バッコ博士の構造塾

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許容応力度がよくわかる:これだけは知っておきたい設計の基本

建物の安全性を検証する方法はいくつかあります。その中で最も基本となるのが、「建物の各部材に損傷が生じていないか」を確認する計算です。

 

そして、損傷が生じているかいないかの判断に用いられる指標が「許容応力度」です。

 

許容応力度は材料ごとに違います。しかし、ある1つの材料に対して許容応力度は1つだけではありません。いくつもの許容応力度が存在します。

 

どのくらいの時間、どのような方向の力が作用するかで許容応力度の値は変化します。許容応力度とは一体何か、その基本を理解しましょう。

 

 

許容応力度とは何か

許容応力度とは読んで字のごとく、その材料が「許容」できる「応力度」です。では「許容」とは、「応力度」とは一体何なのでしょうか。

 

許容って何?

ある材料で造った部材がどのくらいの力で壊れるかというのは、実際にその材料で造った部材を用いて実験すればわかります。

 

しかし、どのくらいの力まで「許容」できるかというのは主観です。誰かが決めないことには決まりません。

 

つまり「許容」とは、人間の都合により「ここまでは許容できる」と決めた値だということです。

 

部材が壊れることは許容できません。だからといって、ほんの少しの変形も許容できないということもありません。

 

損傷しないギリギリまでなら許容する、というのが一般的です。「損傷する」とはどういうことかを決めるのも難しいですが。

 

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応力度って何?

建物の各部に生じている力の大きさを「応力」といいます。そして、単位面積あたりに生じている応力の大きさ「応力度」といいます。

 

「応力」と「応力度」の違いがわかるよう、簡単な例を挙げてみます。

 

ここに、強いコンクリートで造った柱と、弱いコンクリートで造った柱があります。

 

この柱にそれぞれ10トンの力を加えると、強いコンクリートの柱だけ壊れてしまいました。それはなぜでしょうか。

 

それは強いコンクリートで造った柱は細く、弱いコンクリートで造った柱は太かったためです。拍子抜けでしょうか。しかし、応力度を理解するためには大事な考え方です。

 

この例では、どちらの柱にも10トンの力が作用していますので「応力」は同じです。しかし太さが違うため、応力を柱の断面積で割った「応力度」は違うのです。

 

柱が力に耐えられるかどうかは、「応力度」にすることで初めてわかります。

 

応力度の単位は力を面積で割ったものです。建築の構造の分野ではMPa(メガパスカル)またはN/mm2(ニュートンパースクエアミリメートル:単に「ニュートン」とも言います)を使用します。

 

柱の面積が小さければ応力度は大きくなり、面積が大きければ応力度は小さくなります。仮にコンクリートの強さが2倍であっても、柱の面積が1/3しかなければ、先に壊れるのは強いコンクリートの方です。

 

難しいわけではありませんが、「応力」と「応力度」の区別は非常に重要です。

 

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許容応力度の種類

許容応力度にもいくつか種類があります。どのようなものがあるか見てみましょう。

 

時間による分類:長期許容応力度と短期許容応力度

力の作用する時間が長いか短いかによる分類があります。それが「長期許容応力度」「短期許容応力度」です。

 

建物に長期に作用する力とは、「重力」のことです。

 

雪の多い地域では、ある程度の積雪を見込む場合もあります。建物ができてから解体されるまで、常に作用し続けます。

 

建物に短期に作用する力とは、「地震」「風」の力のことです。

 

作用する時間としては、地震であれば長くて数分、風であれば1時間程度でしょうか。建物の寿命が数十年とすれば、短期に作用する力はほんの一瞬の出来事と言うことになります。

 

常に作用し続ける力に対しては少し余裕を持っておきたくなります。逆に一瞬のことであれば、ある程度は大目に見てもいいかという気がします。

 

そのため、一般的に短期許容応力度は長期許容応力度の1.5倍2倍の大きな値となっており、重力に対してはかなり余裕のある設定になっています。

 

また、建物を施工する際の仮設の部材などでは「中期許容応力度」という考え方をすることもあります。

 

工事期間中の数か月しか使用しないため、「長期許容応力度では余裕を見過ぎてもったいない」ということで用いられます。長期許容応力度の1.25倍としており、長期と短期の中間の値を採用します。

