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免震構造の設計:押さえておきたい基本の数値と装置の特徴

免震構造の普及に伴い、大手設計事務所、大手ゼネコン以外も免震構造の設計を行うようになっています。

 

□■□疑問■□■

免震構造はゴムや鋼製のレール、いろいろなダンパーが使われているようですが、使用する装置で何か変わるのでしょうか。

 

□■□回答■□■

免震構造は「免震層」と呼ばれる柔らかい層が設置されているわけですが、この免震層をどのように構成するかが重要です。建物の重さを支える「アイソレーター」あるいは「免震支承」と呼ばれる装置も複数ありますし、エネルギー吸収を行う「ダンパー」もたくさんあります。それぞれの装置の組み合わせにより、免震層より上にある建物の揺れ方が変化します。

基本的に免震層は大地震に対して最も性能を発揮するように設計されています。しかし、実際によく発生するのは中小地震や風揺れです。比較的小さな揺れに対する設計が疎かにされている場合もあるため、「免震だから」と盲信せず、しっかりと見極める必要があります。

 

 

免震層の設計の基本となる数値

世の中にはすでにたくさんの免震建物が建てられています。先人達が積み重ねてきた知見があるため、通常の建物同様、免震構造の設計においても「大体これくらい」というオーダーが存在します。

 

固有周期

一番よく言われるのが「固有周期4秒」という数値です。固有周期とは揺れが一往復するのにかかる時間で、免震構造において最も重要視される値です。建物の揺れ方を端的に表す指標だからです。

 

免震建物以外の建物では一般的に建物高さ(m)に0.02~0.03を掛けた値が固有周期(秒)になります。高さ30mなら0.6~0.9秒、高さ100mなら2~3秒ということになります。

 

過去に観測された地震を調べてみると、固有周期1秒前後の建物に対して大きな被害を与えるような性質を持ったものが多くありました。逆に、固有周期4秒を超えるような範囲にはあまり影響が無いということがわかりました。

 

固有周期4秒を超え、5秒、6秒と言った設計も可能ではありますが、それほど地震力を小さくする効果は変化しません。そのため4秒が1つの目安となっています。

 

ダンパー量

免震層は地震の揺れを遮断するだけでなく、建物に生じた振動のエネルギーを吸収する場所でもあります。エネルギーの吸収は「ダンパー」と呼ばれる装置を用いるのですが、このダンパーにも最適量があります。ダンパーが少な過ぎると免震層が変形し過ぎてしまいますし、ダンパーが多すぎるとブレーキが効き過ぎて免震の効果が薄れてしまうのです。

 

そのため「ダンパーの力の総和は建物重量の3%」と言われます。ダンパー1台で100tくらいの力で揺れを止めようとするので、6000tくらいの重さの建物であれば東西方向、南北方向それぞれ2台ずつ、計4台設置すれば十分ということになります。

 

似たような目安として「減衰定数は20%」というのがあります。減衰定数とは「どのくらい揺れが収まりやすいか」という指標で、100%だと1往復で揺れが止まり、0%だと永遠に揺れ続ける、というものです。通常の建物では1~5%程度と幅のある分布をしています。結局先ほどの「重量の3%」と似たような台数のダンパーが必要となりますので、どちらでもあまり関係ありません。

 

実際には建物の特性や建設地の地盤の影響を受けますので都度調整は必要になりますが、知っておくと便利な指標です。

 

免震層の変形

免震構造では免震層が変形することで地震の揺れをやり過ごすため、免震層には大きな変形能力が必要とされます。大きく変形させるほど地震力は低減しますが、建物周囲に大きなスペースが必要となったり、変形能力の高い装置を使ったりとコストが増加する傾向にあります。

 

変形が小さくても高い効果を発揮する免震が理想ではありますが、理論的には実現できなさそうです。「免震層の変形は30cm強」というのが性能とコストのバランスがいいとされています。もちろん20cm程度に抑えることも可能ですが、若干性能は落ちます。

 

どうしても変形させたくないし、性能も落としたくないとなると、もう空を飛ぶしかないかもしれません。

エアー断震は免震よりも優れているのか?

