかなか答えづらくなります。答えを知るために実際に建物を壊すことはできないので、巨大地震を待つしかないからです。

 

そして、大きな地震が起こったからと言って、基本的に最新の基準を満たした建物は大して被害を受けていません。被害を受けた建物はどこかしら設計や施工にまずい点がある場合が多いです。

 

また、同程度の性能を目指して設計された建物が隣同士に建っているわけでもありません。設計時に想定した性能が違えば、建物の被害状況を比べても何の比較にもならないのです。

 

もちろん平均的な被害の度合いから推し量ることは可能です。ただ、発生する地震の特性によって、被害が出やすい建物が変わることを考慮しなくてはなりません。

共振現象の恐怖:建物と地盤の固有振動数・固有周期の関係

 

長々と書いておいて恐縮ですが、よくわからないというのが本当のところです。肌感覚的に強さは同程度、ただし性能のばらつきが大きいのは一戸建て、という感じです。

 

耐震性を上げるには当然コストがかかります。わざわざ利益を削ってまで耐震基準を大幅に超える建売住宅や分譲マンションを建設するデベロッパーは多くないでしょう。

 

絶対に壊れない建物というのは実現不可能ですが、それに近い性能を求めるなら自分で建てるしかありません。低層の注文住宅であれば、何造でも相当に強い建物とすることができるでしょう。

 

ただ、建売でも注文でも、賃貸でも分譲でも、一戸建てでもマンションでも、優秀な構造設計者が担当すれば大きな問題は出ないということは言えるでしょう。

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