バッコ博士の構造塾

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異形鉄筋と丸鋼:基本的性質と構造設計者が知っておくべきこと

コンクリートでできた建物には、コンクリートを補強するための「鉄筋」と呼ばれる細い鋼棒が入っています。鉄筋には「異形鉄筋」「丸鋼」の2種類があります。

 

昭和40年代頃までは丸鋼が主流だったようですが、今では完全に異形鉄筋に置き換わっています。丸鋼を使用するのはちょっとした部材のひび割れ・脱落防止用くらいで、重要な部分には使用されません。

 

丸鋼に代わって異形鉄筋が使用されるようになったのは、当然ながら異形鉄筋の方が優れているからです。

 

ではどのような点が優れており、どのようなことができるようになったのでしょうか。構造設計者としては押さえておかなくてはなりません。

 

 

丸鋼とは

丸鋼(round bar)はその名の通り丸い鋼棒で、表面がツルツルとしています。

 

日本最古の鉄筋コンクリート構造物は1903年に造られた橋だそうですが、それから昭和の後期に差し掛かるまで鉄筋には丸鋼を使い続けていました。

 

今では丸鋼を鉄筋としては使わなくなりましたが、丸鋼を使用している古い鉄筋コンクリートの建物はまだいくつも残っています。

 

丸鋼の材質

丸鋼の材質はSR○○」と表します。

 

SRはSteel Roundの略で、丸鋼の意味です。○○には数字が入り、これは部材の降伏点(材の強さ)を表しています。

 

JISにはSR235とSR295の二つが規定されています。短期的にはそれぞれ235MPa、295MPaまで力を負担できますが、長期ではどちらも155MPaまでしか許容できません。

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丸鋼の規格:径・重量

丸鋼の径は細いものから太いものまでJISで規定されています。一番細いもので直径5.5mm、一番太いものでは直径200mmにもなります。

 

重さも1mあたり200g以下のものから250kg近いものまであります。人力での運搬や施工を考えると、鉄筋として使用できるのは10kg/m程度の材が限界でしょう。

 

ただの丸い棒なので鉄筋以外の用途があり、そのためラインナップが豊富になっています。

 

異形鉄筋とは

異形鉄筋(deformed bar)も丸い鋼棒ですが、周りにリブや節が付いたデコボコな形状をしています。

 

鉄筋コンクリートが発明されてからまもなく、1878年に発明されました。1890年代に入ってから広く普及し出したようです。

 

異形鉄筋の材質

異形鉄筋の材質はSD○○」と表します。

 

SDはSteel Deformedの略で、異形鉄筋の意味です。丸鋼同様○○には数字が入り、部材の降伏点を表しています。

 

JISにはSD295A、SD295B、SD345、SD390、SD490の五つが規定されています。丸鋼では長期に負担できるのが155MPaまででしたが、異形鉄筋では195MPa以上です。

 

SD490よりも強度が高い鉄筋もあります。降伏点が685、785、1275MPaという非常に高強度の鉄筋も国土交通省により認定されています。

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異形鉄筋の規格:呼び名・最外径

異形鉄筋の太さの刻みは、キリのいい整数ではありません。そこで、わかりやすいように「呼び名」が決められています。

 

呼び名はD○○」となっており、○○にはリブや節を含まない部分の直径(公称径)を四捨五入した数字(単位はmm)が入ります。

 

JISではD4からD51まで規定されています。丸鋼と違って鉄筋しか用途がないので、これ以上太いものは必要ありません。

 

実際に建築で使用する範囲としてはD10からD41です。部材のサイズが大きい土木ではD51も使用します。

 

鉄筋の最も太い部分の直径である「最外径」は、呼び名の数字を1割増したくらいの値になります。たかが数mmですが、鉄筋が部材内に納まるかどうかのギリギリのところで設計していると、結構大きな数字です。

 

異形鉄筋とコンクリートとの付着

異形鉄筋の日本での普及が遅れたのは、丸鋼に比べて製造が難しかったからです。技術者たちは、もっと早くから異形鉄筋を使いたかったに違いありません。

 

なぜなら、異形鉄筋は丸鋼よりも「コンクリートと鉄筋の付着性能」が格段にすぐれているからです。

 

付着の必要性

鉄筋コンクリート造は、鉄筋とコンクリートが完全に一体化した状態を仮定して設計が行われています。鉄筋が変形した量と同じだけ、その周辺のコンクリートも変形するということです。

 

もし鉄筋とコンクリートとの境界面ですべりが生じると、この仮定が成り立たなくなってしまいます。鉄筋とコンクリートがしっかりとくっついているために必要な性能が「付着」です。

 

付着があることで、机上の計算と実際の建物がリンクすることになります。

 

表面積の増大

コンクリートと鉄筋の接する面が大きければ大きいほど、両者の間に働く「摩擦」は強くなります。つまり、鉄筋の表面積を大きくすれば付着性能が向上します。

 

では、細い鉄筋よりも太い鉄筋の方が表面積が大きいので性能もいいかというと、そうではありません。大切なのは断面積に対する表面積の比率です。

 

鉄筋の径が2倍になると、表面積は2倍にしかなりませんが、断面積は4倍になります。鉄筋が負担できる力は4倍になるのに、付着に寄与する部分は2倍にしかなりません。

 

リブや節がついていることで、断面積を増やさずに表面積を増やすことができます。小腸や大腸の表面がひだ状になって、長さ当たりの表面積を増やしているのと似たようなものです。

 

表面の突起

表面積を増大させることで付着性能は向上しますが、増大量には限界があります。あまりに細かくデコボコさせると、間にコンクリートがうまく流れ込まなくなってしまうからです。

