バッコ博士の構造塾

建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

一級建築士試験体験記:学科と製図と勉強法と

建築の道を志して社会に出た若者の前に立ちはだかるのが一級建築士試験。少し前の話になってしまいますが、合格までの体験を記したいと思います。

 

 

旧試験と新試験の違い

2009年から試験制度が変更されました。それ以前に一級建築士を取得しているため、現在の試験とは多少違う部分があります。

 

受験資格

大学院を実務経験として扱うかどうかが最も大きな違いです。2010年までは実務として扱われたため、大学院を修了してすぐ、新入社員でも試験を受けることができました。

 

今では大学院が実務として扱われないため、入社3年目まで試験を受けることができません。インターン経験者なら1年だけ実務扱いとなるので、入社2年目から試験を受けられます。いずれにせよ、新入社員でも試験を受けられた頃とは大きな違いがあります。

 

試験構成

学科試験と製図試験があるのは変わりませんが、構成が若干変わっています。

 

旧学科試験

「計画・環境・設備」、「法規」、「構造」、「施工」の計4科目。各科目25点満点の計100点。合格点は概ね60点強で推移。

 

新学科試験

「計画」、「環境・設備」、「法規」、「構造」、「施工」の計5科目。計画と環境・設備が20点満点、法規と構造が30点満点、施工が25点満点の計125点。合格点は概ね90点前後で推移。

 

「計画・環境・設備」と1科目にまとめられていたものが「計画」と「環境・設備」の2科目に分けられました。今まで25/100、つまり25%を占めていたものが(20+20)/125の32%と比率が上がっています。

 

旧製図試験

設計製図のみ、5時間30分の試験。

 

新製図試験

設計製図+記述、6時間30分の試験。

 

新試験から記述量が大幅に増加しました。試験時間も伸び、かなりの長丁場になりました。

 

難易度

難関試験に位置付けられており、合格率は学科が2割弱、製図が4割程度です。新試験になって難しくなったという意見も一部で見られますが、実際には変化なさそうです。

建築士試験の本当の難易度:大手ゼネコンマンは思う

 

学科試験

勉強方法:学生時代

修士2年生の冬、就職活動が終了し、後は修士論文を書き上げるのみというときに勉強を始めました。研究室の同期が「設計部に就職するなら資格学校に通ったほうがよくないか」と大手のS学院を進めてきたからです。

 

一級建築士のことなど全く頭になかったのですが、「言われてみればそうか」と思い、S学院に通うことにしました。学科は通わなくても受かる自信はあったのですが、どうせ製図のために通うことになるなら最初からしっかり勉強しようと思ったからです。

 

まずはビデオ講義を全て聴講しました。なじみのない法規以外は全て1.5倍速にすることで時間を節約しました。これから先、建築業界で長くやっていくつもりだったので、専門分野以外でもそれなりに興味を持って取り組むことができました。

 

法令集の線引きは当時の彼女にやってもらいました。「線引きも勉強になる」という意見もありますが、かなり地味な作業なので任せてよかったです。丁寧に引いてくれたので、気持ちよく使用することができました。

 

あとは過去問をひたすら解きました。「過去10年分を3回解けば絶対受かる」ということだったので、目標としていました。結局計画、構造、施工は2回ずつしかできず、法規に至っては最後まで解くことすらできず、自分に少しがっかり。

 

テキストはたまに目を通すくらいで、あまり重視していません。わからないところがあればたまに参照したくらいです。

 

勉強方法:社会人以降

入社した時点でもう問題なく合格できるレベルに達していました。確実に合格できるのが70点だったので、さらに上の80点を目標に勉強していたおかげでしょうか。

 

同期の中にはまだ勉強を始めていない人がチラホラいましたが、テキストを貸してあげる余裕がありました。勉強は週に一度S学院に通うくらいで、あとは覚えたことを忘れない程度の勉強だけしていました。

 

模試では大体80点前後取れるようになっていました。後は本番で同じようにやるだけです。

 

試験当日

はっきり言ってほとんど緊張しませんでした。よほど大きなミスをしたとしても受かる自信があったからです。実際どの科目もゆっくり2回見直しする余裕がありました。

 

周囲を見渡すと、ほとんど手が動いていない人や眠り出す人がいて、やる気がない人も結構来ているのだなと思いました。午前中だけで帰った人もいました。時間とお金がもったいないですね。

 