 

免震支承の違い

免震効果を発揮するには水平方向に柔らかくする必要があります。何百t、何tという建物の重量を支えながら、水平方向に柔らかくする装置が免震支承です。

免震構造がよくわかる:構造設計者がまじめに解説してみた

 

免震ゴム

免震ゴムの方が一般には馴染みがあると思いますが、構造設計者は「積層ゴム」と呼びます。積層ゴムと一口に言っても、いくつか種類があります。

参照:積層ゴム

 

天然ゴム系積層ゴム(NRB:Natural Rubber Bearing)」

最もオーソドックスな装置です。特徴としては「変形が大きくなっても硬さが変わらない」ということです。「なんだそんなことか」と思われるかもしれませんが、30cm、40cmと変形しても性能が変わらないというのは、なかなかすごいことです。また、「エネルギー吸収をしない」というのも重要なポイントです。

 

性能が変形によらず一定なため設計がしやすく、エネルギー吸収に関しても好きなダンパーを組み合わせることができるので、狙った性能を出しやすい装置です。

 

高減衰ゴム系積層ゴム(HRB:Hi damping Rubber Bearing)」

ゴム自体がエネルギー吸収性能を有する装置です。そのため、ダンパーを併用する必要があまりありません。エネルギー吸収をするゴムというのは複雑な特性を持っており、モデル化が非常に難しいのが特徴です。

 

販売しているゴムメーカー以外でモデルの中身を完全に理解している人はどれくらいいるでしょうか。理解できないものは使用したくないという構造設計者も多そうです。

 

建物が柔らかく変形するためのバネと、エネルギー吸収をするダンパーが一体化しているので、細かい調整がしづらい部分があります。エネルギー吸収に特化した装置に比べると、エネルギー吸収性能が劣る面もあります。

 

鉛プラグ入り天然ゴム系積層ゴム(LRB:Lead Rubber Bearing)」

装置の中央部に鉛プラグと呼ばれる鉛製の芯を入れてあり、この芯がエネルギー吸収を行います。その他の部分は天然系積層ゴムなので、変形による性能の変化はありません。

 

鉛プラグ以外にも錫製や特殊合金製、ゴムと鉄粉を混ぜたようなものもあります。エネルギーを吸収する芯の違いだけで、他に違いはありません。

 

バネとダンパーが一体化している点では先ほどのHRBと同じですが、それぞれ別の材料を使っているため、エネルギー吸収能力も悪くありません。ただ、芯材は微小変形時には硬く、ある変形量を超えると軟化してエネルギー吸収を行います。そのため小さい地震に対しては免震効果が薄くなる場合があります。

 

ペンデュラム

球面上のお皿の中にビー玉を転がすと、一定の周期で行ったり来たりをくり返します。ビー玉の重さや大きさによらず、その周期はお皿の曲率によってのみ決まります。この原理を利用した免震装置を「滑り振り子型免震装置(FPS:Friction Pendulum System)」と言います。

巨大な球面上の受け皿とその中を滑る鋼製の台でできています。

 

Friction(摩擦)という言葉からもわかるように、球面は完全にツルツルで摩擦が無いわけではなく、小さな揺れでは滑り出さないようになっています。鋼製ですので、滑り出すまでは非常に硬く、免震効果は一切ありません。

 

この装置の利点としては、前述のゴムの装置では建物の重さによって若干固有周期がばらつくのに対し、建物の重さには一切関係せずに球面の曲率だけで固有周期が決まることです。設計時に想定した建物の重さは建物内の家具の量や人の位置、その他諸々により変化するため、この装置を使用したほうが固有周期に関しては信頼性が高いと言えます。

 

滑り支承

建物の固有周期をできるだけ長くしたいとき、そんなときは復元力(元の位置に戻る力)を持たない「滑り支承」を使用します。

 

