バッコ博士の構造塾

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SE構法(SE工法)の耐震性:本当に在来工法よりも強いのか

日本の戸建て住宅のほとんどは木造です。鉄骨造やコンクリート造の住宅を取り扱う大手ハウスメーカーもありますが、戸建て住宅全体から見ればまだまだ少数です。

 

基本的に日本人の大多数は木の家が好きなのでしょう。森林が豊富な国ですので、それも当然のことと言えます。

 

しかし、日本は地震大国でもあります。「木は好きだけど、耐震性が気になるからコンクリート造にする」という方もいます。

 

自然材料である木材は、鉄やコンクリートに比べて信頼性に劣る部分があるのは事実です。木造の耐震性に不安を感じる気持ちも理解できます。

 

ただ、同じ木造と言ってもいろいろな構法があり、構造性能の信頼性を高めた「SE構法」という構法もあります。従来の木造では実現できないような空間を構築でき、かつ耐震性も高いということで選ばれているようです。

 

今回はこのSE構法の耐震性について、従来の木造と比較しながら考察してみます。

 

 

SE構法とは

構法名:Engineering(工学)の意味

SE構法のSとEはそれぞれSafety(安全)Engineering(工学)を表しています。

「安全な構法」は意味が分かりますね。「この構法なら地震に強い、安全な家ができるぞ」ということでしょう。

 

では「工学的な構法」とはどういうことでしょうか。

 

「工学」と言うからには学問です。学問である以上、勘や経験だけで物事を進めてはいけません。もちろん経験も重要ではありますが、何かしらの理屈や理論による裏付けが必要になります。

 

わざわざSE構法では「工学」であることを主張しています。つまり、SE構法ではない昔ながらの大工さんが造る家は「工学」ではない、ということがほのめかされています。

 

一般的な木造住宅に使用される柱や梁などの部材は、山から切り出してきた木そのままです。丸太の縁を切り落として四角くし、乾燥させてはいますが、何か特別な処理をしているわけではありません。

 

当然ながら、木は一本一本その性質が違います。同じ太さの製材であっても、硬さや強さは大きくばらつくことになります。

 

「技術的な解決を行わず自然そのままに任せた材を使用する、これを工学とは呼べないのではないか」というのがSE構法の考案者の思いでしょうか。

 

SE構法では、薄い板をいくつも貼り合わせて作られた「構造用集成材」と呼ばれる材を使用します。一本の木、一枚の板だけではばらつきが大きくても、それらを複数組み合わせると部材の性能は平均値に近づいてきます。

 

使用する材の性能がしっかりとわかること、これが重要です。それがわかってはじめて精緻な計算も意味を持つようになります。

 

構法の特徴:木造によるラーメン構造

SE構法と在来工法の違いは、使用する材の違いだけではありません。より大きな違いは地震に抵抗する機構が違うということです。

 

在来工法が壁などの「面」によって地震に抵抗するのに対し、SE構法では柱や梁などの「線」によって地震に抵抗します。専門用語を使えば、SE構法は「ラーメン構造」であると言えます。

ラーメン構造がよくわかる

 

実は、一般的な木造住宅の柱や梁は、地震に対してほとんど抵抗しません。柱や梁を多少大きくしたところで、耐震性が高まるわけではないのです。

 

その理由は、柱と梁がしっかりとくっついていないからです。地震に抵抗しようにも、接合部がクルクルと回転して緩んでしまうので力を負担できないのです。

ピン接合と剛接合

 

それに対してSE構法では、特殊な金物を使用することで柱と梁をしっかりと接合することができます。その結果、柱と梁が地震の力に抵抗できるようになります。このような構造を「ラーメン構造」と言います。

 

SE構法の特徴・メリットは本当か

SE構法とは「性能が確かな材を用いた木造のラーメン構造」です。

 

この特性により、従来の木造ではできなかったことができるようになります。実際、いろいろなサイトでSE構法のメリットが挙げられています。

 

しかし、記載されていることの全てを鵜呑みにしてしまって大丈夫でしょうか。構造設計者の視点から考察してみます。

 

大開口・大空間

SE構法のようなラーメン構造では「大きな開口・空間」を設けることができます。

 