試験はうまくいきましたが、試験のせいで休日が一日潰れたことに憤慨していました。帰りがけに午前中の試験の解答が配られていましたが、あまり興味も湧きませんでした。

 

合格発表

同期やその周囲はソワソワしていましたが、まったく平静でした。S学院の担当者からお祝いの電話がありましたが、あまりにも反応が淡白だったせいか驚いていました。普通はもっと喜ぶそうです。

 

2択まで絞った問題がことごとく外れた施工だけ20点を切ってしまいましたが、他の科目は20点を超えました。目標の80点も何とかクリアできました。合格基準点を30%近く上回っていたので、それなりに満足です。

 

製図試験

勉強方法

学科の合格は間違いなかったので、学科試験の翌週からS学院に通い出しました。ただ、最初は何を描いたらいいかすらわからず焦りました。

 

まずはトレースから始めましたが、時間がかかって仕方がありません。目標の2倍近く時間を掛けて、汚い図面が出来上がるだけです。学科試験のときの余裕は全くありません。

 

「年齢と同じ枚数描けば受かる」と言われていたので、それ以上を目標に取り組みました。とはいえ、仕事もあります。皆さん同じ条件ではありますが。土曜は一日製図、翌日の日曜は一日S学院。一級建築士試験のせいで人生計画が狂う人がいるというのもうなずけます。

 

平日は少し早めに出社しエスキスをしていました。センスがあまりないので、数をこなすしかありません。「絶対に来年はこんなことしたくない」ということがモチベーションでした。

 

枚数をこなすたびに上達が感じられたのはよかったです。20枚以上描いたあたりからそれなりに速く、それなりにきれいな図面を描けるようになっていました。それでもS学院の講師からは「まだまだ劣るな」と思われていたように思います。最後まで「中の下」くらいの位置づけだったのではないでしょうか。

 

試験当日

学科とは違い、否が応でも緊張しました。お腹も痛かったです。周囲を見る余裕もほとんど無し。学科試験のときのように「受かればいいかな」レベルの受験生はいないのでしょう。会場の雰囲気も少しピリピリしているようでした。

 

試験問題を見たときの感想としては可もなく不可もなく。S学院の予想問題のうちいくつかを足して割ればできそうな問題でした。

 

ただ、いざエスキスに取り掛かるとプランニングの難しさに衝撃を受けました。目標時間内にエスキスがまとまり切らず、見切り発車。製図しながら最後になんとか収めようと急いで線を引きます。

 

プランを調整しながらの製図。どんどん図面は汚くなっていきます。「こんな建物、使いたくないなぁ」というレベルながらなんとか要求事項を図面に落とし込み切りました。

 

試験終了後、後ろを振り返るとそこには完璧と思える美しい図面。「あちゃー、こりゃやばいかな」と思いました。しかし、兎にも角にも図面は最後まで描き切りました。それだけが救いです。後は結果を待つのみ。

 

合格発表

毎年クリスマス前の発表。まさにクリスマスプレゼントがもらえるかどうか、というところです。ついでに会社の忘年会も同日に入っており、受験者は全員合否の報告をさせられます。

 

晒し物にはなりたくないと思いながら、HPを恐る恐る覗くとそこにはしっかりと自分の名前が。うれしい、というよりはホッとしました。これで無事年が越せる、そんな心境です。結局製図を受けた同期の半分が受かっていました。

 

S学院の担当から電話がありましたが、またしても淡白に反応しておきました。今回は半々だと思っていたので当然うれしかったのですが、テンションを上げるには疲れすぎました。

 

合格後の生活

まさに快適そのものです。土日をゆっくり過ごせるというのはこんなにいいものか、と思いました。当然試験後は製図をする必要はありませんが、どうしても結果が気になって寛ぎ切れません。もう二度と製図の勉強はしたくないです。

 

やるなら一発でやる、これが一番大事だと思います。こんなことを何回も繰り返していたら精神に異常をきたしそうです。これから試験を受けるという方は、ぜひ一発合格を目指してください。

 

学科の合格率は低いです。しかし、製図では半分くらい合格しています。せっかく学科を突破したのなら、半分に入れるよう努力しましょう。

 

製図に関しては有名大学を出ていようが、どれだけ頭が良かろうがあまり関係ありません。要はどれだけ製図に時間を割けたか、です。仕事は忙しいです。でもそれは皆そうです。一年だけと割り切って頑張ってください。