バッコ博士の構造塾

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減衰とは何か:減衰係数と減衰定数の違いと建築物の各種減衰の紹介

地震が起こって建物が揺れても、台風が来て建物が揺れても、いつかは揺れが収まります。揺れが収まるのは「減衰」があるからです。

 

□■□疑問■□■

減衰がよくわかりません。いろいろな用語があって、混乱します。「減衰とはこういうもの」というのがあれば教えてください。

 

□■□回答■□■

「減衰」とは建物が振動するエネルギーを吸収・消散し、時間の経過とともに揺れを小さくしていく効果のことです。建物の重さや硬さに比べ未解明な部分が多く、よくわかっていないというのが現状です。そのため「こう設定するのが正しい」という決まったやり方が存在しておらず、それがより理解を難しくしています。

用語の意味を説明するとともに、実設計における設定方法をいくつか紹介します。また、制振ダンパーによる減衰についても併せて紹介します。

 

 

減衰係数(粘性減衰係数)

速度に比例して力を発揮する

建物に限らず、物体の振動の状態は「加速度」「速度」「変位」で表されます。建物に力が加わることで揺れが生じるわけですが、この「加速度」「速度」「変位」と力はどのような関係にあるのでしょうか。

 

まず、「加速度」とは「速度の変化率」です。速度が急激に変化する、つまり急発進、急ブレーキをすると大きな「加速度」が生じます。「重さ」×「加速度」が建物に生じる力になります。

 

次に、「変位」とは「元々の場所から動いた距離」のことです。「硬さ」×「変位」が建物に生じる力になります。

 

最後の「速度」は特に説明不要でしょうが、「物体が動く速さ」のことです。では「速度」が建物に生じさせる力は一体何に比例するのでしょうか。ここで出てくるのが減衰です。「減衰係数」×「速度」が建物に生じる力になります。

 

「減衰係数」とは「物体の動く速さに応じて生じる力を表す係数」ということができます。これだけでは、なんだかよくわからないかもしれません。まずは建物が揺れるときに「重さ」や「硬さ」と同様に揺れ方に影響を与えるもの、と認識してください。

 

「重さ」と「硬さ」とは違うタイミングで力を発揮する

「変位」が最大になったとき、「硬さ」による力が最大になります。変形した建物を強く元の位置に戻そうとするためです。

 

実は、「変位」が最大に達したときに「加速度」も最大になります。今まで右方向(または左方向)に向かって動いていたものが、方向転換をして左方向(または右方向)に向かって動き出そうとするため、速度の変化率、つまり加速度が大きくなるのです。そのため「重さ」による力が最大になります。

 

では「速度」はどうでしょうか。方向転換をしようとするということは、瞬間的に止まるということです。つまり速度はゼロになります。そのため「減衰係数」による力もゼロになります。逆に「変位」がゼロの時「速度」は最高になり、「減衰係数」による力が最大になります。「重さ」や「硬さ」とは力を発揮するタイミングが違うことがわかります。

 

ブランコで考えてみるとわかりやすいかもしれません。ブランコが一番高い位置に来ると一瞬ピタッと止まります。そのあと下に下がりながら速度を増し、一番低い位置で速度が最高に達します。その後また上に上がるにつれて速度が低下し、再び止まります。建物の揺れも基本はこれと同じです。

 

揺れのエネルギーを蓄え、それを変位が最大になると同時に開放するのが「重さ」と「硬さ」に比例する「加速度」と「変位」による力です。これは揺れを「継続」させようとする力になります。「減衰係数」に比例する「速度」による力は真逆のタイミングで作用します。そのため、揺れを「停止」させようとする力になります。

 

揺れを止めようとする力がどのくらいか、というのを表す値が「減衰係数」です。

 

ダンパーの性能を表す

建物の揺れを止める装置と言えば制振ダンパーがあります。制振ダンパーを設置することで「減衰を付加する」ことができ、揺れが収まるのを早めたり、建物に生じる変形を小さくしたりできます。

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粘弾性ダンパー、粘性ダンパー、オイルダンパーのように「速度」に応じて力を発揮するタイプのダンパーでは、性能を表す値として「減衰係数」が使用されます。「減衰係数」が大きいか小さいかで、そのダンパーがどの程度揺れを抑えることができるのかがわかります。

 

減衰定数(粘性減衰定数)

「減衰係数」とよく似た言葉として「減衰定数」があります。「げんすいていすう」または「げんすいじょうすう」と呼びますが、専門家は「げんすいじょうすう」と呼ぶことが多いように思います。

 

臨界減衰

減衰が大きければ大きいほど揺れがすぐに収まるわけですが、極端に減衰が大きい場合はなにが起こるでしょうか。通常は右、左、右、左、・・・と繰り返しながら徐々に揺れ幅が小さくなっていくわけですが、減衰がある値を超えると揺れが一往復する前に止まってしまいます。これを「過減衰」と言い、減衰が大き過ぎて振動しない状態を指します。

