バッコ博士の構造塾

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静定構造と不静定構造の実建物における違い:力学と実現象の架け橋

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構造力学の授業でまず習うのが「静定構造」、その次に習うのが「不静定構造」です。

 

□■□疑問■□■

「静定構造」と「不静定構造」が具体的にどういうものなのかわかりません。また、構造設計の際にどのように使い分けするのでしょうか。

 

□■□回答■□■

「静定構造」は力の釣り合いだけで解ける単純な構造です。単純な分だけ理解しやすく、部材に生じる力や変形も明快です。橋や電柱などが相当します。「不静定構造」は力の釣り合いだけでなく変形の適合も必要になります。部材の硬さに応じて負担する力が変わるなど、複雑で理解が難しいです。基本的に全てのビルは不静定構造です。どちらの構造にもメリットとデメリットがあります。以下で説明していきましょう。

 

 

静定構造とは

大学の構造力学の講義でまず出てくるモデルは間違いなく静定構造です。2点間に棒を架け渡しただけの「単純梁」や、壁に棒を突き刺しただけの「片持ち梁」が代表的でしょう。

 

単純梁の一番身近な例としては橋です。1枚の橋桁で構成されている単純な橋だけでなく、トラス構造(三角形で構成されている)の橋も単純梁です。片持ち梁だと、先端に柱の無いバルコニーがこれにあたります。縦と横で向きは違いますが、電柱も片持ち梁(柱)です。

 

最も重要な特徴としては「力の釣り合い」だけで各部に生じる力の大きさがわかるということです。どういうことか簡単に説明しましょう。

 

電柱を例に取ってみましょう。電柱の最上部を横に押すとします。このとき電柱の根元の負担が一番大きくなることは感覚的に理解できるでしょう。

 

では、電柱の足元を細くしたらどうなるでしょうか。当たり前な気もしますが、細くしたからと言って足元にかかる力の大きさが小さくなるわけではありません。もちろん太くしても同じです。

 

「押す力×電柱の高さ」という足元を曲げようとする力「曲げモーメント」は変化しません。この力に釣り合うだけの負担が無ければ電柱が倒れてしまいます。足元を構成する部材が太いか細いか、強いか弱いかには依存しません。これが「力の釣り合い」で全て決まるということです。

 

静定構造は力がかかっても耐えられる、つまり安定した構造です。しかし少しでも拘束条件を緩めると不安定構造になってしまいます。電柱の足元を自由に回転できるように変えると、ポンと軽く横に押すだけで倒れるようになってしまうということです。

 

静定構造とは、ぎりぎり不安定にならない、最も単純な構造であると言えます。

 

不静定構造とは

静定構造に慣れたころ、突如として現れるのが不静定構造です。人によっては途端に難しくなったように感じるでしょう。不安定構造でもなく、静定構造でもなければ、全て不静定構造です。基本的に全てのビルは不静定構造です。

 

静定構造とは違い、「力の釣り合い」だけでは解けず、「変形の適合」も必要になります。また例を挙げてみましょう。

 

電柱は棒の一端だけを固定した構造ですが、棒の両端を固定してみましょう。これを「両端固定梁」といいます。この棒の真ん中を押すとしましょう。棒の太さも材質も一様であれば端部にかかる力の大きさは同じで、押した力の半分になります。

 

では真ん中より先だけを太くするとどうなるでしょうか。その場合は太い方に力が多くかかるようになります。静定構造と何が違うのでしょうか。

 

先ほどの電柱の例とは違い、曲げモーメントを負担できるところが両端の2ヶ所です。片端が力を負担しなくても不安定になりません。「こちらがこれだけ負担しないことには不安定になる」という状態から「どちらがどれだけ負担してもいい」という状態に変化したわけです。そのため、力の釣り合いだけでは解けなくなります。

 

そこで出てくるのが「変形の適合」です。もし細い方と太い方で同じ力を負担する場合、細い方がたくさん変形します。しかし、この棒は真ん中で繋がっているため、真ん中での変形量が細い方と太い方で同じにならなくてはいけません。そのため、細い方の負担を半分より小さく、太い方の負担を半分より大きくすることで変形のバランスを取るわけです。

