バッコ博士の構造塾

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RC造がよくわかる:構造設計一級建築士&コンクリート主任技士が解説

分譲マンションではその大半が鉄筋コンクリート造(RC造)です。学校や病院も多くがRC造であり、コンクリートは非常に身近な建築材料と言えます。

 

□■□疑問■□■

RC造について、いろいろなサイトで説明がなされています。しかし、サイト間で矛盾があるなど何が正しいのかわかりません。専門家から見て、RC造の性能はどうでしょうか。

博士で構造設計一級建築士でコンクリート主任技士:バッコとは?

 

□■□回答■□■

建築士以外の方、あるいは建築士であっても構造を専門としていない方が書いたことが一目でわかるサイトが多数あります。表面的な記載のものが多く、極端な意見や間違った意見も見られます。

RC造が広く使用されているのは、優れた性能を有しているからに他なりません。ただ、いつでもその性能を発揮できるとは限らず、設計や施工に応じて変化します。単純に「RC造とはこういうもの」と言うことは難しく、軽々に断言できるものではありません。一つずつ丁寧に説明していきます。

 

 

鉄筋コンクリートのよくある説明

・「圧縮に強く引張に弱いコンクリート」と「圧縮に弱く引張に強い鉄筋」を組み合わせることで欠点を補いあっている

・鉄筋をコンクリートで覆うことで「熱」と「錆」から守っている

・重量が大きいため遮音性が高いが、地盤改良が必要な場合がある

・燃えないため耐火性がある

 

これらはどれも本当のことです。しかし、もう少し「なぜ?」「どうして?」を知っておいてはどうでしょうか。

 

鉄筋コンクリートの材料を知る

コンクリートの配合

コンクリートとは主としてセメント、砂、砂利、水を混ぜ合わせ、それらをセメントと水の「水和反応」と呼ばれる化学反応により凝固させたものです。砂利を入れないものを「モルタル」といい、コンクリートよりも滑らかなので仕上げなどに使用されます。

 

標準的なコンクリートの配合割合はセメントが1割、水が2割弱、空気が数%、あとは砂と砂利ですが、砂利の方がやや多めです。

 

セメントは体積としては少ないですが、比重が3を超えるため水よりも重量としては大きくなります。セメントが多いほど強度は大きくなりますが、水との水和反応時に放出する熱の量も大きくなります。コンクリートの熱膨張が促進され、冷却後の収縮がひび割れを引き起こすので注意が必要です。

 

水はセメントとの水和反応に不可欠ですし、水が少な過ぎると流動性が低くなり、施工が難しくなります。しかし、水が少ないほど強度が出ます。そのため、水を減らしつつ流動性を確保するために「混和剤」と呼ばれる薬品を添加する場合が大半です。

 

空気は各材料を撹拌するときに混入されます。数%程度と無視するには大きい量で、実際にコンクリートの強度に影響があります。空気が少なければ強度は大きくなりますが、空気にも役割があります。

外気温が氷点下になると、コンクリート中の水分が凍結し膨張します。コンクリート内に圧力が生じ、これを何度も繰り返すことで劣化を生じさせます。空気量が適正であればコンクリート内に水の逃げ道ができるので、圧力が高まることはありません。

 

砂や砂利は自然の材料であり、工場で生産されるわけではありません。実際に山や川から採取してきます。そのため地域ごと、工場ごとに使用する材が違い、コンクリートの配合に影響を与えます。コンクリートの配合は工場ごとに経験則による秘密のレシピがあります。よい砂利が手に入らない地域では、高強度のコンクリートを作れないということもあります。

 

コンクリートの特性

コンクリートは強いアルカリ性を示します。これは水和反応によって生成された水酸化カルシウムによるものです。硬化したコンクリートは空気中の二酸化炭素と反応し、炭酸カルシウムに変化することで徐々にアルカリ性を失っていきます。しかし、空気に触れない内部はアルカリ性を保ちます。

 

コンクリートは力を加える方向によって特性が変化する「異方性材料」です。圧縮する力に対し、引っ張る力は1/10程度しか耐えることができません。そのため「圧縮に強く、引張に弱い」と表現されることが多いです。

 

しかし実際は、圧縮に対する強度であっても鉄筋の1/10程度しかありません。「引張に比べて圧縮が強い」のは確かですが、鉄筋と比べて強いわけではないことは知っておきましょう。