 

この過減衰になるかどうかというギリギリの減衰を「臨界減衰」と言います。これよりも減衰が小さければ普通に振動する状態、減衰が大きければ振動しない状態になります。この「臨界減衰」の状態が「減衰定数=1(=100%)」です。

 

減衰係数は単位を有する値、減衰定数は比率

減衰係数は速度に応じてどれくらいの力を発揮するかという値です。力を速度で割った単位を有しています。

 

それに対し減衰定数は、臨界減衰との大小関係を比べたものなので単位がありません。「何%」という表現をすることはありますが、あくまでも比率です。

 

建物が2棟あるとき、減衰定数の大小関係は直接比較することができます。「Aが減衰定数3%でBが減衰定数2%であれば、Aの方が大きい」と言えます。しかし減衰係数ではそうはいきません。同じ減衰係数であっても、建物の規模が違えば意味が変わってきます。超高層ビルにダンパーを1台設置するのと、戸建住宅にダンパーを1台設置するのでは効果が全く違う、ということです。

 

減衰係数はダンパー1台の性能、減衰定数は建物1棟の性能と言ってもいいかもしれません。

 

構造減衰

建物の揺れがどうして収まるのか、実のところよくわかっていません。各部の摩擦や地盤の影響、その他いろいろな要素が絡み合っています。いちいち建物1棟ごとに調査するわけにもいきませんし、設計時点では調べようもありません。また、調べても完全にはわかりません。

 

「減衰係数」という速度に応じて力を発揮するものを導入すると、なんとなく実現象を再現できるということに過ぎません。しかし、他にどうしようもないですし、精度としてもそれなりに保てているので広く使用されています。

 

このよくわからないけれど揺れが収まることを、構造物が持っている減衰ということで「構造減衰」と呼びます。制振ダンパーを設置していなくても、どの建物にも存在します。

 

「構造減衰」は建物によって違いますが、大体減衰定数1~5%の範囲で分布しているようです。そして鉄骨造よりも鉄筋コンクリート造の方が大きいとされています。実際の設計では鉄骨造で減衰定数2%、鉄筋コンクリート造で減衰定数3%としている例が多いです。変形のレベルが小さい場合(例えば免震建物)、もっと小さな値を使うべきだという意見もあります。

 

構造減衰の設定方法

構造減衰がどういったものか完全に解明できていればいいのですが、残念ながらそうではありません。そのため、建物に応じて設定を変える必要があります。

 

剛性比例減衰

「剛性」とは「硬さ」のことです。剛性比例減衰とは、建物の各部の硬さに比例させて減衰係数を設定する方法です。硬い部分には大きな減衰係数を、柔らかい部分には小さな減衰係数を設定します。最もよく使われる減衰の設定方法です。

 

剛性比例減衰では「層と層の速度の差」に応じてエネルギー吸収をします。「硬さ」による力が「層と層の変形の差(柱がどれくらい曲がったか)」に応じて生じることと対応しています。

 

剛性比例減衰の重要な点としては、「建物がガタガタと素早く揺れると減衰定数が大きくなる」ことです。地震時の建物の揺れは、いくつかの決まった揺れ方(モード)の組み合わせで起こりますが、最も影響が大きく最もゆっくり揺れる「1次モード」に対して減衰を設定します。この1次モードに対する減衰定数が、例えば鉄骨造なら2%になるわけです。

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しかし「2次モード」や「3次モード」といった揺れ方は1次モードよりもガタガタと素早く揺れます。そのため、1次モードの減衰定数が2%であっても、2次モードは6%、3次モードは10%といった2%よりも大きな値になってしまいます。これは実際の建物の減衰に比べて大き過ぎる場合が多いです。

 

低層の建物であれば2次や3次のモードの影響が比較的小さいため、剛性比例減衰としても大きな問題はありません。ただ、超高層建物では2次や3次のモードの影響が大きくなります。減衰定数が大きくなることで解析結果の方が実際の応答よりも小さくなってしまい、評価としては危険側になってしまいます。

 

低層の建物に使用する分にはあまり問題はありませんが、高層建物に適用する場合は注意が必要です。

 

質量比例減衰

質量比例減衰とは、建物の各部の重さに比例させて減衰係数を設定する方法です。重い部分には大きな減衰係数を、軽い部分には小さな減衰係数を設定します。構造設計においては、あまり使われる減衰の設定方法ではありません。

 

質量比例減衰では「層と地盤の速度の差」に応じてエネルギー吸収をします。「重さ」による力が「層と地盤の加速度の差」に応じて生じることと対応しています。

 

質量比例減衰の重要な点としては、「建物がガタガタと素早く揺れると減衰定数が小さくなる」ことです。これは剛性比例減衰と逆の性質です。上述したように、2次モードや3次モードといった揺れ方は1次モードよりもガタガタと素早く揺れます。そのため、1次モードの減衰定数が2%であっても、2次モードは0.7%、3次モードは0.4%といった2%よりも小さな値になってしまいます。これは実際の建物の減衰に比べて小さ過ぎる場合が多いです。

