バッコ博士の構造塾

建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

2018-01-01から1年間の記事一覧

耐震スリット・構造スリットとは何か?スリットを入れてはいけない建物に注意

柱と壁の間、あるいは梁と壁の間にスリット(隙間)を設けることで建物の耐震性が向上する場合があります。 □■□疑問■□■ わざわざ建物にスリットを設けることで、どうして建物が地震に強くなるのでしょうか。隙間を埋めた方が強いように感じられます。 □■□回…

構造設計者になるなら知っておきたい建物の力のオーダー

解析ソフトを使えば誰でも構造計算が出来てしまう時代です。だからこそ、実際の建物の寸法、重さ、硬さ、空間、そういったものを感覚的に身に付けておきたいものです。 □■□疑問■□■ 建物のような大きな構造物が地震時に変形すると言われてもピンときません。…

南海トラフ地震で大都市圏が揺れる:長周期地震動の恐怖

東海地震から東海・東南海地震、東海・東南海・南海地震ときて、今では南海トラフ地震という巨大な規模の地震を想定するようになりました。 □■□疑問■□■ 東北地方太平洋沖地震のように、南海トラフでもマグニチュード9クラスの地震が起こるのでしょうか。 □■□…

減衰とは何か:減衰振動・自由振動・共振との関係

ばねに吊るしたオモリを引っ張ってから手をはなすと上下にビヨンビヨンと揺れます。プラスチックの定規を指ではじくとブーンと揺れます。 しかし、どちらもいつかは揺れが収まり止まってしまいます。揺れが収まるのはなぜか、それは「減衰」があるからです。…

中低層マンションに住むなら免震:コスト増でもそれだけの価値がある

耐震・制振・免震の違いを知ることも大切ですが、戸建住宅かマンションか、中低層か高層かで適した構造は違ってきます。 □■□疑問■□■ 耐震・制振・免震のメリット、デメリットを考慮したうえで、中低層のRC造マンションにはどの構造が最適でしょうか。 □■□回…

免震構造の設計方法:免震層の基本的な数値を押さえよう

免震構造の普及に伴い、今や大手設計事務所やゼネコンだけが手掛けるものではなくなりました。地方や中小の企業でも免震構造の設計を行うようになっています。 免震構造の設計で最も重要なのは「免震層」の設計です。免震層は建物の基礎や建物下部に設置され…

現代の心柱:鉄筋コンクリート建物における連層耐震壁の働き

いくつもの層に連なって配置されている耐震壁を「連層耐震壁」と言います。この連層耐震壁を現代の「心柱」として利用しようという設計思想があります。 □■□疑問■□■ 建物の上から下まで連続して壁を配置すると強いということを聞いたことがあります。感覚と…

優秀な社員の共通点:構造設計者として評価されるということ

ゼネコンにおける設計部、特に構造設計は高学歴の人間が集まってきます。有名な大学の院まで出ているのが大半で、勉強ができることは前提条件です。 □■□疑問■□■ 構造設計では、どういう人が評価され、出世していくのでしょうか。学歴は関係がありますか。 □■…

建築における構造最適化の功罪:アナログ構造設計者のぼやき

世の中、何でもかんでも合理化、最適化がなされ、無駄がそぎ落とされています。建築の世界も遅れてはいますが例外ではありません。 □■□疑問■□■ 建物をもっと合理的に造ることは可能でしょうか。コンピュータの処理能力が向上している昨今、建築物のような巨…

博士になって変わること、変わらないこと:ゼネコン博士の現状

ブログタイトルにあるように、著者のバッコは博士(工学)です。 □■□疑問■□■ 民間企業に勤める博士の数はまだまだ少ないようですが、何か特典やインセンティブのようなものはあるのでしょうか。 □■□回答■□■ 企業ごとに様々だと思いますので、ある大手ゼネコ…

トラス構造とラーメン構造:軸力による伝達と曲げによる伝達の違い

三角(△)の組み合わせでできているのがトラス構造、四角(□)の組み合わせでできているのがラーメン構造です。 □■□疑問■□■ トラス構造とラーメン構造の違いは何でしょうか。実際の設計において、どのように使い分けているのでしょうか。 □■□回答■□■ トラス…

有限要素法(FEM)と建築の親和性:安易な適用にはご用心

建物の構造解析モデルは線材要素(太さを考慮しない要素)とばねの組み合わせでできています。 □■□疑問■□■ 有限要素法を用いれば各部材の厚さ、太さを考慮した高精度な解析が可能です。解析の制度が向上することで新しい建物の設計が可能になることはあるで…

あえて壊すという設計はありか?マンションの雑壁に見る余剰耐力

大地震後、建物が倒壊に至らなくても補修が困難な場合は建て替えが行われます。 □■□疑問■□■ 地震後に壁という壁が全てビリビリにひび割れたマンションの映像を見ることがあります。しっかりと設計されていてもあれだけの被害が生じるのでしょうか。 □■□回答■…

超高強度材料は建築を変えるか:超高張力鋼と超高強度コンクリート

建物が巨大化、高層化するにつれ、材料の高強度化も進んでいます。 □■□疑問■□■ 昔に比べてとても強いコンクリートや鋼材が開発されています。もっと細い材料だけでできた軽快な建築物が今後増えていくのでしょうか。 □■□回答■□■ 従来の製品に比べコンクリー…

免震構造がよくわかる:固有周期・振動モード・エネルギー吸収

1995年の兵庫県南部地震以降、免震建物の着工数は大幅に上昇しました。今ではかなりの数の免震建物が日本中にあります。 □■□疑問■□■ 免震構造とは結局のところどういう建物を指すのでしょうか。「地震を免れる」と言われてもよくわかりません。 耐震・制振・…

