バッコ博士の構造塾

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通し柱がある家は強いのか:耐震性を高めるために必要なこととは

建築基準法には建物を建てる際の決まり事が書かれています。その中には当時の最新の知見をもとに盛り込まれたものもありますし、慣習的に行われてきたことが明文化されたものもあります。

 

しかし、時代と共に建物は少しずつ変化していきます。当時の建物にとって良いことでも、現在の建物にとっては必ずしもいいとは限らないこともあります。

 

その代表格が「通し柱(とおしばしら)」に関する部分ではないでしょうか。家づくりのために情報収集をはじめた人たちを惑わせる困った一文が残っています。

 

データに基づいて、しっかりと正しい知識をつけましょう。

 

 

通し柱とは

木造住宅において、1階から2階まで継ぎ目がなく一本の材で構成されている柱が「通し柱」です。「下から上まで通っている」ので「通し」なわけです。

 

逆に、1階と2階とで別々の材に分かれている柱は「管柱(くだばしら)」といいます。どちらも建物の重さを支えるのが主な役割です。

 

2本に分かれてバラバラな管柱より、1本でしっかりつながっている通し柱の方がよさそうな印象を受けます。この通し柱について基本的なことをまずは見てみましょう。

建築基準法

通し柱について調べている人がすぐにたどり着くのが下記の条文です。

「階数が2以上の建築物におけるすみ柱又はそれに準ずる柱は、通し柱としなければならない。ただし、接合部を通し柱と同等以上の耐力を有するように補強した場合においては、この限りでない」

 

2階建てや3階建てだったら隅の柱を通し柱にしなさい。通し柱にしたくないんだったら、しっかりと補強して弱くならないようにしなさい。ということです。

 

「通し柱は管柱よりもよい」ということが読み取れる文章となっています。

通し柱の位置

法律には通し柱を「隅に入れろ」と書いてあるわけですが、では隅とはいったいどこのことを指しているのでしょうか。

 

建物のかたちがきれいな長方形であれば誰も迷いません。明らかに四つ隅があるので、四隅に入れるでしょう。

 

では「L字型」だとどうでしょう。5つの出っ張った角(出隅)と、1つの内側に入り込んだ角(入隅)があるので6本必要ということでしょうか。

 

他にも、ほとんど長方形だけど、ほんの一部だけ出っ張りがある場合、1階と2階のかたちが違うため上下で隅がそろわない場合など、よく考えてみると意外に難しいことがわかります。

 

もともとの法律の趣旨は「建物をちゃんと一体化させて地震や台風に耐えられるようにしましょう」ということなので、建築士が適切な位置を決める必要があります。

 

通し柱はほかの柱と区別するために図面上では「○」で囲まれています。変わったかたちの建物であれば、どうしてそこを通し柱としたのか建築士に聞いてみても面白いかもしれません。

建築士の専門分化:意匠屋さん本当に構造わかってる?

通し柱の寸法

木材は規格化されているので、一般に流通している寸法のものを使うと経済的です。

 

そのため、特に大きな力がかからないところは通常の管柱と同じ105mm角(3.5寸)、大きな力かかるような場合は部分的に120mm角(4寸)を使用することが多いようです。

 

伝統構法と呼ばれるような古いつくりの建物であれば180mm角(6寸)と大きな寸法のものを使用していることもあります。また、大黒柱ともなれば240mm角(8寸)ということもあります。

 

ただ、現代においてそのような材を使った住宅はきわめて稀です。

 

通し柱はいる?いらない?

通し柱は構造上、大切な位置にある。負担する力に応じて太いものを使うこともある。そもそも、法律に「入れろ」と書いてある。

 

であれば「いるに決まっている」ように感じます。しかし、本当にそうでしょうか。

 

ここからは「いらない」理由を列記していきます。

耐震性の向上

木造住宅の安全性を確認する簡単な方法として「壁量計算」があります。その名の通り、壁の量を計算するだけでよく、紙とペンと電卓があれば事足りる楽な方法です。

壁量計算がわかる

 

この計算では柱の情報は一切必要ありません。通し柱が何本あるとか、太さが何cmあるとかは全く考慮されません。

 

なぜ柱を考慮しないのか、それは柱の本数や太さと耐震性はほとんど関係ないからです。壁があるかないかで耐震性の大部分が決まってしまうので、柱を無視しても十分な精度で検証できてしまうのです。

2×4工法

現在の木造住宅の大半は「在来軸組構法」という柱や梁、筋かいといった細い材を組み合わせたつくりになっています。

 

しかし近年は、壁や床といった面でできた材を組み合わせた「枠組壁構法」、いわゆる「2×4(ツー・バイ・フォー)」の比率が上がってきています。

 

2×4は、平均的にみて耐震性が高いことが知られています。2016年の熊本地震でもあまり被害は出ませんでした。

熊本地震の被害状況から考える木造住宅の耐震性

 

そしてこの2×4、実は通し柱が一本もありません。1階の壁をつくったあとに2階の床をつくり、その上に2階の壁を付け足していくので、通し柱を入れようがないのです。

 

通し柱がなくても地震に強い建物にできることの証明となっています。

断面欠損

縦の材(柱)と横の材(胴差、梁、etc.)が十字に交わるところでは材同士が干渉するので、どちらかの材は2つに分かれることになります。横の材を優先するなら管柱、縦の材を優先するなら通し柱となります。