在来工法でも壁一面を窓にすることは可能ですが、通常は間にいくつか柱を立てる必要があります。「窓を全て脇に寄せられるので、リビングとバルコニーが一体化します」というのは難しいです。

 

柱と柱の間隔を広くするには大きな断面の梁が必要になりますし、それを支える柱の負担も大きくなります。梁と柱との接合部分にも大きな力が生じるため、特殊な金物で緩みが出ないようにくっつけなければなりません。

 

SE構法なら柱や梁は集成材なので大きい部材も調達が簡単ですし、接合部もそれに応じて開発されています。木造で大開口・大空間を実現したいなら、やはりSE構法が断然優れているでしょう。

 

ただ、SE構法にすればなんでもうまくいくというわけではありません。大きな開口や空間があれば、それだけ耐震性は低下してしまいます。

 

壁が無くても柱と梁が地震の力を負担できるというのは大きな利点です。しかし、その柱と梁だけで十分かどうかというのは別の問題です。

 

壁のような「面」と、柱や梁のような「線」とでは、部材の強さが違います。耐震性を高めるには壁をうまく活用したほうがいいのです。

 

SE構法だろうが何だろうが、大開口や大空間を設けるのは構造的に不利になることを理解しましょう。あくまでもSE構法は「その不利を補いやすい構法である」ということです。

 

吹き抜け

開放感を高めたり、空間同士の繋がりを強めたりするのに「吹き抜け」は効果的です。SE構法では通常の建物よりも多くの吹き抜けを設けられるのでしょうか。

 

結論から言うと、SE構法でも在来工法でもあまり差はないと考えられます。その理由を説明していきましょう。

 

まず、構造設計の視点からすれば、吹き抜けとは「床に空いた穴」です。当然穴の無い床と穴のある床とでは、穴の無い床の方が強いわけです。

 

建物の耐震性は基本的に壁や柱の性能で決まります。床をどれだけ強くしてもあまり意味はありません。

 

しかし、床にも役割があります。

 

それは、建物に生じた地震の力を壁や柱まで伝達することです。吹き抜けが多過ぎると力の通り道が不足し、この役割を果たせなくなってしまう可能性があります。

床の役割とは?

 

局所的にものすごく強い材を配置すると、その材に繋がる床も相応に強くしなくてはなりません。そうなるとその材の周囲に吹き抜けを設けにくいです。

 

逆に地震の力を負担する材が均等に分散して配置されていれば、床もそれほど強くする必要はありません。吹き抜けを設けやすくなります。

 

部材の配置がどうなっているかということと、SE構法か在来工法かということはあまり関係ありません。むしろ各壁の性能を同じにした在来工法の方が均等な配置に近いかもしれません。

 

「構造計算をして安全性を確かめている」から吹き抜けを設けやすいというのは説明になっていません。それは構造計算の有無の違いであって、構法の違いとは関係ないのです。

 

SE構法は強いのか

SE構法についていくつか考察してきました。では、結局のところSE構法は耐震性が高いのでしょうか、低いのでしょうか。

 

これも結論から言いますが、平均的には高い耐震性を有していると考えられます。性能が安定している集成材を用い、専用の金物があり、構造計算を行っている、強くなるのも当然でしょう。

 

しかし、重要なのは「平均的に」という点です。「絶対的に」ではありません。何でもわかっていれば強くなるというのは幻想です。

 

強さが8~12くらいにばらつく自然の木と、強さが10とわかっている集成材、扱いやすいのは集成材の方です。ただ、どちらが強いかはわかりません。

 

精度の低い簡易な計算の結果、強さが8~12くらいの範囲だとわかった建物があります。最新のプログラムを用いた精緻な構造計算の結果、強さが10だとわかった建物があります。

 

この場合も先ほど同様、どちらが強いかはわかりません。ただ、扱いやすいのは精緻な計算をした建物の方です。

 

SE構法の方がいろいろとケアが成されており、性能が高くなる場合も多いでしょう。ただ、建物の性能を決めるのは構造設計者です。計算はその確認作業に過ぎません。

 

○○だから強い、△△だから弱い、という簡単なルールがあれば助かります。しかしそのような都合のいいものはなく、しっかりと勉強して信頼できる構造設計者を探すしかありません。