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構造設計一級建築士試験体験記:勉強法と有資格者の位置づけ

一級建築士合格後、5年以上の実務を積んで初めて受験資格が得られる構造設計一級建築士試験。ゼネコンの設計部員から見た試験について記したいと思います。

 

 

構造設計一級建築士とは

資格の位置づけ

2008年に設備設計一級建築士とともに作られた比較的新しい資格です。構造設計者の社会的地位を向上させようという目的で新設されました。2005年の耐震偽装事件を受けて、「構造設計者はこのままではいかん」となったのが発端です。

 

まだ10年しか歴史がないこともあり、それほど認知度の高い資格ではないでしょう。一級建築士の上位資格であるにも関わらず、「構造に特化した一級建築士」つまり「構造しかわからない一級建築士」という一級建築士よりも下位の資格に見られることもしばしばあります。そのため、わざわざ名刺に一級建築士と構造設計一級建築士を併記している人もいます。

 

以前は一級建築士さえ持っていればどんな建物の構造であれ設備であれ、設計が可能でした。今では一級建築士が取り扱える範囲は非常に小さく、大手ゼネコンが取り扱う規模の建物はほとんど設計ができなくなりました。資格があるとないでは大違い、ということです。

 

しかし、実際のところは設計者、つまり管理職クラスが有資格者であれば問題ありません。手を動かす担当者の一人ひとりが資格を持っている必要はなく、判子を押す人が一人いればいいのです。

 

資格の有無によって手当が変わるのであればできるだけ早く取った方がいいですが、大手ゼネコン、設計事務所では手当がつかないところが多いです。転職の予定もないのであれば慌てて取ってもさほどメリットはないでしょう。とはいえ、大手の社員はすぐに取ってしまう人が多いです。

 

受験者数から見る構造設計

一級建築士の合格者が毎年4,000人弱です。すでに亡くなられた方、リタイアした方を含めてではありますが、30万人以上もいます。日本人の400人に一人は一級建築士と考えると、ちょっと多過ぎる気がします。

 

構造設計一級建築士試験の受験者は毎年700人程度で、そのうち200人程度が合格します。累計で10,000人くらいなので、一級建築士の1/30が該当します。

 

構造設計一級建築士の受験者数は毎年700人程度から特に増加していません。一級建築士合格者4,000人弱のうち、毎年新たに200人程度が構造設計一級建築士を受験しているようです。これは一級建築士の1/20に該当します。

 

構造を専門とする建築士は1割以下と言われることがありますが、実際にはもっと少ない可能性があります。とてもではありませんが、一部の構造設計者が主張している「木造住宅の構造計算義務化」は実現の目が薄そうです。

木造住宅に構造計算は必要か?計算よりも大事なこと

 

講義

構造設計一級建築士の試験(修了考査)を受けるには、まず2日間に渡る講義を受けなくてはなりません。離席時間がチェックされ、一定時間以上になると受験資格を失います。多忙な構造設計者としては大きな負担となります。休憩時間には廊下が電話対応の構造設計者で溢れかえります。

 

講師の先生方は錚々たるメンバーです。東北大学の名誉教授である柴田明徳先生(とても有名な先生です)を直にお目にかかれたので満足でした。他にも学生時代の研究室の先生も講義をしていました。

 

丸二日座って講義を聴くだけというのもなかなか疲れますが、正直なところ講義内容自体はあまり試験に関係ありません。テキストもそれほど重要な位置づけではなさそうです。かといって受験資格が無くなっては敵わないので、寝るわけにも内職するわけにもいきません。「もう来年は講義を受けたくない」というのもモチベーションの一つになりました。

 

勉強方法

スタート地点

講義を受けた翌日から勉強を開始しました。とはいえ、一級建築士合格以降の5年間の業務は、全て構造設計一級建築士になるための勉強になっています。大手設計事務所、ゼネコン設計部の社員であれば、鉄骨造、鉄筋コンクリート造は一通りわかります。その代わり木造が弱い、というのは共通事項でしょう。

 

ハウスメーカーの設計者では小規模な案件しか取り扱いません。また、木造だけしかやらないという人も多いでしょう。確認審査機関勤めでも受験できるそうですが、モーメント図(部材に生じる曲がる力の可視化)すらまともに描けない人がいるとか。

 