 

通し柱とした場合、横の材を通し柱にくっつける必要があります。横の材を載せるには柱を欠き込むことになるので、柱が穴だらけの状態になってしまいます。穴があればその分だけ断面が小さくなり(断面欠損)、柱は弱くなります。

 

「横の材を優先して管柱としたところは横の材が弱くなるから結局同じでは?」というとそうではありません。横の材と縦の材とでは地震時に受ける力が違います。

 

横の材の場合、地震時には穴のある位置の右と左とで似たような変形をします。一方縦の材の場合、地震時には穴のある位置の上と下、つまり2階と1階とで変形が異なります。

 

変形差ができると通し柱が「く」の字に曲げられるので、穴があいて弱くなっているところに負担がかかります。その結果、そこからバキッと折れてしまうことがあります。

 

実験結果から見る通し柱の効果

通し柱は地震に対して建物を強くする効果が期待できないこと、むしろ弱点をつくってしまうことを書きました。もちろんこれはバッコが適当に思いつきで書いているのではなく、根拠があってのことです。

 

いくつか通し柱の実験に関する論文がありますので、ここではその結果に沿って、具体的に数字を交えながら見てみましょう。

通し柱と管柱の比較

2間×2間(八畳間)、2階建ての実大の骨組みをつくり、ゆっくり横に押して壊すという実験の報告が住友林業からされています。

 

その中に、隅の柱を通し柱にしているか・管柱にしているか以外は全く同じ条件の結果があります。この結果を見れば通し柱の効果がわかります。

 

まず建物が耐えられる最大の力の大きさですが、通し柱としたもののほうが1割程度小さくなっています。当然ながら、耐えられる力が大きいほど耐震性は高いので、通し柱により耐震性が低下することがわかります。

 

次に変形性能ですが、通し柱としたものが最大の力を発揮するときの変形は、管柱としたものが最大の力を発揮するときの変形の70%程度しかありません。変形できないということは小さなエネルギーで倒れてしまうということなので、この面でも通し柱は劣っています。

 

また、最大の力を発揮したあと、管柱としたものは少しずつ壊れていくのに対し、通し柱としたものは壊れていく度合いが大きいです。管柱では金物が曲がることで粘り強い変形をしますが、通し柱はボキッと折れてしまっているからです。

 

ただし、建物が耐えられる最大の力に達するまでは、通し柱としたもののほうがほんの少しだけ硬いです。硬いほうが地震時の変形は小さくなる傾向にあるので、その点に関しては通し柱のほうがよいことになります。

 

とはいえ、その差は微々たるもので、気にするほどではありません。その他の性能で通し柱が負けているのは明らかです。

通し柱の太さの比較

通し柱の太さを変えた実験の報告が立命館大学からされています。通し柱の太さを120mm角(4寸)または180mm角(6寸)として実験を行っています。

 

さきほど、地震時に通し柱は「く」の字に曲げられる、と書きました。これは、「く」の字に曲がらないほど通し柱が硬くて強ければ、建物の変形を抑制できるということでもあります。

 

実験の結果、180mm角の大きな柱を使用すれば、1階と2階の変形の差は小さくなります。通し柱も太くすれば多少は効果があるようです。

 

ただ、もともと変形が大きかった1階では変形が小さくなっていますが、もともと変形の小さかった2階では逆に変形が大きくなっています。あくまでも変形差を小さくするだけで、全体的な変形を小さくする効果は薄そうです。

 

現代の住宅で180mm角という大きな柱を使うことはほとんどないでしょうし、仮に使っても大した効果は得られないでしょう。

 

建築基準法の通し柱に関する条文の意味

わざわざ法律に書いてあるにもかかわらず、通し柱のよいところはほとんど見当たりませんでした。ではなぜ、今なお法律には通し柱を入れろと書いてあるのでしょうか。

 

おそらく「昔の名残」というのがその答えでしょう。

 

今でこそ材と材を金物でつなぐのは当たり前となっていますが、古い住宅ではただ材を切り欠いて差し込んであるだけのものも多いです。建物はふにゃふにゃと柔らかく、大きな力がかかるとすぐにバラバラになってしまう状態です。

 

太い材を使っていたころであれば、通し柱により建物を硬くする効果は多少見込めます。また、柱が抜けて1階と2階がばらばらになることを防ぐ効果もあるでしょう。

 

しかし、建物が硬く、ほとんどの材が金物でつながれている現代の住宅においてはあまり意味のあることではありません。それよりも通し柱とすることのデメリットのほうが目立ってしまいます。

 

せっかく「接合部を通し柱と同等以上の耐力を有するように補強した場合においては、この限りでない」と書いてあるのですから、こちらを採用したいものです。採用しないにしても、わざわざ隅柱以外を通し柱にするようなことはやめておきましょう。

 

 

参考文献

那須ほか:木造軸組工法における構造仕様の違いについて(その1)通し柱と管柱、面材耐力壁と筋かい耐力壁の構造性能比較、日本建築学会大会学術講演梗概集(東海)、2003.9

向坊ほか:通し柱を有する伝統木造軸組の地震応答に関する研究、日本建築学会大会学術講演梗概集(東海)、2012.9