同じ建築士でも、「一級建築士」が取り扱える業務の範囲は「二級建築士」や「木造建築士」とは比べられないほど広くなります。建築を生涯の生業にするのなら、ぜひとも取っておきたい資格です。
では、一級建築士試験はどのくらい難易度が高いのでしょうか。一級建築士試験に受かった人は皆、優秀なのでしょうか。
一般論で言うと、合格率が低いため難関試験に位置付けられています。最終的に合格するのは、全受験者の10%強しかいません。
ただ、大半が有名大学の大学院卒である大手建設会社の設計部や設計事務所の社員の合格率は非常に高いです。ある程度大学で真面目に建築について勉強してきた人にとっては、さして難しい試験ではないでしょう。
これは何も「大学の講義が資格試験の役に立つ」と言っているわけではありません。学問と実務は別物ですので、大した差ではないでしょう。
要は「勉強することに慣れているか」、「試験までに計画的に勉強を進められるか」、という違いです。
建築士試験の合格率
木造、二級、一級建築士では建築に関する知識を問われる「学科」と、実際に建物の模擬設計を行う「設計・製図」が課されます。
学科合格者のみが後日、設計・製図試験を受けることができます。なお、学科合格・製図不合格の人は翌年、翌翌年は学科試験免除で製図試験を受けられます。
木造、二級、一級建築士試験のここ数年間でのおおよその受験者数と合格率を示します。
木造建築士
学科試験:受験者数520人、合格率53%、合格者数280人
設計製図:受験者数320人、合格率63%、合格者数200人
二級建築士
学科試験:受験者数20,000人、合格率35%、合格者数7,100人
設計製図:受験者数10,000人、合格率54%、合格者数5,500人
一級建築士
学科試験:受験者数26,000人、合格率18%、合格者数4,700人
設計製図:受験者数9,200人、合格率40%、合格者数3,700人
学科と設計製図の合格率を掛け合わせると、木造で33%、二級で19%、一級で7%となります。実際には設計製図のみの受験者もいますので、トータルの合格率はもう少し高くなります。
木造建築士や二級建築士も合格率が高いとは言えませんが、それと比べても一級建築士の合格率はかなり低いです。
木造・二級・一級建築士の違い:業務範囲から資格試験までを徹底比較
受験者構成から見る難易度
受験者のやる気
上記の合格率を見ると、なかなかの難易度と思われるでしょう。しかし数字だけに着目していると肝心なことを見落としてしまいます。
試験を受けている人達の平均的なレベルはどうなのでしょうか。
司法試験が日本一の難易度と呼ばれるのは、法科大学院を出た、つまり高い学歴を有する人達が、少ない席を競い合うからです。「受かったらラッキー」程度の人が混ざっていると、合格率の意味が変わってきてしまいます。
一級建築士試験の学科と設計製図の受験者の合計は30,000人を超えていますが、全員が全員真面目に勉強してきているかというとそうではありません。
試験を受けに来ない人もいますし、会社に言われていやいや来ている人もいます。試験開始早々に眠りだす人もいます。
この人たちは除外して考えるべきでしょう。
受験者の年齢構成
受験者の年齢構成を見ると半分が20代で4割が30代、残りが40代以上となっています。
20代後半から30代前半の合格率が高く、40代以上では低くなる傾向にあります。また、24-26歳の合格者数も全体の20%以上を占めており、若くして一級建築士になる人もかなりいるようです。
要するに、有能な人たちはすぐに合格してしまい、早々と抜けて行ってしまうわけです。そしていつまでも合格できない人たちが30代になり、40代になっていくわけです。
もちろん毎年新たに有能な人たちが受験資格を得てあなたの競争相手になるわけですが、絶対数としてはさして多くないでしょう。基本的には「前年不合格な人」と競い合うわけです。
優秀な人だらけの中で上位に立つ必要があるわけではありません。
大手建設会社構造設計にとっての一級建築士
大手建設会社の設計部や設計事務所の社員は、その大半が有名大学の大学院まで出ています。
彼らが二級建築士を受けることはめったにありません。どうせ一級建築士を取るのなら、二級建築士の勉強をする分が無駄になると考えています。取り扱う建物の規模も大きいため、二級建築士を取る必要もありません。
以前は大学院も実務としてカウントされていたため、新入社員のうちから受験が可能でした。入社前から準備している人も、入社後に焦って勉強を始める人もいます。
ある大手の構造設計部では新入社員の最低でも40%以上が学科をパスします。多い年は80%を超えていたこともあります。
設計製図に関しては半分を少し超える程度の合格率で、一般受験者とそれほど違うわけではありません。それでも、「数年勤務しているのに一級建築士を持っていない」、という人はかなりの少数派です。
上司としては1年目で通ってくれると助かる、3年目で通っていないと「仕事を振りすぎて勉強できなかったかな」というような感じでした。
簡単ではないが、いつかは取得するもの、という位置づけです。
旧試験と新試験の難易度の変化:昔と今の違い
2009年から一級建築士試験が改定され、学科が4科目100点満点から5科目125点満点に変更されました。
合格最低ラインが60点強から90点程度(72%)となり、難易度が増したと一部でいわれることがあります。しかし、これは間違った認識です。
試験対策として「過去問」が有効なことは明らかですが、新試験からはその有効性がさらに高まっています。明らかに過去問の出題比率が上がっているからです。つまり、過去問さえやっていれば点数が取れるようになっているのです。
また、科目数や問題数が増えたといっても選択肢の数は100問5択から125問4択の500肢で変わりありません。5択よりも4択の方が平均点は上がるに決まっています。
旧試験では80点以上取れる人はかなり限られていました。そういう人達が新試験を試しにやってみると、120点前後取れるのです。
単純に1.5倍取れます。ほぼ満点です。ということで、合格ラインが60点から1.5倍の90点に上がったのも当然でしょう。
受験者のレベルが突然上がるわけもなく、合格率が大きく変動していないことからも、難易度としては変化がないことが明らかです。
旧試験を合格した先輩・上司を恨むことなく、頑張って勉強しましょう。