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耐震等級3は取れるなら取ろう:建築士が優秀じゃないかもと思ったら

建物の耐震性の指標として、品確法の住宅性能表示制度による「耐震等級」があります。

 

□■□疑問■□■

建築基準法による耐震性は人命を保護するための最低限の規定に過ぎないと聞きました。大地震にも壊れない安全な家にするにはどうしたらいいいでしょうか。

 

□■□回答■□■

どんな地震が起こるかわからない以上、絶対に壊れない家というものは存在しませんが、耐震性を評価する一つの目安として「耐震等級」があります。耐震等級には1から3まであり、数字が大きくなるほど耐震性が高くなります。家を新築する際に「耐震等級3」になるようお願いすれば、耐震性についてはある程度安心してもいいでしょう。

 

 

耐震等級とは

『住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)』が2000年4月から施行されました。新築住宅の性能がどの程度なのかを客観的に表示させることが目的の1つで、10分野ある性能のうち「構造の安定」に関する評価が「耐震等級」です。

 

耐震等級は1から3まであり、3が最高評価です。耐震等級1は現行の建築基準を満たす耐震性を有していることを示しており、耐震等級2ではその1.25倍、耐震等級3では1.5倍の強さを有していることになります。

 

耐震等級1でも建築基準を満たしており、耐震等級2や耐震等級3にするかどうかは建築主の判断によります。長期優良住宅の認定や地震保険の割引、フラット35Sの利用等、耐震等級2以上を取得することで受けられる優遇措置があります。

 

耐震等級1の1.25倍、1.5倍とは

耐震等級1の壁量

木造住宅の耐震性と言うのは兎にも角にも耐力壁の量で決まります。柱や梁を多少大きくしたところであまり変化はありません。では耐震等級2と耐震等級3はそれぞれ耐震等級1の1.25倍、1.5倍の耐力壁があればいいのでしょうか。

 

実は、もっとたくさんの耐力壁が無いといけません。「屋根が軽い2階建て建物の1階に必要な耐力壁の量」で比べてみましょう。耐震等級1から順に29、45、54(単位はcm/m2)となっています。ということは耐震等級2では耐震等級1の1.55倍、耐震等級3では1.86倍も耐力壁が必要になるということです。

 

どうして単純に1.25倍、1.5倍になっていないか、これには木造住宅特有の事情があります。過去の実験によると、木造住宅では間仕切りの壁(準耐力壁)や窓の下部分の壁(一定条件を満たした垂れ壁・腰壁)等、耐力壁とは考えていない部分も地震の力を負担します。これが意外に大きく、平均的には建物の強さの1/3程度を占めています。

 

つまり耐力壁で地震の力の2/3を負担できれば、その他の壁が残りの1/3を負担してくれるので問題ないということです。

 

耐震等級1の検討では、その他の壁がどのくらいの効果があるか算定しません。その代わり必要な耐力壁の量が少なめに設定されており、これによりその他の壁の効果を間接的に検討に取り入れています。

 

そのため耐震等級1から耐震性を1.25倍、1.5倍に上げるには、「その他の壁」も含めて壁の量を1.25倍、1.5倍にしなくてはなりません。

 

耐震等級2、3の壁量

耐震等級1とは違い、耐震等級2、3の検討ではその他の壁がどのくらいの効果があるかを算定します。先ほどの「屋根が軽い2階建て」の例で言うと

 

耐震等級1:耐力壁だけで29cm/m2

耐震等級2:耐力壁とその他の壁で45cm/m2(=29×1.55)

耐震等級3:耐力壁とその他の壁で54cm/m2(=29×1.86)

 

ということになります。その他の壁を壁の量に算入しているので、単純に耐震等級1の1.25倍、1.5倍ではいけないことがわかります。ではこの1.55倍、1.86倍という数値はどこから出てくるのでしょうか。

 

実は1.25×1.25≒1.55、1.25×1.5≒1.86となっています。つまり耐震等級1では「耐力壁では必要な耐震性の80%しかなく、残りの20%はその他の壁が負担している」ものとし、0.8に1.55あるいは1.86を乗じることで1.25または1.5という数値が導き出されていると考えることができます。

 