試験勉強開始前のアドバンテージは凄まじいものがあります。大手設計事務所、ゼネコン設計部の社員にとっては「受かって当たり前」というのも頷けます。

建築士試験の本当の難易度:大手ゼネコンマンは思う

 

過去問

やはり基本は過去問です。日本建築構造技術者協会(JSCA:ジャスカ)が解説付きで過去問を販売しています。一部「??」な解答例もありますが、最も参考になる資料と言えます。

 

一通り過去問をやってみて、「難しい」とか「大変そう」ではなく、「へえ、こういう問題が出るのね」というのが率直な感想です。じゃあこういう試験に向けて、押さえるところは押さえておこうという感じです。一応一通り二回ずつはやりました。

 

木造に関しては多少戸惑う部分がありました。基本的にゼネコンの業務で取り扱うことはありません。ただ、木造の壁量計算はルール通りにやるだけですし、一級建築士試験で勉強した「法規」の高さ計算の方がよっぽど嫌らしい問題です。あとは出たとこ勝負ですね。

 

しかし、合格基準点がよくわからない試験というのは嫌ですね。目標が立て辛いです。配点もよくわかりませんし、大問ごとに足切り点数があるのかさえわかりません。ただ先輩社員はみんな「普通にやれば受かる」と言っているので、普通+αくらいやっておけば大丈夫かなと思っていました。

 

黄色本

過去問と同じくらい重要なのが「建築物の構造関係技術基準解説書」、いわゆる「黄色本」です。ただ表紙が黄色だというだけですが、おそらくどんな構造設計者に聞いても通じると思います。

 

なぜ大事かというと過去問の答えの多くが書いてあるからです。ということは一通りどこに何が書いてあるか知っておかなければ、新出問題に対応できないということです。構造設計一級建築士試験は「黄色本」も講義の「テキスト」も持ち込み可です。

 

以前からやろうやろうと思ってできていなかった黄色本の通読をすることにしました。業務では関連範囲しか読む時間がないので、大体見る場所は決まっていました。隅から隅まで読むことで、「あ、ここに書いてあったのか」とか「そういえばそうだったよな」ということがいくつかありました。

 

読むだけではもったいないので、ついでにインデックスを貼りました。一級建築士試験のときにやった「法令集」と同じような感じです。あとあと業務にも役立ちました。

 

試験当日

たまたまなのか、人数が少ないから必然なのか、同僚が近くにたくさんいました。比較的リラックスして試験に臨めました。

 

会場についてまず思ったのは、年配の方が多いということです。後ろの方の座席に座ると、頭が白い人が目立ちました。

 

少なくとも資格新設時に「一級建築士取得後、実務5年以上」という要件を満たしていたでしょう。現役設計者ではないのでしょうか。かなりのキャリアがあって合格していないとすると、それだけ「危ない建物が多い」ということになってしまうのですが。

 

そんな心配を他所に、試験は始まります。本番に弱い人間ではないのですが、ぎりぎりになるとお腹が痛くなるのは毎回のことです。いくつになっても治らないものは治りません。

 

試験内容は正直、あまり覚えていません。特に難しかったとは思いませんが、執拗に繰り返し確認しながら進めたので時間を目一杯使うことになりました。普段は試験時間がかなりあまるのですが、やはり受かって当たり前のプレッシャーがあったのでしょうか。

 

試験後、同僚と簡単に試験の答え合わせをしながら帰りました。どうも大きな違いがあるようで、もしかしたらどちらかが落ちるかもとお互いに焦りました。おかげで、その日は落ち着かない一日となりました。

 

合格発表

結局、大きなミスをしたのは同僚の方でした。あとあと調べてみると、やはり自分が合っていたので、不安なく発表を迎えることができました。

 

結果は無事合格。やったー、というほどではありませんが、これでもう資格試験は受けなくて済むのかと思うと開放感がありました。ちなみに同僚も受かっていました。他の問題が完璧だったのか、合格ラインが思ったより低いのかはわかりませんが、大問1つ落としても問題ないのかもしれません。

 

知る限りでは、社内の受験者7人中6人が合格したようです。落ちた一人は「あいつ試験受けに来た?」と聞かれるくらい多忙だったようです。

 

普段業務でやっていることと大して変わらない試験だったので、比較的簡単に試験に受かりました。そうでない人が合格しようと思うと結構きつい試験なのかもしれません。ただ、そういう人が構造設計一級建築士になる必要があるかはわかりませんが。