バッコ博士の構造塾

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鹿島建設の超高層制振マンション:スーパーRCフレーム構法の考察

東日本大震災以前から耐震性能の高いタワーマンションを建設するべく技術開発を進めていた会社があります。

 

□■□疑問■□■

鹿島建設の独自技術、スーパーRCフレーム構法を採用したマンションの性能はどうでしょうか。

 

大林:DFS(デュアル・フレーム・システム)

清水:スイングセーバー

大成:TASS Flex-FRAME

竹中:THE制振ダブル心柱システム

 

□■□回答■□■

耐震性はかなり高いものと思われます。居住空間内の柱や梁が通常よりも少なく、マンションとしての価値も高いです。ただし、制振効果(東北地方太平洋沖地震のような長時間続く揺れの低減や、地震後の揺れの収束を早める効果)はそれほど大きくないでしょう。制振がメインの建物というよりは、性能の高い耐震建物に少し制振効果を足した、と考えたほうがよさそうです。

 

 

スーパーRCフレーム構法とは

建物中央の巨大な壁:スーパーウォール

高層マンションの中央部では採光が確保できないため、吹き抜けとなっているか、階段やエレベーターなどの縦の動線で占められています。住戸の配置は「ロ」の字型になり、住戸と絡まない中央部には比較的構造部材を配置しやすくなっています。

 

スーパーRCフレーム構法では、この中央部分に厚さ1.0~1.5mのコンクリートの壁「スーパーウォール」を設置しています。超高層マンションの一番下から一番上まで、大量のコンクリートを使用して造成されています。

 

この壁が建物の重量を支えるとともに、地震の力の大部分を負担します。そのおかげで建物外周部の柱や梁は地震の影響が小さくなり、数を減らしたりサイズを小さくしたりすることができます。

 

スーパーウォールを利用した制振

建物中央にあるスーパーウォールは屋上から更に上まで達しています。そしてこの屋上から突出した部分から建物外周部まで巨大な梁が取り付いています。この梁は建物とは縁が切れており、スーパーウォールの動きに合わせて動くことができます。

 

この巨大な梁の先端にはオイルダンパーと呼ばれる建物の振動エネルギーを吸収することができる制振装置が取り付いています。そしてオイルダンパーの反対側は建物の最上階の柱に繋がっています。

 

地震時にスーパーウォールが地震力を負担して変形すると、取り付いている梁の一端は上に上がり、もう一端は下に下がります。建物最上階の柱自体はそれほど大きく伸び縮みしないため、梁の先端と最上階の柱との間に変形差が生まれます。

 

そのため、梁の先端と最上階の柱の間に取り付けられているオイルダンパーに変形が生じ、エネルギーを効率よく吸収することができます。変形差が大きければ大きいほど制振効果が高まるため、できるだけ変形差が大きいところにダンパーを設置するのが制振構造の基本となります。

 

スーパーRCフレーム構法の適用件数

2004年に初適用し、以降その数を増やし続け、記事執筆時点(2018年6月)で優に10棟を超えています。大林組のDFS同様、建設数はかなり多いです。

 

鹿島建設自体が施主となってマンションの販売を行っていることから、自社技術を適用しやすいことも理由として挙げられると思います。品質のいいものであれば全社を挙げて販売を後押しする、素晴らしい姿勢だと思います。

 

ただ、近年は若干適用件数増加のスピードが下がってきているような気がします。気のせいかもしれませんが、初適用から十数年が経ち、社会情勢が変化してきているのかもしれません。

 

スーパーRCフレーム構法の設計上の留意点を考察

クリープ現象

まず気になるのが、スーパーウォール地震が建物重量を支えている点です。外周の柱と比べ、そのサイズは非常に大きくなっています。しかし、支えなくてはならない建物重量としては、外周と内側でそれほど大きな差はありません。

 

つまり、単位断面積あたりの重量は壁よりも柱の方が断然大きくなります。コンクリートは硬いとはいえ、力が加われば変形します。スーパーウォールと柱には変形差が生じるはずです。

 

タワーマンションでは柱の長さが100mを超え、場合によっては200mに達します。柱の長さの1/2000程度が建物の重さによって縮められるとすれば、スーパーウォールと柱の変形差はかなりのものになります。

 

実際の施工においては、このズレに合わせて長さを調整しながら工事を進めていきます。そうすることで建物の床はちゃんと水平になります。しかし、コンクリートには「クリープ」というやっかいな性質があります。

 

コンクリートの「クリープ」とは、支えている力の大きさが変わらなくても、時間の経過とともに少しずつ変形が進んでいく現象のことです。そして、クリープによる変形は、最初に力を加えたときの変形よりも大きくなることが多いです。

 

つまり、工事中に建物の重さによって柱が50mm縮んだとすれば、使用しているうちに50mm以上、場合によっては100mm程度追加で柱が縮むということです。非常に大きな変形であるといえます。

 

通常のタワーマンションであれば、柱が支える重量に応じて柱の大きさも調整されているので、全ての柱が同程度縮みます。そのため、特に何の問題も生じません。しかしスーパーRCフレーム構法においては、スーパーウォールと柱の変形差は時間の進行とともに大きくなっていきます。

 

当然、あの鹿島建設がクリープの影響を見落としているわけがありません。クリープによる変形差を吸収できるだけの何かしらの細工があるのか、クリープ差が小さくなるような処置をしているのか、いずれにせよ対策は打たれていると思います。機会があればぜひともその対策を教えてもらいたいものです。

 

制振効果

スーパーRCフレーム構法では、全てのオイルダンパーが建物頂部の梁の先端に集中して取り付けられています。一番変形差が大きくなるところにダンパーを設置するのが基本ではありますが、建物規模からするとダンパーの数が不足するように思われます。

 

もちろん、スーパーウォールのおかげでダンパーが無くとも耐震性には特に問題ない、むしろ強い建物になっていると思います。しかし、「高い制振性能がある」かと聞かれれば疑問です。

 

また、ダンパーの数が十分であったとしても気になる点があります。ダンパーが取り付いているのは最上階の柱の上です。長さが200mを超えるような柱となると、ダンパーを取り付ける土台としては硬さがやや不足しており、ダンパーの性能を少しロスしそうです。

 

さらに、最上階の柱はほとんど建物の重量を支えていないため、ダンパーにより引っ張られるとすぐにひび割れが生じます。ひび割れれば当然硬さは低下します。直接ダンパーが取り付いている柱の隣の柱も踏ん張ってくれるので、影響は意外に小さいのかもしれません。

 

大地震時にどれくらいダンパーに変形が生じているのか、またダンパーが取り付いている柱のひび割れの影響をどうしているか、気になるところでです。

 

まとめ

鹿島建設のスーパーRCフレーム構法は多くの適用実績があり、その耐震性も非常に高いものと思われます。オイルダンパーの設置方法も独特で、効率のよい方法となっています。しかし、実際の制振効果についてはどこまで期待できるか、設計内容を覗いてみないことにはわかりません。

 

購入の際はオイルダンパーの有り無しによる効果の差がわかる資料の提出をお願いしたり、構造担当者から直接の説明を求めてみたりしてはいかがでしょうか。

 

スーパーウォールに大量のコンクリートを使用している分、お値段が高いような気もしますが、もし予算内であれば購入をお勧めします。