敷地ごとに建てられる建物の面積は決まっています。各部屋の面積は大きく取りたいけれど、収納もたくさんほしい、多くの人が悩むところです。
そんな悩みを解決してくれるのが「小屋裏収納」や「中間階収納」です。天井高1400mm以下の空間は床面積に算入されないため、居室とは別に収納専用のスペースが作れます。
小屋裏収納は「ロフト」と呼ばれることもあります。可動式のはしごで出入りする場合もありますし、常設の階段を設ける場合もあります。
中間階収納で有名なのはミサワホームの「蔵」です。とはいえ特許があるわけではないので、誰でも自由に設置することができます。
「小屋裏収納」にするか「中間階収納」にするか。建物の形状や使い方に応じて、自分が適していると思う方を選べばいいでしょう。
ただ、両者には耐震性に関しても違いがあります。できればそこまで考えて選択していただきたいと思います。
住宅展示場で感じた中間階収納の危険性
自分の家を新築するにあたって、何度も住宅展示場へ足を運びました。営業にいろいろと質問し、パンフレットを読み込み、構造の仕様を確認しました。
住宅展示場探訪:ハウスメーカーの営業に構造の説明をしてもらった
中間階収納に憧れているところがあったため、特に重点的にヒアリングしました。そうしているうちに見えてくるものがありました。
中間階収納を推してくる業者が圧倒的に少ないのです。モデルハウス内に中間階収納があるにもかかわらず、水を向けても話に乗ってきてくれません。
「中間階収納もできますが、小屋裏収納の方がお薦めですよ」といった感じで、すぐに小屋裏収納に誘導されるのです。
最初はその理由がわかりませんでした。しかし、ミサワホームのモデルハウスを訪れて理解できました。ミサワホームの営業が教えてくれたからです。
モデルハウス巡りをしていたのは2017年のことですが、2016年には熊本地震が起こっています。その際、中間階収納がある建物で被害が多く出たようです。
公になっている統計データ等があるわけではないので、確認が取れているわけではありません。しかし、他社の営業の対応を見ている限り、本当のことのように感じられました。
ミサワホームでは他社に先駆けて中間階収納を「蔵」として商品化しており、歴史がある。構造に関する問題点をしっかりと検証したうえで開発を行っている。だからうちは自信を持って「蔵」をお薦めできる、ということだそうです。
「蔵」の人気にあやかって「ミサワホームじゃなくてもできます」と考え無しに真似したのであれば、危険な建物ができてしまいます。そうした会社は大いに反省すべきでしょう。
中間階収納は部分的な「スキップフロア」のようなものです。複雑な建物を設計するには、普段と同じことだけしていたのでは危険です。
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小屋裏収納(ロフト)で注意すべき点
小屋裏収納については、それほど気にすべき点はありません。各ハウスメーカーがお薦めしたくなるのもうなずけます。
重心位置の変化
小屋裏収納を設けるということは、今まで天井しかなかったところに床を造り、さらにその上に物を載せるということです。
床を載せられるよう骨組(梁)を大きくするため、建物自体が重たくなります。また、物を載せた分だけ重くなります。
建物最上部の重量が増加するので、建物の重心が高い位置に移動します。これは耐震性能上、好ましいことではありません。頭の重い赤ちゃんはフラフラして安定しませんが、それと同じです。
とはいえ、建物全体の重量からみれば、それほど増加分は大きくない場合が大半です。大きな小屋裏収納を造る、重量物を置く、そういう場合は少しだけ注意してください。
小屋組の変更
小屋裏収納は、元々ある勾配屋根のスペースに設けます。そのため、小屋裏収納のために建物の形状を変える必要がありません。
しかし、収納として使用するからには、余分な骨組が多数あっては使いづらくて仕方ありません。「小屋束」や「雲筋違」といった部材を一部取り払う必要があります。
「小屋束」には屋根の重量を下の梁まで伝える役目が、「雲筋違」には屋根に生じる地震の力を下の壁まで伝える役目があります。こうした部材を無くしてしまうので、構造的に影響が無いわけではありません。
他の部材を補強することで十分に対応可能ではありますが、なにもケアがされていない場合は少し不安があります。
中間階収納(蔵)で注意すべき点
熊本地震では中間階収納のある建物の被害が多かったようですが、中間階収納のどこが耐震性を低くする要因なのでしょうか。
階高が1.5倍
中間階収納の天井高は1400mm以下ですが、その上にもう一部屋乗っかります。そのため、その部屋に隣接する部屋の階高は通常の建物の1.5倍程度になります。
それが中間階収納の魅力でもあるのですが、耐震性の面から見ればマイナスになります。
階高が高くなると、その分だけその階が変形しやすくなります。そうなると、地震の揺れも増幅しやすくなります。
また、耐力壁の足元に生じる力も1.5倍になります。耐力壁が引き抜けないよう、通常より多く金物を設置する必要があります。
金物の量の計算は、標準的な壁の高さである2.7mで行っています。当然階高が高くなれば必要量が大きく出るわけですが、「階高の設定をそのままに計算してしまっている建築士がもしいたら」と考えるととても怖い話です。
「建築士がそんなバカなことしないだろう」と思われるかもしれませんが、そうでもないのが残念なところです。特別な建物ということに頭が回らず、盲目的に普段と同じことをしてしまう建築士はいます。
階高が高いというのは、思った以上に耐震性能に影響を与えます。特に1階の階高が高くなるような収納の配置になるときは注意が必要です。
実質的な階数の増加
中間階に床を設けるので、部分的ではありますが床が1枚増えます。当然その分だけ重量が増えますので、小屋裏収納と同じことが言えます。
小屋裏収納と違うのは、階の「上部」ではなく、「中間」に床ができるということです。
新たにできた床に生じる地震の力をしっかりと下の階の壁まで伝達しなくてはなりません。構造がわかっていない建築士が設計すると、中間階の床がフラフラになっていることもあります。
複雑な建物になると、建築基準法に従っているだけではうまくいかないことが出てくるのです。
バッコの自宅は中間階収納
小屋裏収納に比べて中間階収納の方が、耐震性が低くなりやすいと書いてきました。ただ、あまり心配し過ぎないでください。
「なりやすい」と「なる」では大違いです。「なりやすい」だけなら工夫次第でどうとでもなります。
むしろ中間階収納程度のことであれば、工夫というほどのことをしなくても十分な耐震性を持たせることは可能です。しっかり構造が理解できていれば、必要な措置を講ずるだけです。
バッコの自宅も中間階収納を採用しています。設計を他人任せにしてしまったばっかりに満足いかない部分も多々ありますが、十分安全性は確保されていると思います。
力学が分かっていない建築士が設計した場合、小屋裏収納よりも中間階収納の方が危険な建物になる可能性が高いのは確かです。
事前にしっかり建築士の力量を見極めましょう。