耐震等級2、3とするための基準

耐震等級を2や3にするには満たさなくてはならない基準があります。構造計算をしない場合の木造住宅について簡単に説明します。

 

1.建築基準法の必要壁量以上の壁を設ける

これは建築基準法により求められるものなので、耐震等級1でも必ず満たさなくてはなりません。これを満たすことで最低限の安全性は確保されることになります。なお、この壁の量には「準耐力壁」のようなその他の壁は含みません。

 

2.各等級の必要壁量以上の壁を設ける

この壁の量には「準耐力壁」のようなその他の壁も含まれています。「その他の壁を含まずに満たす」よう推奨している工務店や設計事務所も多いようですが、耐震等級を取得する目的に応じて変えればいいでしょう。その他の壁を含まずに満たそうとすると、当然工事費が増加することになります。耐震性よりも優遇措置が目的であれば、その他の壁も含めるべきでしょう。

 

3.耐力壁同士の間隔(平行距離)を近づける

建物の重さは床に集中しているため、地震の力も大半が床に生じます。地震の力は最寄りの耐力壁まで床により伝達されることになりますが、耐力壁同士が離れていると床の変形が大きくなってしまいます。そうするとうまく耐力壁に力が伝達されなくなるため、基本的に耐力壁の間隔は8m以下にしなくてはなりません。

 

4.床を強くする

先ほども書いたように、地震の力は主に床に生じます。また、1階と2階で壁がずれていると、2階の壁が負担している力は床を介して1階の壁に伝達されることになります。そのため、耐力壁の間隔や上下階でずれている壁を考慮して床の強さを決定する必要があります。

 

5.接合部を強くする

建物はいろいろな部材で構成されていますが、その部材同士をしっかりと繋がないと力がうまく伝達されません。コンクリートの様に全ての部材が一体化されていればいいのですが、木造では一本一本が別々になっており金物を介して接合しなくてはなりません。適切な金物の選定が必要です。

 

6.梁を強くする

「梁」とは地面と水平な部材で、主に床の重さを支えています。梁が長くなったり、重たいものが載ったりするところは梁の断面を大きくする必要があります。どの程度の大きさが必要かは「早見表」があります。

 

耐震等級2、3を取得するには、上記の全てを満たす必要があります。「これは大変だ」と思われたでしょうか。

 

個人的には「建築士を名乗るなら、そのくらい耐震等級とか関係なく検討しろよ」と思います。耐震等級1の場合、「床も接合部も梁も弱く、一応耐力壁の量だけは足りている」という残念な建物ができる可能性がゼロではないということです。

 

耐震等級2、3は必要か

「耐震等級を上げた方が、壁がたくさんあって安心だ」、「耐震等級1だと検討項目が少な過ぎて心配だ」という気持ちになっているでしょうか。ここまで読んでいただいた方はおそらくそうでしょう。

 

しかし、優秀な建築士が担当するのであれば耐震等級なんて不要ですし、構造計算もいらないと思っています。木造住宅の構造および耐震性は電卓1つあれば大体のことがわかります。それを「構造計算ソフト」や「認定基準」に頼らないといけないというのは、本来技術者として望ましい姿ではありません。

木造住宅に構造計算は必要か?計算よりも大事なこと

 

下手な建築士が計算ソフトを使用して構造計算した耐震等級2に住むくらいなら、優秀な建築士が電卓片手にサッと検討した耐震等級1の方がよっぽど安全・安心です。実際に熊本地震では耐震等級2の倒壊事例があります。マニュアル通りにやればできるというほど耐震工学は単純な学問ではありません。

こんな家住みたくない:構造設計一級建築士が避ける建物

 

とはいえ、優秀な建築士に担当してもらえるかはわかりません。「なんだかこの建築士怪しいぞ」ということもあるでしょう。そんなときは「耐震等級3でお願いします」が一番安心だと思います。

優秀な建築士の見分け方:構造に関するたった2つの質問

 

同じ耐震等級2や3でもその性能に大きな差があることは明らかですが、やはり平均値としてはかなり性能が上がっているはずです。優秀でない建築士が担当してもそこそこの性能が確保できる、それが耐震等級2であり、けっこうな性能が期待できる、それが耐震等級3です。