 

当然ながら剛性比例減衰とした場合よりも2次や3次の減衰定数が小さいため、解析による応答の結果は大きくなります。実際よりも大きい値になるため建物の評価としては若干安全側になります。ただ、わざわざコストが上がるようなことをする設計者は少ないため、ほとんど使用されていません。

 

レーリー減衰

剛性比例減衰は2次以降の減衰定数が過大に、質量比例減衰は2次以降の減衰定数が過少になってしまいました。では両者をうまく組み合わせることでよりよい設定ができないか、というのがレーリー減衰です。

 

例えば、1次モードに対する2%の減衰定数のうち、1.2%を剛性比例減衰、0.8%を質量比例減衰にする、ということです。こうすることで、2次モード以降の減衰定数をある程度調整することができます。

 

剛性あるいは質量という1つのパラメータだけだったものを、剛性と質量の2つのパラメータを利用できるので、1次モード以外にもう1つ減衰定数を設定できるということです。大体は2番目に影響の大きい2次モードの減衰定数を指定します。3次モード以降の減衰は2次モードの減衰定数よりも大きくなりますが、1次モードの減衰定数しか指定できない剛性比例減衰に比べて実状に近づけることができます。

 

建物以外に起因する減衰

減衰とはよくわからないものと書きました。よくわからないものを建物の解析モデルに組み込むための方法の一つが構造減衰です。この構造減衰には、建物部分だけでなく建物を支える地盤の部分の影響も入っています。

 

地盤の減衰

建物が地震で揺れるとき、建物だけが揺れるわけではありません。当然建物を支える地盤の部分も一緒に揺れます。そのため、本来であれば建物だけをいくら精緻にモデル化しても正しい評価はできません。ただ、地盤の評価は非常に難しいです。

 

地盤が砂なのか粘土なのか、上に載っている建物に対して硬いのか柔らかいのか、隣接する建物の影響はどうなのか、全ての要素が複雑に絡まりあっています。地盤のモデル化の研究や調査も進められていますが、完全に解明されることは無いでしょう。ただ、なんらかの減衰作用が働いているのは間違いなさそうです。

 

建築は理学ではなく工学なので、地震に対して安全な建物ができればそれでいいとも言えます。

 

逸散減衰

摩擦などによりエネルギーを吸収しなくても、揺れを減衰させることはできます。

 

地面が揺れると、建物の中に振動のエネルギーが入ってきます。このエネルギーが上階に伝わっていき、屋上で反射して向きを変えます。そして再び地面まで戻ってくるのですが、このとき地面でまた反射します。

 

建物内にまた振動のエネルギーがはね返ってくるので、建物は揺れ続けることになります。しかし、地面で全てのエネルギーが反射するわけではありません。一部は透過していきます。透過したエネルギーがどこか遠い果てまで伝わっていけば、再び建物まで戻ってくることはありません。

 

エネルギーが吸収・消散されなくても、戻れないところまで行ってしまえばエネルギーが無くなったのと同じことです。地面での反射の度に一部が透過してエネルギーが減少していく現象、これを「逸散減衰」と言います。

 

制振ダンパーによる減衰

とかく減衰とは難しい現象です。しかし、人為的に追加した減衰であれば正確な評価が可能です。それが制振ダンパーにより付加された減衰です。

 

制振ダンパーの減衰係数はメーカーが保証してくれます。ダンパーを設置した2点間の変位や速度の差によってエネルギー吸収量が決まります。もしダンパーにより減衰定数を10%増加させることができれば、もともとあった2%や3%の減衰定数の評価に多少ばらつきがあったとしても、影響はほとんどなくなります。

 

しかし、注意が必要な部分もあります。各階にバランスよくダンパーを配置する場合、ダンパー量を増やせば増やすほど減衰定数を大きくすることができます。ただ、一部にダンパーを集中して配置する場合、ダンパーを入れ過ぎることで逆に減衰定数が低下する場合もあります。

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あくまでもダンパーは「変形することでエネルギーを吸収」します。ダンパーを増やすとその部分の変形がどんどん小さくなり、最終的にはほとんど変形しなくなってしまいます。

 

免震建物ではダンパーの適正量が存在します。免震は柔らかい免震層によって地面から切り離されていることに意味があります。ダンパーを入れ過ぎると地面との接続の度合いが強くなり、結果として免震効果を下げてしまうことになります。

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バランスよくダンパーを配置する分には、減衰定数は設置するダンパーの「減衰係数」に比例し、「硬さ」と「重さ」の平方根(√:ルート)に反比例します。重くて硬い建物、例えば鉄筋コンクリート造の壁式構造等では減衰定数を大きくすることが難しいことになります。

 

減衰とは何か一言で表現することは難しいですが、減衰をよく知ることが高層建物や免震・制振と言った高度な建物の設計には重要になります。少しでも減衰の理解に役立てば幸いです。