バッコ博士の構造塾

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耐震性・地震・構造に関する間違いや嘘 Part1:構造設計一級建築士が是正します

ご存知の通り、インターネット上には有益な情報もありますが、誤った情報も大量にあります。その他の分野はわかりませんが、建築のこと構造に関してはかなりひどい状況と言えます。

 

素人が思い込み・勘違いで書いても1記事、構造を専門としない建築士がよく調べもせずに書いても1記事、極々少数の構造設計者が丹念に書いても1記事、こうして日々間違った情報がインターネット上に蓄積されています。

 

大量の情報から取捨選択する能力が必要になっていますが、そう簡単にできれば苦労しません。相反する情報のどちらがより信頼に足るかの判断は、結局「好み」や「雰囲気」になっていないでしょうか。

 

微力ながらこの記事で間違いを駆逐していきたいと思います。

 

 

「建物は上の階ほど地震力が大きい」

一級建築士が書いていた情報です。一見すると正しいように思う人もいるかもしれません。さらにこう続きます。

 

「だから上の方ほど建物を硬く、強くしたいが、せいぜい一律にするのが限界」

 

修正点はいろいろありますが、一つずつ直していきましょう。

 

まず、上の階ほど大きいのは「地震力」ではなく「加速度」です。特に中低層建物ではその傾向が強く、地表の2倍や3倍の揺れが生じる場合があります。超高層建物では逆に上層階で加速度が小さくなる場合もあります。

タワーマンションの何階に住む?超高層ビルの揺れ方を徹底解説

 

「加速度」が大きければ、その階に生じる「慣性力(=加速度×重さ)」も大きくなります。しかし「地震力」とは、その階に「生じる力」ではなく、その階が「支える力」です。

 

5階が激しく揺れれば、その下の4階はその揺れを支えなくてはなりませんし、さらにその下の3階では5階の揺れに加えて4階の揺れも支えなくてはなりません。当たり前ですが、「地震力は下の階ほど大きい」のです。

 

この建築士が言っていることは「5階に重たい荷物を置いたから、1階の柱より5階の柱の方がたくさん重量を支えている」というのと同じことです。そんなわけはないですよね。下の階の柱には上の階の柱の重量も加算されていきます。

 

ということで、「上の方ほど建物を硬く、強く」する構造設計者は一人もいません。上から下まで硬さ、強さを一律にもしません。ピロティなら1階が柔らかい場合がありますが。

 

一級建築士と言っても専門外のことについてはこの程度の場合もあります。バッコも「意匠」や「設備」については語れません。気を付けましょう。

建築士の専門分化:意匠屋さん本当に構造わかってる?

 

「ラーメン構造は耐震性が無い」

恐らくRC造を念頭において書かれていた文章です。「低い」ならまだしも「無い」とは衝撃的です。

 

「ラーメン構造」とは柱と梁を組み合わせた構造で、壁で構成された「壁式構造」と対比されることが多いです。「壁式構造」は昔から地震に強いと言われていますが、だからと言って「ラーメン構造」が弱いと言われているわけではありません。「壁式構造」は木造、鉄骨造、RC造のラーメン構造のどれと比べても強いのです。

 

また、「壁式構造」は戸建住宅がほとんどで、それ以外となると数は多くありません。学校建築や板状マンションでは部屋を区切る壁がたくさんありますが、窓がたくさんある側は「ラーメン構造」です。タワーマンションも大多数が「ラーメン構造」です。

 

壁式構造は耐震性が高い」ですが、「ラーメン構造は耐震性が無い」とする根拠がよくわかりません。住宅をRC造で新築するのなら柱や梁の無い「壁式構造」の方が使い勝手がいいので、お薦めではあります。

 

「五重塔は免震である」

「免震」だけでなく「制振」であるという意見もあります。「制振」は考え方の問題なので否定しませんが、「免震」は流石に無理があると思います。

 

「免震」と呼んでいる根拠は「建物が柔らかくて地震を受け流す」だとか「2層目が右に揺れると3層目は左に動いて地震を受け流す」ということの様です。わかるようでよくわからない主張です。とりあえず「受け流している」っぽいので「免震」ということだそうです。

 

専門的に言うと「地震の周期と建物の周期をずらしている」ということでしょうか。五重塔の実際の周期は1秒強だそうです。地震が起きて、各部がずれる等すればさらに長くなるでしょう。ちなみに免震建物では周期を4秒程度にする場合が多いです。高さ200mを超えるような超高層ビルでは周期6秒程度です。

 

「周期1秒強で受け流せているのか」、「超高層ビルは全て免震か」というと、どちらも違うでしょう。

 

実は、なぜ五重塔が地震に強いかはよくわかってはいません。本当に「免震」のような効果を期待しているのかもしれません。ただ、現時点では根拠薄弱で、「免震とは呼べない」でしょう。

五重塔はなぜ倒れない:構造のわからなさがわかる話

 

「トラス構造はピン接合」

ピンとは限りません。剛の場合も多いです。近日中に追記予定です。

 

「建物を硬くすればするほど地震の揺れがモロに伝わる」

耐震等級に関する記事で記載がありました。「耐震等級が高い」=「安全」とは限らないそうです。硬すぎるからと言うのがその理由ですが、本当でしょうか。近日中に追記予定です。

 

「免震建物は軟弱地盤に建てられない」

建設省告示2009号の第6に書かれた方法では、第3種地盤および液状化の恐れのある軟弱地盤に免震建物を建てることができません。しかし、その他の方法であればもちろん建設可能です。近日中に追記予定です。

 

「ラーメン構造はほとんどせん断変形しない」

Wikipediaに書かれていました。鉄骨造で柱間が長く、階高が高い場合にはそうですが、タワーマンションのようなRC造で柱間が短く、階高が低い場合にはかなり大きな値になります。近日中に追記予定です。

 

求む怪情報

こうした間違いが溢れており、それを正したいというのがこのブログを続ける一つのモチベーションです。探せばいくらでも間違いは出てくるでしょう。むしろ間違いが正論として浸透してしまっているかもしれません。

 

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