 

不静定構造とは、部材の硬さに応じて力の分配を行う構造であると言えます。

 

静定構造のメリット・デメリット

メリット

まず、応力の分布状況が明確であるということが挙げられます。部材の硬さとは関係なく力の負担が決まります。実際には施工誤差や製品誤差があるため部材の硬さがばらつくのですが、その影響を受けません。単純梁の真ん中に力を加えれば、いつだって各端部の負担はその半分になります。

 

次に、温度応力の影響を受けないというのも大きなメリットです。まず温度応力が何か説明しましょう。

 

鉄やコンクリートは熱せられると体積が増大します。真夏の炎天下では、長大な橋ほど長さが変化します。このとき橋の両端ががっちり固定されていたらどうなるでしょう。

 

伸びたいものを無理やり伸びないようにするため、圧縮力が生じることになります。もし逆に寒ければ縮みたいものを縮まないようにするため、引張力が生じることになります。これが温度応力です。これでひび割れが入ろうものなら、そこに変形が集中して大変なことになります。

 

しかし、橋の一端がズルズルと滑るようにできていたらどうでしょう。橋が伸びた分、あるいは縮んだ分だけ滑れば温度応力は生じません。静定構造は余分な拘束が無い分、無理な拘束により生じる温度応力とは無縁です。

 

デメリット

構造が単純な分、一部が壊れただけで不安定構造になってしまいます。先ほどの電柱の例でもありましたが、足元が壊れて回転に対して抵抗できなくなれば、この電柱はそのまま倒れる運命にあります。

 

構造自体には余裕度が全くないので、部材の方の余裕度を十分に確保する必要があります。

 

また、拘束が少ないため、部材の変形が大きくなりがちです。両端が自由に回転できる単純梁と両端の回転を拘束した両端固定梁では、荷重条件により異なりますが、4~5倍変形量が違います。

 

不静定構造のメリット・デメリット

静定構造のメリット、デメリットをそのまま逆にしたものです。

 

メリット

構造が複雑な分、一部が壊れても他の部分がそれを補ってくれるため、倒壊に対する安全率が高いです。柱や梁は変形が大きくなると回転に対する抵抗性を失うので、不静定構造物は変形が進むにつれて徐々に静定構造物に近づいていきます。そして、最終的には不安定構造となり倒壊しますが、そこまで変形させるには大きなエネルギーが必要です。

 

また、拘束が多い分、部材の変形は小さくなります。変形条件が厳しい場合は、固定度を高めるような措置をします。

 

デメリット

構造が複雑な分、どの部材にどのような応力が生じているかわかりません。解析ソフトにより計算はできるのですが、実際の建物を計測してみると大きく違うことがあります。

 

これは、解析では「建物が完成した状態」を想定しますが、実際には施工状況に応じた力がかかるからです。例えば2階建ての建物の場合、まず1階ができるわけですが、2階の柱があるかないかで1階の柱と梁の負担する力の割合が変化します。

 

このように、途中の段階でも重力は生じているため、完成状態だけを考慮した解析だけでは精度が低下してしまいます。

 

また、温度応力の影響が避けられません。長大な建物では実際に太陽の日射による部材の伸び縮みが不具合に繋がった事例もあります。

 

地震とは違い、日射は毎日の繰り返しになるため、部材の疲労破壊を誘発する可能性もあります。長大になる部分にはスリットを設けるなどして、変形量を制御する必要があります。

 

まとめ

静定構造、不静定構造、どちらもメリット、デメリットの両方があります。土木構造物は大きいものが多く、熱の影響を受けやすいため静定構造、建築は倒壊するまでの余裕度確保のため不静定構造となっていることが多いです。状況に応じて使い分けることが重要です。

 

構造設計者であれば、まず両者の特徴をよく理解することと、単純な力が作用した場合の力の分布や変形量くらいは最低限覚えておきたいものです。