バッコ博士の構造塾

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関東大震災を引き起こした相模トラフ:首都圏のビルをどう設計すべきか

日本に巨大な地震を引き起こすのは日本海溝や南海トラフだけではありません。

 

□■□疑問■□■

首都圏に巨大地震が起きる可能性はあるのでしょうか。首都圏の機能がマヒすると日本中が大変なことになりそうです。

 

□■□回答■□■

直下型の地震であれば日本中どこでも起こる可能性がありますが、相模トラフ沿いを震源域とする巨大地震は繰り返し横浜・東京近辺で発生しています。直下型の地震と比べ地震のエネルギーが非常に大きくなるため、首都圏の広域に被害を及ぼす可能性があります。専門家による検討が行われており、今後設計基準の変更が行われるでしょう。

 

 

相模トラフとは

日本海溝のように日本の地下深くにプレートが沈み込んでいくような部分では、周期的に巨大地震が引き起こされます。2011年には東北地方太平洋沖地震がありましたが、近年では特に南海トラフ沿いの巨大地震の発生が危惧されています。

 

しかし、日本にあるのはその2つだけではありません。関東大震災を引き起こした「相模トラフ」があります。相模湾から南東に伸びる、全長250kmのプレート境界です。

 

地震多発地域として知られており、1703年の元禄関東地震、1923年の大正関東地震など、マグニチュード8前後の地震が発生しています。それ以前の記録が乏しいため、正確な再来周期はわかっていません。

 

相模トラフ地震に関する検討

内閣府では「首都直下モデル検討会」および「相模トラフ沿いの巨大地震等による長周期地震動検討会」が設けられています。また、文科省の地震調査研究推進本部では「長周期地震動評価2016年試作版-相模トラフ巨大地震の検討-」が出されています。

 

法人としては、日本建築学会で相模トラフ地震WGが設置され、従来の耐震設計法の見直しを検討しています。

 

何れの機関も緊急性が高い「南海トラフ沿いの巨大地震」の検討を先に行っており、それ終わってから「相模トラフ」に取り掛かっています。「南海トラフ」では震源域から遠い首都圏の建物への影響は比較的小さかったのですが、近傍で発生する「相模トラフ」では大きな被害が予測されます。

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元禄関東地震と大正関東地震

相模トラフが引き起こした地震として確実なのは「元禄関東地震」と「大正関東地震」だけです。昔のことなので正確な規模はわかりませんが、「元禄」の方が「大正」よりもマグニチュードが0.2程度大きいと考えられています。

 

マグニチュードが1違えば地震のエネルギーは約31.6倍違います。たかが0.2ではありますが、「元禄」の方が「大正」よりも2倍もエネルギーが大きかったことになります。

 

震源域も大きく違います。「大正」では神奈川全域から千葉の西半分くらいまでですが、「元禄」ではさらに千葉の東半分と千葉県沖まで含まれます。

 

また、再来周期も大きく違います。「大正」の範囲のズレは数百年程度ですが、「元禄」になると2000年以上と考えられています。

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設計用地震動

「相模トラフ沿いの巨大地震」を想定し、建物設計用の地震動を設定する必要があります。では「元禄」と「大正」、どちらを参考に設定すべきでしょうか。「当然規模の大きい元禄」でしょうか。あるいは「それ以前にあったであろう地震も含めて」でしょうか。

 

2011年の東北地方太平洋沖地震では「想定外」という言葉が頻繁に使われました。これからの設計において「想定外」は厳に慎まなければなりません。しかし「対象外」は必要かもしれません。

 

「元禄」からは300年、「大正」からは100年が経過しました。予測される再来周期からはまだ数百年以上あります。「まあ、大丈夫だろう」ということで「想定」しないわけにはいきませんが、想定されるもの全てを設計の「対象」にするかは議論の余地があります。

 

建築はあくまでも経済活動です。「今までよりデザイン性が低く、使い勝手が悪い建物に、今までよりも高いお金を払え」となってしまえば、経済にも大きな影響が出ます。

 

また、「絶対に壊れない建物」が造れません。どれだけ頑丈に造っても倒壊の確率がゼロにならない以上、どこかで線を引かなくてはなりません。人命保護のためには最低限の基準は必要ですが、確率を0.01%にするか0.001%にするかは建築主が決めるべき項目として残しておくべきではないでしょうか。

 

実際に検討会では「元禄」も「対象」とするのか、あるいは「想定」だけにするかで議論が分かれていると聞きます。何でもかんでも安全を見て大きめの設定にすることは簡単ですが、それは素人でもできてしまいます。

 

近いうちに「相模トラフ」を対象とした設計用地震動が発表されるでしょうが、「元禄」と「大正」のどちらの地震を基にしたものか注目です。

 

首都圏のビル・マンションを購入予定の方へ

「相模トラフ沿いの巨大地震」は直下型の地震と違い、中低層ビルよりも超高層ビルや免震建物への影響が大きいと考えられます。戸建住宅や低層のマンションでは従来の耐震基準で設計されていれば問題ありません。タワーマンションや免震構造の建物の場合、現行基準よりも厳しい基準で設計されている方が安心です。

 

実際のところ、「南海トラフ」と比べれば発生確率はかなり低いでしょう。しかし「熊本地震」も誰も起こるとは思っていませんでした。

 

耐震性を上げるための費用を負担するか否か、難しい問題ですが自分が決めなくてはいけません。