 

コンクリートの比重は2.3で鋼材の7.85と比べると30%以下です。材料だけで見ればよっぽど鋼材の方が重たいわけです。それでもRC造の建物が重いのは、全ての部材が密実だからです。鉄骨のように内部が空洞というわけにはいかないからです。

構造設計の基本を押さえる:建物の重さの話

 

鉄筋の特性

以前は表面がツルツルの「丸鋼」が使用されていましたが、近年では表面に節がついた「異形鉄筋」を使用します。鉄筋とコンクリートは別々の材料なので、うまく一体化させるために節が引っかかるようになっています。

 

同じ鉄筋でも使用する材により強度が違い、太い鉄筋ほど大きな強度の材を使用します。コンクリートが破壊に至るまでのひずみは0コンマ数%ですが、鉄筋は20%程度のものもあります。材の選定はコンクリートとの強度のバランスを考えて行います。

 

鉄筋コンクリートの施工を知る

鉄筋を組む

コンクリートの中にある鉄筋は職人が一本一本手作業で組んでいきます。鉄筋の切断や折り曲げ加工は工場で行われますが、それを実際に建設現場で組み上げなくてはいけません。

 

鉄筋同士は「結束線」と呼ばれる太い針金で繋がれていきます。全ての鉄筋同士を結束線で結びつける必要はありませんが、最低限必要な個所は決められています。コンクリートを流し込む際に鉄筋の位置がずれてしまわないための措置です。

 

太い鉄筋であればかなりの重量があり扱いづらいですし、施工誤差もあります。それほど精度が期待できる作業とは言えません。鉄筋の本数を増やし過ぎると上手く組めない場合もあるので、スペースに余裕を見た設計が必要です。

 

型枠を組む

鉄筋が組み上がると、次は型枠を組みます。コンクリートは硬化するまでドロドロした液体に近い性状をしていますので、形を決めるための型が必要です。

 

建物一棟ごとに型を組むので、自由な形状にすることができます。丸い柱、アーチ、その他いろいろな形状に対応可能です。職人がのこぎりでギコギコと上手に型枠の調整してくれます。

 

型枠内の真ん中に鉄筋を留めておく必要があるので、「スペーサー」という型枠と鉄筋の間の距離を保つ冶具を設置します。部材ごとに必要な距離は違うので、スペーサーの色等で監理します。

 

型枠ができてしまうと鉄筋のチェックができなくなるので、事前に見ておく必要があります。

鉄筋コンクリートの家づくり:工事監理をしないと大変なことに

 

コンクリートを打つ

コンクリートを型枠に流し込む作業を「打つ」、「打設」と呼びます。ポンプ車から送られたコンクリートを、職人が上手に型枠内に振り分けていきます。

 

型枠内には鉄筋が組まれているので、ドロドロしたコンクリートを隙間なく流し込むには「締固め」が不可欠です。コンクリートにバイブレータを差し込んだり、型枠に振動を与えたりして充填させていきます。昔は竹竿を抜き差ししていたそうです。

 

打設の前に型枠に水を撒くことがあります。コンクリート硬化時に木製の型枠が水分を吸ってしまうと、水和反応に必要な水が不足してしまうことがあるからです。

 

これと似て非なるのが、コンクリートに水を加えることです。コンクリートの流動性が低いと型枠に上手く流れ込まず、大変手間がかかります。それを嫌って、コンクリートの流動性を増すために水を加えるということが昔は横行していました。そうすると工場出荷時の性能が大きく変わり、強度、耐久性共に大幅に低下してしまいます。最もやってはいけないことです。

 

コンクリートを2層、3層とまとめて打設することはなく、1層ずつ施工していきます。1層を複数回に分けて打設することはよくあります。

 

コンクリート工事の工期

鉄筋、型枠、打設を何度も繰り返していく必要があり、たくさんの職人が手間暇かけて造り上げるのがRC造です。コンクリートの材料費の2倍程度がこれらの作業にかかります。

 

鉄筋コンクリート造では工場でできる作業が限られ、ほとんどが現場での作業となります。大部分が工場生産される木造や鉄骨造と比べ工期が長くなりますし、施工の良し悪しによって品質が大きく変わります。

 

