バッコ博士の構造塾

建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

振動特性係数Rtとは:求め方とその意味

地震時に建物に生じる揺れは複雑です。地盤と建物の動きが相互に影響しあうため、地盤と建物の両方の情報が必要になります。

 

建物だけであればある程度のことはわかりますが、地盤は非常にやっかいです。高い費用をかけて建設地の地盤をあれこれ調査しても、それほど精度よくはわかりません。また、調査結果を詳細に検討できる技術者もそれほど多くはいません。

 

しかし建物の需要はたくさんあります。木造住宅だけでも年間の着工件数は約50万件だそうです。とても対応できる数字ではありません。

 

そこで、地盤と建物の揺れの関係を簡易に考慮できる「振動特性係数」が用いられます。この値の意味について考えてみましょう。

 

 

振動特性係数とは

構造計算において、建物に生じる地震の力は、建物の重さにいろいろな係数を乗じることで求めます。この係数の一つが「振動特性係数」です。

 

建築基準法には“建築物の振動特性を表すものとして、建築物の弾性域における固有周期及び地盤の種類に応じて国土交通大臣が定める方法により算出した数値”と記されています。

 

ここで、「弾性域」というのは「建物が損傷していない健全な状態」という意味です。雨漏りで柱が腐っていたり、大きな地震を経験して壁にひび割れが入っていたりしていない状態を指します。

弾性・非弾性・弾塑性

 

「固有周期」というのは建物を揺すった時に建物の揺れが一往復するのにかかる時間のことです。周期が長ければゆっくり、短ければはやく揺れます。建物の揺れ方の特徴をもっともよく表す指標です。

固有周期とは

 

「地盤の種類」というのは「固い・普通・柔らかい」という地盤の締まり具合による分類です。固いものから第1種地盤、第2種地盤、第3種地盤の3つがあります。

 

つまり振動特性係数とは、新築時点での建物の揺れ方の特性と建設地の地盤の締まり具合に応じて地震の力の大きさを変化させる係数ということです。

 

振動特性係数の求め方

地震の力と地盤と建物の複雑な関係を、振動特性係数というかたちで以下のようなシンプルな方法で求められるようになっています。

 

この表のTTcはそれぞれ以下の通りです。

T:固有周期(秒)、h:建物の高さ(m)、α:木造か鉄骨造の階の高さの割合

 

Tc:建物直下の地盤の種別に応じた値

ほとんどの地盤は第2種地盤(普通の締まり具合)ですので、建物の高ささえわかれば求まることになります。

 

振動特性係数の値

式だけではわかりにくいのでグラフにして示します。

 

建物の固有周期が短い範囲では一定、Tcを超えると固有周期の二乗で低減、Tcの2倍を超えると固有周期に反比例しています。また、地盤の固さによってもかなり値が変化することがわかります。

 

先ほどは固有周期を横軸に取りましたが、今度は建物の高さを横軸に取って書き直してみました。この式を適用できるのは高層建物(高さ60m以下)までですので、高さ60mまで示してあります。

低層・中層・高層・超高層の区分け

 

鉄骨造に比べてRC造のほうが地震の力を大きめに設定されており、建物が高くなるほどその差は顕著になります。

 

振動特性係数の意味

建物の固有周期が長くなるほど振動特性係数は小さくなるので、地震の力を小さくすることができます。それはどのような理由からでしょうか。

エネルギーとの関係

地震の大きさというと加速度に注目が集まりがちですが、地震の被害との相関は加速度よりも速度の方が強いです。速度というのは地震が持っているエネルギーの量を表す指標だからです。

地震の加速度地震の速度

 

仮に同じ重さの建物に同じだけ地震のエネルギーが入力された場合、建物が揺れる最大の速度は同じになります。固有周期は関係ありません。

 

しかし、このとき建物に生じる加速度は固有周期によって変わります。固有周期が長ければ最大の速度に達するまで時間があるのでゆっくり加速してもよく、逆に固有周期が短ければあわてて加速しないと間に合わないからです。

 

建物に生じる力の大きさは加速度に比例(ma=F)しますので、固有周期が長いほど地震の力を低減することができるのです。

地盤の周期

地震による揺れは当然ながら地盤の影響を大きく受けます。柔らかい地盤であればゆっくりとした揺れが増幅されやすくなります。

 

第1種地盤、第2種地盤、第3種地盤の周期は以下のように規定されています。

揺れの周期と建物の周期が一致する現象を「共振」といい、建物の揺れが大きく増幅されます。ですので、地盤が柔らかい場合は地盤が固い場合に比べて、固有周期が長い建物に生じる地震の力も大きくなります。

共振現象

 

逆にいうと、周期が離れていれば揺れは増幅されないということでもあります。そのため固有周期が長い場合は地盤が固いほど振動特性係数は小さくなります。

 

では固有周期が短い場合は地盤が柔らかいほど振動特性係数は小さくなるのかというと、そうはなっていません。それは、建物は共振だけで倒れるわけではないからです。

 

兵庫県南部地震では大きな被害が生じましたが、「キラーパルス」と呼ばれる周期が1~2秒程度の揺れが主原因とされています。住宅の固有周期は0.2~0.5秒程度なので、共振は関係ありません。

キラーパルスとは

 

キラーパルスによる倒壊を防ぐには、周期に関係なくある程度の強さが必要になります。

 

地盤種別の選定に注意

振動特性係数を、第1種地盤の値を基準にした場合、第2種地盤の値を基準にした場合とで書き直したのが下の図です。

種別が違うだけでまったく値が違うことがわかります。

 

地盤の特性というのは周期だけでわかるものではなく、ましてや明確に3つに分類できるようなものでもありません。人間が便宜的に設定しているだけです。

 

そんなあやふやなものをどう選定するかで考慮すべき地震の力が大きく変わってしまうということを意識しておきましょう。