弾性滑り支承」と呼ばれる装置は上述の積層ゴムと似たような構成をしています。しかし、片面は建物か基礎にしっかりくっついているのですが、もう片面はツルツル滑る板に乗っているだけです。最初はゴムが変形するのですが、力が一定値を超えると滑り出します。ゴムによる力が増えていかないため免震層が柔らかくなり、建物をゆっくりと揺らすことが可能です。また、この時の摩擦を利用してエネルギー吸収も行います。

 

直動転がり支承(CLB:Cross Liner Bearing)」と呼ばれる装置は十字に組んだ鋼製のレールです。非常に摩擦が小さく、建物をゆっくりと揺らすことができます。また、鋼材同士が噛み合っているため、引っ張る力にもある程度耐えられます。ゴムではちぎれてしまうようなところに設置することが多いです。

 

ダンパーの違い

免震支承にもエネルギー吸収効果がある装置も多いですが、それだけでは足りない時にダンパーを設置します。

 

免震層の変形ではなく、変形するときの速度によってエネルギー吸収を行うのが「オイルダンパー」です。変形だけでなく加速度を小さくすることに長けた装置で、このダンパーを使用した免震が最も性能を高めることができます。他の装置とは違い、東西、あるいは南北の一方向にしか作用しないため、両方向に設置する必要があります。

参照:制振ダンパー

 

「U字型」に曲げた鋼材をいくつも組み合わせたのが「鋼材ダンパー」で、「く」の字のように曲げた太い鉛の塊のようなものが「鉛ダンパー」です。どちらも変形により金属が軟化することでエネルギー吸収を行います。やはり軟化するまではエネルギー吸収をせず硬いため、小さな地震に対する免震効果は下がってしまうことが多いです。

 

免震装置のサイズ

積層ゴムは小さいものは直径が30cm、大きいものになると直径が100cmを軽く超えます。ゴムの厚さは直径の1/5とすることが多く、直径100cmならゴム厚は20cmです。

 

ゴム厚の4倍までは変形が可能なのですが、天然ゴム系積層ゴムの場合2.5倍から3.0倍くらい変形すると硬くなり始めます。柔らかいことで免震効果を発揮しているので、硬くなるのはいいことではありません。

 

そのため、大地震に対してゴムの変形をゴム厚の2.5倍までに制限する場合があります。免震建物は建物の規模によらず同程度の固有周期(4秒)としているため、大地震時の変形は規模によらず同程度になります。一般的な免震層の変形30cm強に少し余裕を見て40cmとすると、16cmのゴム厚、つまり直径80cmの支承が必要になります。

 

固有周期を4秒にするには、建物の重さに応じてバネを変えなくてはなりません。直径80cmの支承は低層建物には大きすぎることになります。そのため「低層の免震の設計は難しい」と言われることがあります。

 

こういうときは滑り支承を使用するなど、全ての支承を積層ゴムにするのではなく、いろいろな装置を組み合わせることで達成します。過度に小さい支承を使っている場合は必ず構造設計者に意図を確認してください。

 

風揺れ

建物が高層になると、基礎のサイズに比べて受風面積が大きくなり、風によって免震層が大きく変形する場合があります。そうならないためには、積層ゴムだけでなく鋼材ダンパー等の硬い装置を組み合わせることで対応します。

 

ただ、超高層になってくると、風によって鋼材ダンパーが軟化してしまうほどの力が生じます。鋼材ダンパーは多数回の繰り返しには弱いので、風で軟化させると不具合に繋がります。その場合は特殊なオイルダンパーを用い、風速に応じて変形を制御するようなことも行います。

 

ちなみに、鉛ダンパーも硬い装置ではあるのですが、ゆっくりと押し続けるとズルズルと変形が進行してしまうという性質があります。そのため風の影響が大きい免震建物には向いていません。

 

まとめ

同じ免震と言えどいろいろな装置があり、その組み合わせによって性能が変わることがご理解いただけたかと思います。長々と書いてきましたが、これは免震構造の設計における留意点の1つに過ぎません。

 

地盤の特性、縦揺れ、ゴムに生じる引張力、性能のばらつき、その他いろいろな要素があります。「結構免震ってすごいのかも」とご理解いただけたら幸いです。また、「免震なら全て安全安心」とは言い切れないことも知っておいてほしいです。

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