 

異形鉄筋の本当の良さは、節とコンクリートの「支圧」による付着の増大です。鉄筋表面の突起がコンクリートと噛み合うことで力を直接伝達できるようになります。

 

当然節が大きいほどよく噛み合うので、付着性能も高まります。鉄筋が負担できる力は太いほど大きくなるので、それとバランスするよう太い鉄筋ほど節も大きくなっています。

 

三角鉄筋

鉄筋と言えば丸いもの、となんとなく思っていないでしょうか。

 

たしかに丸鋼は完全に丸いですし、異形鉄筋もリブや節を除けば丸いです。ただ、1960年代には「三角形」の断面をしていた鉄筋が一部で使用されていました。

 

正多角形の周長に対する面積の関係は、角の数が増えるほど大きくなっていきます。それの最たるものが円であり、その逆が三角形です。

 

同じ断面積の鉄筋であれば、三角形の鉄筋は他の形状の鉄筋に比べて表面積が大きいということです。つまり、それだけ付着性能がいいということになります。

 

実際、実験では2割程度性能が向上しているようです。なぜ現在使用されていないかは不明ですが、アイデアとしてはとても面白いと思います。

 

異形鉄筋にするメリット

異形鉄筋のメリットは、丸鋼に比べ付着性能が高いことです。では、付着性能が高まることでどんなことができるようになるのでしょうか。

 

定着長さの低減

部材の端の方に入っている鉄筋がしっかりと性能を発揮するには、鉄筋が部材の端で切れていてはいけません。部材の端を超えて、部材が取り付いているところの奥の方まで鉄筋を埋め込んでおく必要があります。

 

このように、部材の長さを超えて他の部材にまで鉄筋を伸ばしておくことを「定着」といいます。鉄筋が十分に性能を発揮できるよう、鉄筋の径や材質、コンクリート強度によって必要な定着の長さが決められています。

 

梁の鉄筋は柱に定着されることになりますが、定着に必要な長さを確保するためだけに柱が大きくなることがあります。

 

付着の力が大きければ大きいほど、短い距離で力が伝達できます。異形鉄筋のおかげで定着に必要な長さが短くなり、定着のためだけに柱が大きくなるという残念な事態を避けやすくなりました。

 

施工手間の低減

丸鋼の付着は弱く、限界を超えると一気にズルっと抜け出てしまいます。それを防ぐために、丸鋼の端部は必ず折り曲げられています。

 

この折り曲げ部を「フック」といい、フックがコンクリートに引っ掛かることで抜け出しを制限していました。

 

工場であらかじめフックを設けて置く場合もありますが、現場で鉄筋を折り曲げなくてはならない場合も多々あります。これが非常に大変です。

 

現場で曲げるのは径が細いものだけですが、細いと言っても鋼の棒です。それも相当の本数があります。

 

異形鉄筋でもフックを設けますが、全ての鉄筋にフックが必要と言うわけではありません。付着性能が高いので、軽微な鉄筋であれば真っ直ぐのままでも十分使用できるのです。

 

構造設計者が知っておくべきこと

完全に異形鉄筋が普及し、知っているかどうかに関わらずその恩恵にあずかることができます。でも、これだけは知っておきたい、ということもあります。

 

鉄筋とコンクリートの強度

コンクリートに力を伝達しきれないので、丸鋼では高強度の鉄筋がありませんでした。しかし、異形鉄筋では非常に高強度の鉄筋が流通しています。

 

鉄筋の強度が高まれば鉄筋の量を少なくすることができますし、部材を細くすることもできます。ただ、安易に高強度の鉄筋を使用すると失敗します。

 

鉄筋は強度(強さ)が上がっても剛性(硬さ)は上がりません。強度が上がった分だけ、性能を十分に発揮するまでの変形量が大きくなります。

 

ということは、一緒に使用しているコンクリートにも大きなひずみが生じることになります。コンクリート自身の強度も上げないと、コンクリートが先に壊れるような靭性(粘り強さ)の無い建物になってしまいます。

靭性・脆性とは:構造設計者が靭性を重視する理由

 

コンクリートと鉄筋の強度のバランスをみた設計が必要です。

 

付着力とせん断力

コンクリートと鉄筋が一体化するために付着は重要ですが、どういう時にコンクリートと鉄筋の間にズレが生じようとするのか知っておきましょう。部材が伸び縮みするとき、あるいは部材に曲げが生じたときでしょうか。

 

実は、そのどちらでもありません。伸び縮みの時はコンクリートと鉄筋は同じように変形するのでズレませんし、曲げられるときも同様です。

 

ただ曲がるだけでなく、曲がる力が変化するときにズレが生じます。曲げの変化とは、「せん断力」のことです。

柱・梁に生じる力と変形を理解する:曲げモーメント・せん断応力・軸応力

 

せん断力により、鉄筋に生じる力が一定ではなくなります。その変化分はコンクリートとの力のやり取りで生じるのです。

 

大きな軸力や曲げモーメントを負担しているからと言って、鉄筋とコンクリートがずれようとしているとは限りません。

 

鉄筋の断面積

コンクリート部材の検討を行う際、鉄筋の「断面積」が重要になります。部材にかかる力を算定し、必要な部材のサイズや鉄筋の量を電卓片手に決めていきます。

 

その際、いちいち一覧表を見るのも手間なので、大抵の構造設計者は断面積くらい暗記しています。暗記していないのは新入社員くらいでしょうか。

 

呼び名の半分を二乗して円周率を乗じても断面積とは少し差がありますし、時間もかかります。このくらいはしっかり覚えておきましょう。