バッコ博士の構造塾

建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

博士になって変わること、変わらないこと:ゼネコン博士の現状

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ブログタイトルにあるように、著者のバッコは博士(工学)です。

 

□■□疑問■□■

民間企業に勤める博士の数はまだまだ少ないようですが、何か特典やインセンティブのようなものはあるのでしょうか。

 

□■□回答■□■

企業ごとに様々だと思いますので、ある大手ゼネコンに限った話になりますが、大したうまみはありません。研究者、技術者として一人前であることを証明する勲章のようなものでしょうか。とはいえ、博士取得前後でいくつか変わったこともありますので紹介していきましょう。

 

 

お金の話

やはり一番気になるのはお金の話ではないでしょうか。

 

給料の変化

学士か修士か博士か、学歴が上がるほど収入も上がるのであれば勉強を続けるのも悪くありませんが、実際にはなかなかそうはなっていません。博士になったからと言って、給料は1円たりとも上がっていません。

 

さらに言うと、一級建築士もコンクリート主任技士も構造設計一級建築士も、どの資格も給料には反映されません。資格によっては月に数万円も増えるような会社もあるようですが、大手では増えないところが多い印象です。取って当たり前という感じでしょうか。「じゃあ取っていないやつはどうなんだ」という気持ちもなくはないですが、仕方ありません。

 

アメリカで働いている知り合いのおじさんは、博士を持っているという理由だけで月に700ドルも同僚より給料が高いようです。仕事内容と専門分野が一致していないにも関わらずです。法律やら組合やらに守られているとのことです。

 

報奨金の支給

月々の給料に変化はありませんが、報奨金は出ます。とはいえ、大学の入学料も払えない額です。自分が卒業、修了した大学であっても、一度外に出てしまうと再度入学料が取られます。

 

国立大学でも入学料と3年分の授業料を合わせると200万円くらいになります。昔景気がよかったころは会社が負担していた時期もあったようなのですが、今はとても無理です。

 

一級建築士や構造設計一級建築士にも報奨金は出ますが、本当に極わずかです。資格学校の授業料は新入社員には厳しかったなぁと今更ながら思います。ただ、構造設計一級建築士に関しては独学なので、ちょっと得した気分です。

一級建築士試験体験記:学科と製図と勉強法と

構造一級建築士試験体験記:勉強法と有資格者の位置づけ

 

当然ながら、報奨金は資格取得にかかる費用の穴埋めではなく、ちょっとしたご褒美という感じです。やはり会社のためではなく、自分のために取るのが資格ですね。

 

仕事の話

昇進への影響

博士になったから偉くなれる可能性が上がるかと言えば、あまり影響ないでしょう。あくまでも仕事ができるかどうかです。

 

もしかしたら取得した年の人事考課は多少よかったのかもしれません。今年の目標は博士を取得する、みたいなことを項目の一つとして挙げていましたので。

 

設計部ではほとんど博士保有者はいませんので、博士の取得は小さいながらニュースになります。構造設計部という専門家集団の中でも、特定の分野に関しては一目置かれる存在になります。それが回り回って昇進に繋がる可能性はゼロではないかもしれません。

 

とはいえ、研究所に行けばそれなりに博士はいます。社内とはいえ、狭い範囲でも一番になるというのは難しいものです。昇進以前に精進が必要です。

 

転職への影響

事務のおばさんからは「これでいつでも会社やめられるね」と言われました。どこかの大学での教員の口がある、という意味のようです。

 

本当にそうならいいのでしょうが、実際に大学に戻れるような人は一握りです。というより、まだ会社を辞めるつもりは毛頭ないのですが。

 

大学に社会人ドクターとして数年ぶりに戻ったわけですが、率直な感想としては「大学の先生ってすごいな」でした。卒業してから知識が増えたことで、当時わからなかったレベルの差がよくわかりました。とてもあの中に混ざってやっていけるとは思えません。

 

新入社員時、「派遣社員に来てもらうことにしたが、どちらがいい」と上司から履歴書を2枚渡されました。一人は大学を出たての若い方で資格は一切なし、もう一人は中年の一級建築士と博士の保有者でした。

 

特に意見は言わなかったのですが、「まぁ、わざわざ博士にやってもらう仕事ではないし、博士なのにこんな仕事に申し込むくらいだと変な人かもしれないね」という判断をされていました。なかなかマッチングは難しいなと思ったのを覚えています。

 

気分の話

名刺が変わる

名刺には氏名、連絡先の他に資格をいくつか書いています。そこに「博士」が加わったときは、やはりうれしかったです。

 

名刺交換時に「お、博士をお持ちなんですね」と言われるといい気分がしますね。それがきっかけで専門分野に興味を持って頂けたり、一目置いて頂けたりするのはうれしいことですし、その後の人間関係を築きやすくなります。

 

構造設計は裏方のような部分も大いにありますし目立てばいいわけでもないのですが、注目してもらえるということは非常にありがたいです。「博士」という資格はなかなかに力があるようです。

 

自信がつく

博士というのはやはり一人前の技術者であることの証明です。博士になる前、社会人ドクターとして大学に戻ったときに比べ、技術力は格段に向上したように感じています。

 

博士になったからレベルが上がったのではなく、レベルが上がったから博士になったわけですが、肩書が人を作る側面もあります。やはり博士であるということが自信につながります。それと同時に責任も感じるようになりました。

 

仕事や金銭面での変化は大したことはありませんが、気分が変わったというのが一番大きな変化だと思います。もし皆さんも博士取得のチャンスがあれば、ぜひ挑戦してみてほしいと思います。