バッコ博士の構造塾

建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

鉄筋コンクリートの家づくり:工事監理をしないと大変なことに

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一級建築士をやっていると、個人的に「家を設計してくれ」と言われることがあります。構造が専門なので他を当たってもらうのが常なのですが、そのときは同僚の意匠設計者から「構造を見てくれ」と言われたので引き受けました。

 

 

RC造、壁式構造、スキップフロア

何年も前からプランを練っていたようで、なかなか凝った図面(意匠図)が出てきました。鉄筋コンクリート造の壁式構造で、半地下のあるスキップフロアです。床は大きく6つのレベルに分かれていますが、あくまでも法的には2階建てとのことです。大体40坪くらいでしょうか。

 

わざわざ構造設計者に声を掛けるくらいなので木造ではないと思っていましたが、この規模でこの造りなら結構な額になるでしょう。同じ会社のサラリーマンでもお金があるところにはあるものです。

 

長方形の敷地で、縦横比は1:2くらいです。やはり長辺側の設計は楽ですが、短辺側は壁量が少ないので、少し工夫が必要でした。

 

特に締め切りがあるわけではないということで、平日業務終了後や土日の空き時間を使ってのんびりと設計できました。このくらいのペースで業務もできれば楽なのでしょうが、そうはいかないですね。

 

仕事の合間を縫っての設計作業だったので多少指摘は多めでしたが、無事確認申請も終了し工事が始まりました。

 

どんな工務店

家を造るときに一番悩むのが、誰に設計してもらうか、誰に建ててもらうか、ということだと思います。ハウスメーカー選びで1年以上も悩んでいるような人もいます。

 

今回は施主が設計者なので、設計については悩む必要がありません。工務店選びはどうするのかと思っていたら、当てがあったようです。

 

意匠設計者の友人に独立開業している構造設計者(有名な方です)がおり、その方がよく使っている工務店を紹介してもらったようです。家づくりという一生にそう何度もあるイベントではありませんが、こういう時に伝手があるというのは建築業界で働く数少ないメリットですね。

 

小規模な鉄筋コンクリートの建物をいくつも手掛けており、信頼できる業者ということでした。工事監理もお願いされていたので、着工から上棟までご一緒することになります。

 

木造であれ鉄筋コンクリート造であれ、施工業者の技量によって品質は大きくばらつきます。優秀な業者かどうかを見分けるのはなかなか難しいですが、非常に重要です。インターネットは極端な情報が多いですし、誰か紹介者がいるととてもいいですね。

 

いざ着工

配筋検査:基礎の配筋

コンクリートの建物を造るには、中に鉄筋と呼ばれる鉄の棒をいくつも配置しなくてはなりません。この鉄筋の配置の検査を「配筋検査」といいます。

 

この検査、特に一回目が重要です。しっかり注意すべき点を伝えて、二回目以降同じミスが無いようにしてもらうのが肝要です。普通のことは大体言われなくてもやってくれます。普通じゃない、この建物特有のポイント、そういったところは重点的なチェックが必要です。

 

一回目の配筋検査は建物の最も下の部分、基礎の配筋です。ところどころ追加の補強を図面上指示してあったのですが、しっかりと配筋されていました。担当の方もその上司の方も感じのいい方で、大丈夫そうだなと思いました。

 

配筋検査:2階床レベル

しばらく業務が忙しかったのもあり、2回目、3回目の配筋検査は施主(同僚の設計者)に任せていました。最初の2レベルは特に難しいところも無さそうですし、本人が見ていれば問題ないだろうという判断です。

 

4回目の配筋検査の前、そろそろもう一度見ておいた方がいいかなと思い、次は見に行くと伝えました。スキップフロアなので、どこが1階でどこが2階かというのはよくわからないのですが、たぶん2.5階床だと思います。

 

どんな単純な、どんな小さな建物でも間違いや問題が一つもないということはあり得ないです。やはり例外はありませんでした。ある意味、いい勘が働きました。

 

間違うのはいいけど・・・

ちょっとのミス

その日は業務を早めに切り上げて、夕方頃に現場に行きました。パッと見たところはきれいに配筋されています。型枠が大部分取り付けられていたので、注意深く見ないと見落としてしまいそうです。

 

本当は型枠を取り付ける前に検査しなくてはいけないのですが、施主からはOKが出ていたようなので仕方ありません。もう少し早く来たかったです。

 

型枠の中ものぞき込んでの検査です。少し特殊な形状の床組部分で無筋(鉄筋が入っていない)部分がかなり広い範囲でありました。標準通りにやると鉄筋の無い範囲が広くなるので、追加で鉄筋を入れるように指示してあったところです。

 

「ここ、無筋のところが広すぎるので、図面通り鉄筋を追加してもらえますか」とお願いしました。一部型枠が取り付いていますが、追加で入れるのもそれほど難しくなさそうです。

 

しかし返答は「え、今から入れるんですか?」でした。

 

まあ、確かに施主はOKを出しています。型枠も一部は外す必要があるかもしれません。でも図面に描いてありますから。遅れてきたのも悪いかもしれませんが、「入れるんですか?」と言われて「じゃあ入れません」とはなりません。しっかりとやっていただきました。

 

大きなミス

なんだか少し不安になりながら、検査を進めます。なんだか変なところを見つけました。コンクリートの庇を鉄骨の柱で受ける部分があるのですが、鉄骨の足元に設置する鋼板「ベースプレート」がコンクリート躯体からはみ出しています。そしてベースプレートとコンクリートを繋ぐ「アンカーボルト」4本のうち2本が取り付けられていません。

 

「これ、ずれてますけど、いつ残りの2本をセットするんですか?」と聞きました。当然の質問です。

 

そこでまさかの返答「あ、ばれました?」です。

 

ばれました?ええ、ばれました。「後でやる」とか「忘れていた」とかならわかるのですが、まさかそうくるとは思いもしませんでした。知らなかったらそれはそれで問題ですが、知っていて放置するのはもっと問題でしょう。

 

さらに「隅の柱なので軸力も小さいでしょうから、問題ないと思いまして」ときました。

 

あの、それを判断するのは設計者ですからね。あなたではないです。軸力に関係なくアンカーボルトはいりますよ。いつだって図面が正です。本当に今日見に来ておいてよかった。危ないところです。もちろん是正していただきました。そもそも、なぜずれていたのかよくわかりません。

 

皆さんご注意を

普段の大きな現場と比べて人も少ないですし、当然動くお金の額は桁が2つ3つ違います。建物を使用する人間も本の数名です。しかし、それが品質を落としていい理由にはなりませんね。至極当然の話です。

 

しかし、急激にチェックの目が届きにくくなるのも事実です。よく発展途上国の監理を「なっていない」と言って非難しますが、日本国内でも現場の規模によって大きな差が見られます。これが地方と中央ではさらにその差が広がる印象です。

 

もちろんしっかりやっているところは規模の大小、地方か中央かに依らず、しっかりやっています。しかし、どうしても傾向としては監理が甘いような気がします。

 

恐らく個人の住宅というのが最も目が届きにくい現場の一つでしょう。施主自らしっかり監理しないことには不安です。なにも専門的なことを見る必要はありません。素人目に明らかにおかしいところがなければ大丈夫です。

 

もちろん専門家に依頼するという手もありますが、費用が気になるところです。よく現場に顔を出し、職人さんと信頼関係を作り、何でも質問してみましょう。必ず品質によい影響があると思います。

 

皆さん、いい家を造ってください。