1981年以前の建物は、現行の耐震基準を満たしていない「既存不適格」の物件が多くなっています。
□■□疑問■□■
RC造(鉄筋コンクリート造)のマンションの耐震補強を検討していますが、どのような補強方法があるのでしょうか。古い建物でも十分な安全性を確保できるのでしょうか。
□■□回答■□■
元々の設計によりますが、現行の耐震基準に適合させることは可能です。ただ、大幅に耐震性を上げる場合、外観のデザインや使い勝手を損なうことになる可能性が大きくなります。必要と考える耐震性、耐震性を上げるために我慢できるポイント、補強工事のコストのバランスが重要です。後付けの補強になるため、どうしても新築のようにはいかないことを認識しておいてください。たくさんのメニューを提案できる建築士に相談しましょう。
鉄筋コンクリート造建物の耐震補強のメニュー
足す補強
弱い建物を強くする一番簡単な方法が、新しい壁やブレース(斜めの部材)を足すことです。基本的には足した分だけ強くなります。ただし、一部分に偏った補強をしてしまうと、既存の骨組に負担が掛かり過ぎるため注意が必要です。
壁を足すにも、いくつかの方法があります。元々ある薄い壁を厚くする方法、窓をコンクリートで埋めて穴の無い壁にする方法、何もないところに壁を新設する方法等です。かなり効果の大きい補強と言えます。
「バットレス」と呼ばれる新たな壁を、建物の外側に飛び出すかたちで追加する方法もあります。敷地に余裕が必要なため、あまり適用例は多くありません。しかし、建物の下から上まで連続した壁を付加できるため、かなりの効果を期待できます。
柱や梁を太くする補強方法もありますが、太くした部分に力が集中するようになります。強くしたつもりが、補強していない部材より先に壊れるということになりかねません。全体的に補強を行うか、強さと硬さのバランスを確認する必要があります。
開口部を完全には閉じたくない場合には鉄骨ブレースによる補強を行います。学校建築では多く見られる補強で、建物の内部に取り付ける場合と、外側から取り付ける場合があります。
外側からブレースを取り付ける場合は、ブレース自体よりも取り付け部の設計の方が重要です。建物内部で発生した慣性力(地震力)をブレースまで伝達する必要があり、ブレースの側面と元々の建物との接合部に大きな負担がかかるからです。
足す補強では、外観や使い勝手に影響を与える場合が多いです。
引く補強
部材を足して強くするだけが耐震補強ではありません。引く補強もあります。
柱の横に腰壁(梁の上にある背の低い壁)や垂れ壁(梁の下にぶら下がっている壁)があると、柱を拘束して曲がりにくくなります。地震が起こると、曲がりにくいものを無理やり曲げようとする力が働くので、壊れてしまうことが多々あります。
そこで柱と腰壁や垂れ壁との間にスリット(隙間)を空けてやります。そうすることで曲がりにくさを解消し、地震時にもしなやかに変形することで破壊を免れることができるようになります。
部材を引くのではなく、建物上部を丸々引いてしまう方法もあります。8階建てを6階建てにする、2階建てを平屋にする、ということです。建物の重さが小さくなれば地震の力もそれだけ小さくなり、それを支えていた部材が楽をできるようになります。
変わり種補強:制振から免震まで
耐震補強よりその数は少ないですが、制振や免震を利用した補強もあります。
連結制振
補強したい建物の横に硬い壁を新設し、その壁と建物をダンパー(揺れのエネルギーを吸収する装置)で繋ぐ方法があります。
通常、ダンパーは下の階と上の階とを繋ぐように設置しますが、それでは上下階がずれた分しかダンパーは働きません。硬い壁がもし4階の床のレベルまであるとすれば、ダンパーは地面に対して4階の床がずれた分だけ働きます。
コンクリートに比べダンパーは高価ですので、コンクリートを大量に使用してでもダンパーを効果的に使うことで安上がりになります。
上部マスダンパー
これはまだ例があるか知りませんが、建物上部を利用した補強があります。建物の中間部に柔らかい層を挿入し、その層より上の部分の重さを利用して揺れを制御する方法です。
新築ではそういったコンセプトの建物はありますが、補強として実施するにはいろいろとハードルがあります。まずその補強に向いた建物である必要がありますし、工事自体も大変です。効果は高いですが、そこまでしてやる必要がある建物は限られると思います。
免震レトロフィット
耐震の建物を工事中も使用しながら、いつの間にか免震に変えてしまう、という補強です。外部内部ともに手を付けることができない歴史的建造物や市役所などの庁舎に適用される場合がほとんどです。
建物の下に穴を掘り、免震装置をセットするわけですが、思いのほか大掛かりな工事になります。しかも工事中も建物は使用されているので、高い技術力も要求されます。
どんな建物でもできるわけではないですし、コストもかなりのものになります。ただし、その効果は絶大です。
最後に
ここに挙げたものはあくまでも代表的なものだけで、他にもいろいろな方法があります。また、建物ごとに適切な補強方法は異なります。施主の要望を汲み取り、適切な補強方法を提案できる建築士に相談しましょう。
しかし、補強は義務ではありませんし、補強後の性能が必ず現行の基準を満たさなければならないということもありません。また、地震が絶対に起こるというわけでもありません。
補強することは重要ですが、シェルター型ベッドや建物倒壊時に生存空間を確保してくれる鉄製の本棚も市販されています。「建物が倒壊しても人命だけは保護される対策」さえされていれば、住空間の質を低下させるような無理な耐震補強は不要かもしれません。
「次の家を買うときは気を付けよう」というのでも悪くない気がします。