 

方向による分類:圧縮・引張・曲げ・せん断許容応力度

力の作用する向きが部材に対してどうなっているかによる分類があります。

 

部材と平行に縮めるのか、引っ張るのか、あるいは部材と直角に曲げるのか、ずらすのか。それぞれの力に対応するのが「圧縮許容応力度」「引張許容応力度」「曲げ許容応力度」「せん断許容応力度」です。

 

これらの値は材料の特性によって違います。

 

鋼材の場合、圧縮・引張・曲げは同じ値になります。しかし、せん断はその60%弱まで小さくなります。

 

コンクリートの場合はもっと 極端です。せん断は圧縮の1/10しかありませんし、引張にいたってはゼロです。

 

合理的な設計をするには、材料の特性をよく知っておくことが肝心です。

 

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建築材料の許容応力度

人間が「このくらいなら許容できる」と材料ごとに決めた「応力度」が「許容応力度」でした。では具体的な建築材料について数値を見ていきましょう。

 

コンクリートの許容応力度

コンクリートはセメント、砂、砂利、水を混ぜ合わせ、水和反応により凝固させたものです。その配合により強度は大きく変化します。

鉄筋コンクリート造がよくわかる

 

ここではコンクリートの特性を表す代表的な要素である「圧縮許容応力度」について見ていきます。

 

コンクリートに圧縮荷重を加えていきます。このとき、ある荷重を超えると砂利の角を起点として内部にひび割れが生じます。

 

荷重の増加に伴いどんどんひび割れが進展していき、他のひび割れと一体化して大きなひび割れになっていきます。そして最終的には破壊(破断)に至ります。

 

破壊するまでに耐えられた最も大きい圧縮応力度が「圧縮強度」で、この1/3倍がコンクリートの長期許容圧縮応力度、2/3倍が短期許容圧縮応力度になります。

 

強度の2/3倍の応力度までは損傷しない、つまり内部にひび割れは生じないということではありません。コンクリートは複雑な材料なため、明確に損傷する、しないの線引きをするのが難しく、便宜的に1/3や2/3という数値を使っています。

 

コンクリートは強度以下の応力度であっても、繰り返し力を加えたり、長時間力を加えたりすると壊れてしまうことがあります。コンクリートは謎多き材料であり、強度の2/3までしか使用できません。

 

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鋼材の許容応力度

建築用鋼材は工場で管理された特性のばらつきが小さい材料です。製品ごとにばらつきの値は許容値内に収まっています。

 

鋼材を引っ張っていくと、途中からあまり力を加えなくても変形が大きくなっていく軟化現象が起こります。これを「降伏」と呼びます。そして更に伸び続け、最後には切れて(破断)しまいます。

 

部材が切れるまでに耐えられた最も大きい引張応力度が「引張強度」ですが、鋼材の許容応力度には強度が関係しません。鋼材の許容応力度は「降伏」する応力度を基準に決められます。

 

降伏時の応力度が鋼材の短期許容応力度、この2/3倍が長期許容応力度です。コンクリートの圧縮許容応力度は長期と短期で1:2の関係でしたが、鋼材は1:1.5の関係にあります。

 

鋼材は降伏する前までは何回変形させても元の形状に戻ります。降伏してしまうと力を抜いても元に戻らず、損傷が蓄積していきます。

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鉄筋の許容応力度

鉄筋も鋼材と同じような性質を示します。鋼材と同様、短期許容応力度は部材が「降伏」するときの応力度です。

 

では長期許容応力度はその2/3倍かというと違います。もっと小さな値になるのです。

 

鉄筋はコンクリートとセットで使用します。コンクリートの代わりに引っ張る力を鉄筋が負担するのです。

 

鉄筋が力を負担するということは、若干ながら鉄筋が伸びるということです。そして鉄筋が伸びた分だけコンクリートにはひび割れが生じます

 

もし鉄筋の長期許容応力度を短期許容応力度の単純に2/3倍とすると、鉄筋は大きな力を負担することができます。そうするとかなり大きな幅のひび割れが生じることになります。

 

コンクリートのひび割れは耐久性に影響しますし、美観上も好ましくありません。そこでひび割れ幅を制御するため、鉄筋の太さに応じて長期許容応力度には制限がかけられているのです。