鉄筋コンクリートの特性を知る

耐久性

鉄筋コンクリート造の寿命は、コンクリート内部の鉄筋が錆びついてしまったときです。

 

コンクリートが強アルカリのため、内部にある鉄筋は酸から守られています。しかし、前述したようにコンクリートは二酸化炭素と反応することで徐々にアルカリ性を失っていきます。これを「中性化」と言い、この中性化が内部の鉄筋まで達すると鉄筋が錆び出すことになります。

 

中性化自体はコンクリートの強度に影響を与えません。そのため鉄筋の入っていない2000年前のローマのコンクリートの建築物は今も健在です。

 

中性化はコンクリートが緻密なほど、つまり強度が大きいほど遅くなります。低層マンションに使用されている強度でも65年、超高層マンションに使用されている強度では200年持つことになっています。実際の調査結果を見る限り、しっかり施工されたコンクリート建物の中性化速度はもっと遅いでしょう。

 

では耐久性に関しては何の心配も無いかと言うと、そうではありません。中性化以外にも鉄筋が酸にさらされる危険性はあります。それは「ひび割れ」です。

 

よく壁や床に入ったひび割れを見つけて大騒ぎされる方がいますが、大抵のひび割れは構造耐力上問題ない場合が多いです。乾燥収縮によるもので、重力や地震の作用によって割れたわけではありません。とはいえ、ひび割れが無いに越したことはありませんし、近年では乾燥収縮によるひび割れも防ごうという動きもあります。

コンクリートのひび割れは当たり前?マンションも戸建住宅も

 

ひび割れ幅が0.1mm以下のものはほとんど目立ちません。0.2mmを超えると場所によっては目につくかもしれません。0.3mmを超えると雨水の侵入等、建物に悪影響を及ぼし出します。ひび割れが自動で塞がる「自己修復コンクリート」と呼ばれる製品もありますが、広く普及するには時間がかかりそうです。

自己修復コンクリートは有用か?構造設計者の視点から考察

 

中小地震では目立ったひび割れは入らないでしょうが、大地震を経験すると大きなひび割れも入ります。また、柱の間隔が大き過ぎたり、柱が上下階でずれたりするような無理をした構造計画の場合は重力だけでもひび割れが大きく入る場合があります。長く使用するには早急に補修を行いましょう。

 

耐震性

耐震性が高いかどうかは建築材料で決まるのではなく、強い設計にしたかどうかで決まります。RC造だから強い、弱いということを論じることにあまり意味はありません。

 

ただ、一般的にRC造の建物は木造や鉄骨造より硬い傾向にあるため変形は小さくなります。変形が小さければ壁紙の破れや建具の歪みも生じにくくなります。

 

また、RC造の代表的な構造形式として柱と梁で構成された「ラーメン構造」と壁で構成された「壁式構造」がありますが、壁式構造は昔から地震の被害が小さいことが知られています。

 

その理由として、計算上考慮していない壁による余剰耐力が大きいというのがあります。また、壁式構造は建物が非常に硬くなるため、相対的に柔らかい地盤と揺れ方が異なります。その結果揺れが伝わりにくいのではないかとも言われています。

 

別にラーメン構造が弱いと言っているわけではありませんが、過去の地震被害から見る限り壁式構造の被害は少ないです。耐震工学には未知の領域がたくさんあります。本当に壁式構造は強いのか、強いのなら何故強いのか、研究の余地があります。

 

耐火性

コンクリートは不燃材料なので高い耐火性があります。ただ、木造でも部材の表面が炭化するだけで内部は燃えず、建物が焼け落ちるには時間がかかります。鉄骨造も耐火被覆を行っているので、避難に必要な時間を確保することができます。

 

コンクリートが高温で熱せられると圧縮強度が低下します。500℃で半分程度、800℃では10%程度まで低下します。内部の鉄筋も600℃以上になると強度が低下してしまいますので、火災後もそのまま使用できるかはわかりません。

 

RC造が他の構造より火災に強いことは確かですが、それがどの程度なのか把握しておきましょう。いくら強いからと言って、無敵なわけではありません。

 

 

単に強い、弱いだけではなく、なぜ強いのか、どのくらい強いのか、と一歩踏み込んだ理解があると判断が付きやすくなるのではないでしょうか。その理解の一助になれば幸いです。