今も昔も、人は高いものに憧れ、心奪われる生き物のようです。高さの追及は、いつの時代であっても魅力的に映るのでしょう。
□■□疑問■□■
現在世界一高いビルはドバイのブルジュハリファですが、お金に糸目をつけない場合、一体どれくらいの高さのビルが建てられるのでしょうか。
□■□回答■□■
一昔前は「100階建て」や「1km」と言ったキーワードがあったようです。「100階建て」は完全に過去のものになり、ブルジュハリファの完成以降は「1km」も夢を語るには物足りない数字になりました。「1mile(=1.6km)」のビルも建設が計画されたことがあり、実現可能性は高いと言えるでしょう。現在の最先端技術を駆使した場合の数値を提示するには、施工、材料、地盤、地震、風、材料、その他の分野の世界のトップ技術者が集わなくては回答できません。さすがにそれは無理なので、別のアプローチから検証しています。大雑把な推定ですが、ここでは「2,000m」としておきましょう。
世界と日本の超高層ビル事情
日本の超高層
2014年竣工の大阪の「あべのハルカス」がビルとしては日本で初めて300mに達しました。それまでは20年以上の長きに渡り、横浜の「ランドマークタワー(296m)」が日本一を誇っていました。
電波塔では2012年竣工の墨田区の「スカイツリー」が634mで、独立の塔としては世界最高高さを誇ります。それに続くのは1958年竣工の港区の「東京タワー」で333mです。すでに解体されていますが、対馬、南鳥島、硫黄島に高さ400mを超える塔が存在していました。
また、工事中ではありますが千代田区の「常盤橋街区再開発プロジェクト」では2027年までに高さ390mのビルの竣工を目指しています。
世界の超高層
2010年竣工のドバイの「ブルジュハリファ」が断トツの高さで828mです。次いで2015年の上海の「上海中心」が632mです。
地震頻発地域に建つ最高高さは2004年竣工の台湾の「台北101」で高さが509mです。ブルジュハリファに抜かれるまでは世界最高高さを誇りました。
現在工事中のサウジアラビアの「キングダム・タワー」は高さが1,007mで、ついに1kmの大台を超えます。2019年竣工の予定です。
コンクリート強度からのアプロ―チ
地震や台風に耐えられるかも重要ですが、まず建物の重さを支えられなければ話になりません。支えられる重さの限界から建物の最高高さを考えてみます。
現在、超高層マンションに使用されるコンクリートの強さは150MPa(=N/mm2)程度です。これは1m角の柱で15,000t支えられる強さの材料です。実際には安全率3を取るので5,000tが限界になります。
実際の建物に使用されたものとしては300MPaという例もあります。しかし製造方法がかなり特殊なので、まだ一般性のある150MPaで検証してみます。
ただ単に高さだけを追求するものとして、四角錐、つまりピラミッドのような形状を考えてみましょう。内部空間はゼロで、完全にコンクリートの塊という状態です。
単純に重さを底面積で割った値が150/3=50MPaになる高さを限界とします。コンクリートの比重を2.5とすると高さ6,000mという結果になります。ただの柱、つまり直方体だとすればこの1/3になるので高さ2,000mです。
では、柱を四角錐で造り、高さを2,000mとしてみましょう。柱の自重だけではまだ許容量の1/3しか使用していないことになります。柱の自重の2倍まで追加で支える余裕が出てきます。
柱も四角錐、建物も四角錐形状だとして、底面の正方形の四隅から頂点目指して斜めに柱が4本立っているとします。柱のサイズが平均1m角のフロアがあるとして、階高を4mとしましょう。柱4本の体積は1m×1m×4m×4本で16m3です。
体積の2倍、つまり32m3までなら床と梁を支えることができます。梁、床に使用するコンクリートを床面積で均すと50cmになるとしましょう。通常の建物では柱を含めて50cm以下になりますので、かなり大きめの値です。32 m3/50cm=64m2なので、8m角の部屋になります。
1m角の柱が四隅にある8m角の部屋。柱が邪魔ではありますが、なんとか内部空間を確保できました。柱の太さが2倍になれば部屋の一辺の大きさも2倍にできるので、2m角の柱が四隅にある場合、16m角の部屋になります。
上部構造をより軽量にしたり、四角錐とは違う形状にしたりすればまた違った結果になります。ただ、現在使用可能なコンクリートでも高さ2,000m程度であれば建物の重さを支えることはできそうです。
スカイツリーとオフィスビルの延長から考えるアプロ―チ
柱の許容軸力
スカイツリー(高さ634m)の足元の柱には直径2.3m、厚さ100mmという巨大な鉄骨が使用されています。これは、一枚の巨大な板を曲げ加工することで造られます。また、材料の強さも一般的な鋼材の2倍の強さとなっています。
これを使用できる最大サイズの鉄骨として考えてみましょう。2倍の強さの鋼材ということで、300MPaまで耐えられることにします。
中にはコンクリートを詰めるものとし、その強度は先ほどと同様150MPaにします。安全率は3なので50MPaまで耐えられます。
この柱が耐えられる重さは鉄骨部分で約21,000t、コンクリート部分で約17,700t、合わせて38,700tです。
建物の重さ
オフィスビルでは通常7.2mのモジュールで設計されています。そのため柱間の距離は7.2mの倍数になっていることが多いです。高級仕様のオフィスではモジュール3つ分、つまり21.6mの奥行きがあるオフィス空間を確保します。
建物の内部にある柱は4方向に梁が取り付いています。1方向が柱間距離21.6m、残りの3方向が7.2mとなります。そうすると柱が支えなくてはならない床の範囲は7.2m×(21.6m+7.2m)/2=104m2です。
建物の重さを1t/m2とすれば(通常の鉄骨建物は750kg/m2程度)、1階毎に104tの重さが加算されることになります。
最高高さ
支えられる重さ38,700tを1階当たりの重さ104tで割れば、372階まで大丈夫です。階高を4mとすれば1488m、5mとすれば1860mです。
これは建物が四角い場合を想定していますので、上部を細らせればまだ余裕があると思われます。また、先ほどと同様、実際には上部の重量を軽くする余地があります。
いろいろな検討を省いてしまっていますが、重さを支えるという意味では2,000mまでは現在の技術でも到達できる高さでしょう。