静定構造と不静定構造の実建物における違い:力学と実現象の架け橋

構造力学の授業でまず習うのが「静定構造」、その次に習うのが「不静定構造」です。 □■□疑問■□■ 「静定構造」と「不静定構造」が具体的にどういうものなのかわかりません。また、構造設計の際にどのように使い分けするのでしょうか。 □■□回答■□■ 「静定構造…

竹中工務店の超高層制振マンション:THE制振ダブル心柱システムの考察

スーパーゼネコン各社のタワーマンション用の制振、免震システムの考察もとりあえず最終回となる5回目です。 □■□疑問■□■ 竹中工務店の独自技術、THE制振ダブル心柱を採用したマンションの性能はどうでしょうか。 大林:DFS(デュアル・フレーム・システム) …

空気で浮かぶエアー断震は免震よりも優秀か?法律は置いておくとして

空を飛んでいれば地震も怖くない、構造設計者なら誰しも一度は考えたことがあるアイディアです。 □■□疑問■□■ 宙に浮く建物「エアー断震」がテレビで取り上げられていました。耐震や制振はもとより、免震よりも優れた性能を発揮するのでしょうか。 □■□回答■□■…

自己修復コンクリートは有用か?構造設計者の視点から考察

日々新しい構法、材料が生まれています。技術者は常にアンテナを張っておかなくてはなりません。 □■□疑問■□■ 自己修復コンクリートというものがあると聞きました。コンクリートのひび割れが自然に修復するのであれば、複数回の地震にも問題なく耐えられるの…

構造に関する相談窓口:構造設計一級建築士に相談してみませんか

困ったときに相談に乗ってくれる人がいるのはありがたいことです。それが弁護士や医者などの専門性の高い人であれば、とても助かることが多いと思います。では構造設計一級建築士だとどうでしょうか。 お客様の中に構造設計一級建築士の方はいらっしゃいます…

月に家を建てよう:重力が無くなると家の構造はどうなるか

「重力が無ければなぁ」、これは構造設計者より、構造設計者に「できません」と言われる意匠設計者の方が感じることかもしれません。 □■□疑問■□■ 将来人間が地球外の惑星に住むとしたら、その家はどのような構造になるでしょうか。重力が小さくなれば、非常…

大成建設の超高層制振マンション:TASS Flex-FRAMEの考察

スーパーゼネコン各社のタワーマンション用の制振、免震システムの考察も4回目となりました。 □■□疑問■□■ 大成建設の独自技術、TASS Flex-FRAME(タス・フレックス・フレーム)を採用したマンションの性能はどうでしょうか。 大林:DFS(デュアル・フレーム…

実建物におけるピン接合と剛接合:構造設計における本音と建て前

構造力学の授業で必ず出てくるのが「ピン接合」と「剛接合」です。 □■□疑問■□■ 「ピン接合」と「剛接合」が具体的にどういうものなのかわかりません。また、構造設計の際にどのように使い分けするのでしょうか。 □■□回答■□■ 「ピン接合」、「剛接合」ともに…

偏心するのは悪いこと?偏心率と力学と構造バランスの話

同じ工務店が、同じ規模、同じ壁の量で、建物を隣同士で建てます。しかし、地震が起こった時に片方は倒壊したが、もう片方は軽微な損傷で済んだ、そんなことが起こり得ます。これは壁配置のバランスの良し悪しが影響しています。壁配置の評価の基本である偏…

最上階であっても柱を細くできない3つの理由:振動モードと力学の基本

通常、建物の柱や壁は下の階ほど強くなっています。 □■□疑問■□■ 下の階ほど柱や壁の負担が大きくなるのは感覚的によくわかります。それなら上の階の柱ほど細くできると思うのですが、大して細くなっているようにも思えません。 □■□回答■□■ 上の階ほど柱が細…

鉄筋コンクリートの家づくり:工事監理をしないと大変なことに

一級建築士をやっていると、個人的に「家を設計してくれ」と言われることがあります。構造が専門なので他を当たってもらうのが常なのですが、そのときは同僚の意匠設計者から「構造を見てくれ」と言われたので引き受けました。 RC造、壁式構造、スキップフロ…

清水建設の超高層免震マンション:スイングセーバーの考察

スーパーゼネコン各社がタワーマンション用の制振、免震システムの開発を競っています。 □■□疑問■□■ 清水建設の独自技術、スイングセーバーを採用したマンションの性能はどうでしょうか。 大林:DFS(デュアル・フレーム・システム) 鹿島:スーパーRCフレー…

大手設計事務所・ゼネコン設計部に新卒で就職するには学歴が全て

自分が楽しめること、成長できることを軸に就職先を選ぶ人も増えてきているでしょうが、やはり大手狙いの安定志向というのは依然として強いです。 □■□疑問■□■ 将来、大きなプロジェクトに設計者として携わりたいと思っています。大手の設計事務所、ゼネコン…

学生必見!構造設計者になる前にやっておきたい3つのこと

あの時もっと勉強しときゃ良かった。エンジニアに限らず、社会人がよく嘆いています。 □■□疑問■□■ 将来、設計事務所かゼネコンの設計部で構造設計をやりたいと考えています。今のうちにやっておいた方がよいことはあるでしょうか。 □■□回答■□■ 仕事をしてい…

構造設計一級建築士試験体験記:勉強法と有資格者の位置づけ

一級建築士合格後、5年以上の実務を積んで初めて受験資格が得られる構造設計一級建築士試験。ゼネコンの設計部員から見た試験について記したいと思います。 構造設計一級建築士とは 資格の位置づけ 受験者数から見る構造設計 講義 勉強方法 スタート地点 過…