バッコ博士の構造塾

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海外の超高層ビルの構造:日本の構造設計とはここが違う

日本一の高さを誇るビルは大阪のあべのハルカス(300m)ですが、世界にはそれを遥かに凌ぐ超高層ビルが乱立しています。

 

□■□疑問■□■ 

世界と比べると、日本の超高層ビルは高さがかなり低いです。地震国であることが関係しているのでしょうか。

 

□■□回答■□■

日本では高さが300mを超えるようになると、地震の影響よりも風の影響の方が大きくなると言われています。事実、高さ643mのスカイツリーでは主として風荷重に対して部材の選定が行われています。地震国であると同時に台風などの強風も頻繁に生じる災害大国であり、超高層ビルの建設が難しい地域であると言えます。比較的条件が近い海外の地震頻発地域の超高層ビルと日本の超高層ビルを比較してみましょう。

 

 

アメリカ西海岸

地震頻発地域で超高層ビルが多いと言えばアメリカ西海岸です。

 

Sales force Tower(サンフランシスコ)

高さ326mで、サンフランシスコで最も高いビルです。一辺が50m程度の整形な平面形状をしており、建物の高さと幅の比は6強となっています。風の力も小さくないですが、地震の方が若干大きいと想定して設計が行われています。

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建物の中心部に大きな鉄筋コンクリートの壁があり、地震の力の全てをこの壁が負担する設計になっています。壁厚は低層部で約1.2m、上層部で約0.6mです。これにより、外周の柱は建物の重さを支えるだけとなります。

 

日本では柱の形状を「□」とするのに対し、このビルでは「H」としています。「□」は東西、南北どちらに揺れても強いですが、「H」はどちらか一方しか強くありません。このことからも柱の強さに期待していないことがわかります。

 

この規模の建物にしては珍しく制振構造を採用していません。風揺れに対する居住性については、中央部の壁で十分な硬さが確保できているので必要ないということかもしれません。

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Wilshire Grand Center(ロサンゼルス)

高さ335mで、カリフォルニアで最も高いビルです。船型の平面形状をしており、船の正面にあたる側から建物を見るとかなりスレンダーです。

 

この建物も中心部に大きな鉄筋コンクリートの壁があり、壁厚は約90cmです。この壁を有効に活用するために、壁が曲がるのを防ぐ巨大な梁が入っています。3層分の大きさがある梁で、建物中段、上段の中央、最上段と3ヶ所にあります。

 

また、この建物も制振構造では無さそうです。アメリカ西海岸にはほとんど台風が来ないようなので、硬さが十分というよりは、風揺れはあまり気にしなくてもいいということかもしれません。

 

181 Fremont Tower(サンフランシスコ)

高さ244mで、竣工が2018年という非常に新しいビルです。上記の2棟はオフィスビルでしたが、このビルでは上層階をマンションとしています。

 

平面形状が27m×36mと高さに対して非常に小さいため、内部に壁を造るのではなく外部に巨大なブレースを配置しています。ブレースは3本で構成されており、1本は巨大な鉄骨の部材で、建物を硬くするとともに地震の力を負担します。残りの2本は振動のエネルギーを吸収するために粘性ダンパーが取り付けられています。

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建物の重量の全てを4隅の柱が負担することで転倒しにくいようになっています。また、この4隅の柱は浮き上がることができる仕様になっており、過度な力がその下の杭にかからないよう工夫されています。

 

いろいろと構造的に盛沢山な建物と言えます。

 

台北101(台湾)

ブルジュ・ハリファに抜かれるまで世界最高の高さを誇ったビルで、高さは508mにもなります。地震頻発地域に建つビルとしては今なお世界最高の高さです。

 

一辺が50m程度の整形な平面形状のため、建物の高さと幅の比は10程度とかなり大きな値となっています。建物中央部のブレースによるコアと建物外周部の8本の巨大な柱により地震や風の力に抵抗します。この建物でもコアを有効に活用するために巨大な梁が入っています。1層分の大きさがある梁で、8層ごとに設置されています。

 

この建物は、なんと断層からわずか200mの距離に建っています。そのため2500年という非常に長い期間に1度起こる程度の地震に対して設計が行われています。

 

また、建物上層部から吊るされている660トンの巨大な鋼の玉は非常に有名で、建物と逆側に揺れることで風による建物の揺れを抑えてくれます。

 

日本の超高層ビル

2014年に高さ300mのあべのハルカスが竣工しました。また200m台の超高層ビルは30棟以上あるようです。

 

200m程度だと柱と梁で構成されたラーメン構造に、制振ダンパーを組み合わせた形式が一番多いと思われます。この形式だと非常に大きな梁を入れたり、コアを壁だらけにしたりする必要がありません。プランニングが比較的自由で、経済性に優れたビルが建てられるからです。

 

200m半ば以上になると柱数本を組み合わせて巨大な柱とするスーパーストラクチャー構造(東京都庁:243m)や、先ほど見たようなコアのブレースと巨大な梁を組み合わせた構造(あべのハルカス:300m)も登場します。とはいえ、それほど多いわけではありません。

 

ユニークな構造形式の超高層ビルは少ないですが、コストパフォーマンスに優れた高さ、規模のビルを多く建てている印象です。発展途上国などでは国威発揚やパフォーマンスとして超超高層ビルを建てる意味もありますが、日本ではこれ以上高いビルを建てる意味があまりないのかもしれません。

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とはいえ、すでに300mを超えるようなビルの計画もいくつか出ています。建物高さが変われば最適な構造も変わります。これから先、日本でもコアの壁と巨大な梁を利用したビルがどんどん増えてくる可能性はあります。また、まだ見ぬ新しい構造が日本から生まれることに期待しています。