地震の大きさを測る指標はいろいろあります。地震の加速度や速度、マグニチュードなど、巨大地震発生後には多様な数値がメディアを賑わせることになります。
その中でも、「震度」が一番馴染みのある指標ではないでしょうか。他の指標と違い、物理的な意味よりも「被害の程度」に重点を置いているためわかりやすい指標です。
しかし、「震度」だけで全てがわかるほど地震は単純ではありません。「震度」が小さくても大きな揺れが発生する場合もあります。
2011年の東北地方太平洋沖地震では、大阪では震度3にも関わらず超高層ビルが大きく揺らされました。特に大阪の咲洲庁舎の揺れが有名で、エレベータの停止や家具の転倒など、少なくない影響が出ました。
従来の「震度」だけでは超高層ビルの揺れの状況をうまく表現することができません。そこで2013年から「長周期地震動階級」と呼ばれる超高層ビルを対象とした震度階級が導入されました。
なぜ地震の影響をもっとわかりやすい1つの指標で表現することができないのでしょうか。長周期地震動階級とは何なのでしょうか。できるだけ簡易に説明していきます。
なぜ超高層ビルが揺れたか
2011年の東北地方太平洋沖地震では、震源から遠く離れた東京や大阪でも超高層ビルが大きく揺らされました。
これは巨大地震に伴って発生する「長周期地震動」と呼ばれる、非常にゆっくりとした揺れの成分の影響です。非常に遠くまで伝搬することが知られており、震源から離れてもなかなか揺れが小さくなりません。
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揺れが一往復するのにかかる時間を「周期」と言いますが、長周期地震動は周期が2秒以上と普通の地震よりも非常に長くなっています。
そして地震の揺れだけでなく、全ての建物にもその建物固有の「周期」があります。建物の高さが高くなればなるほど建物の「周期」は長くなっていきます。高層ビルでは建物の周期が2秒以上になります。
建物の周期と地震の周期が一致すると、建物には大きな揺れが生じます。このような現象を「共振現象」と言い、東北地方太平洋沖地震ではまさにこの現象が発生しました。
そもそも震度とは
地震が起こる度にニュースで流れるため、日常的に「震度」という言葉に接していると思います。
しかし、マグニチュードやその他の指標に比べると、その物理的意味は少しわかりにくいです。詳しくは下記記事を参照していただくとして、あえて一言で説明するなら「地震による建物の被害の程度を表す指標」です。
地震の被害は地震の強さだけで決まるのではなく、建物の強さも関係する相対的な事象です。そのため、「震度」は日本でしか通用しない指標です。
マグニチュードや最大加速度の値はある程度地震被害と相関はありますが、それほど単純ではありません。2つの地震を比べる際、マグニチュードが大きい地震の方が、被害が大きいとは限りません。
ほとんどの人は、地震が発生したときに知りたいのは「被害状況」でしょう。その地震がどうして発生したか、どんな特徴を持っていたかも大切ではありますが、まずは被災地がどうなっているかが気になります。
そうした要望に応えるために「震度」が採用されています。
長周期地震動階級とは
長周期地震動階級の導入の経緯
「震度」は100年以上前から使用されている指標です。当然そのころには超高層ビルも免震建物もありませんでした。
そのため、「震度」が想定している被害とは、住宅を中心とした中低層建物の被害です。超高層ビルについては考慮されていません。
先ほど触れたように、地震の周期と建物の周期が一致したときに建物は大きく揺れるわけですが、これは低層建物と高層建物とでは揺れが大きくなる地震が異なるということです。
超高層ビルを大きく揺らす長周期地震動は、中低層のビルに対してほとんど影響はありません。中低層のビルではガタガタとしたもっと素早い揺れの方が、影響が大きいのです。
そのため、現行の「震度」だけでは、超高層ビルの被害をうまく表現することができません。そこで「長周期地震動階級」が導入されることになりました。
4つの階級
「震度」は0から7まであり、5と6が弱と強に分かれているため10段階で評価されます。「長周期地震動階級」は1から4の4段階で評価されます。
一番小さい長周期地震動階級1では“室内にいた人のほとんどが揺れを感じる”程度ですが、長周期地震動階級4になると“立っていることができず、はわないと動くことができない”くらい強烈な揺れです。
2016年の熊本地震や、2018年の北海道胆振東部地震で長周期地震動階級4が観測されています。また、2011年の東北地方太平洋沖地震でも長周期地震動階級4に相当する揺れが発生していたことがわかっています。
長周期地震動階級の算出方法
建物が揺れている状態を表すには「加速度」「速度」「変位」の3つが必要です。この3つの値は、地面と比べる「相対」的なものと、元々建物があった位置と比べる「絶対」的なものとの2つがあります。
これらの揺れを表す値の中で、長周期地震動階級は「絶対速度」によって決まります。絶対速度の大小でどの震度階級に相当するかが決まるのです。
絶対速度とは「地面の速度と建物の揺れる速度を足し合わせたもの」です。地面が右に揺れても、それと同じ速度で建物が左に揺れれば絶対速度はゼロになります。地面と建物が同じ方向に揺れたときに大きな値になります。
では、どうすれば建物に生じる絶対速度を算出することができるのでしょうか。
まず、地面の動きは日本各地にある地震計により記録されます。そのため、地面の速度はすぐにわかります。
次に、この地震の記録を用いて「時刻歴応答解析」を行います。時刻歴応答解析とは、「地面がこう揺れたら建物はこう揺れる、次に地面がこう揺れたら建物はこう揺れる、その次に・・・」という計算を延々と繰り返すことで地震の際に建物がどう揺れるかを解析する手法です。
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解析の対象は「周期」が1.6秒から7.8秒となる建物です。周期0.2秒ごとにモデルを作成するので、計32のモデルを用いて解析することになります。
各モデルの揺れの速度の解析結果と、地面の揺れの速度を各時刻で足し合わせていくことで「絶対速度」が求まります。全てのモデル、全ての時刻の中で最大となる速度を用いて長周期地震動階級を決定します。
なお、この解析は建物の大体下から7割程度の位置を想定して行っています。つまり、30階建ての建物であれば21階付近での揺れを表しています。そのため、それよりも上の階、特に最上部付近ではさらに揺れが大きくなる可能性が高いと言えます。