バッコ博士の構造塾

建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

優秀な社員の共通点:構造設計者として評価されるということ

ゼネコンにおける設計部、特に構造設計は高学歴の人間が集まってきます。有名な大学の院まで出ているのが大半で、勉強ができることは前提条件です。

 

□■□疑問■□■

構造設計では、どういう人が評価され、出世していくのでしょうか。学歴は関係がありますか。

 

□■□回答■□■

構造設計者は当然ながら「技術者」であり、力学、地震、地盤、材料、その他いろいろなことに精通していなくてはなりません。一方で「建築士」という側面も合わせ持っており、そこにはデザインの要素が入り込んできます。人によりこのバランスは異なりますが、ゼネコンでは技術者寄り、設計事務所では建築士寄りの方が社内の評価は高いかもしれません。

学歴の影響はゼロとは言いませんが、気にするほどではありません。ゼネコン内ではマイナーな部署のため、どんどん出世していくというようなことはそもそも望みが薄いです。部署内での評価を高めるには、「これなら誰にも負けない」という得意分野を持つのが近道です。

 

 

会社内での構造設計の位置づけ

ゼネコンでは施工部門が圧倒的に強く、設計は全体の1割程度を占めるに過ぎません。その中で構造設計が占める割合は2割程度ということで、全体からみれば2%前後です。構造設計のトップに立ったとしても、役員クラスとは言えないでしょう。

 

社内随一の高学歴集団ではありますが、出世からはかなり遠く離れたところにいます。「構造設計者として評価されて、ゆくゆくは経営にも携わる」という道筋は非常に細いです。どこの会社のエンジニアリング部門も似たようなものでしょう。

 

建設会社で偉くなりたいのなら現場マンとして頑張った方が目はあります。「構造設計者として評価されたいのは、難易度の高い巨大プロジェクトの設計をしたいからだ」という素晴らしい志しをお持ちの方のために記事を続けましょう。

 

学歴はいつ役に立つ? 

有名大学からばかり人材を集めているので、出身大学の多様性はありません。そのため同窓生が全然いない、と言う人はほとんどいません。大量入社したバブル世代だとちらほらいるようですが、若手社員を見ていると非常に限られた大学の出身者です。

 

学歴が一番生きるのはやはり入社時でしょう。大手各社がどのような採用手順を踏んでいるかはわかりませんが、結局出身大学は似たり寄ったりになっています。だからこそ高校生は一生懸命勉強するのでしょうが。

大手設計事務所・ゼネコン設計部に新卒で就職するには学歴が全て

 

それ以外の場面で学歴が役に立つかというとあまり思い浮かびません。もちろん、権限を持つ立場の人が同窓生であれば、若干いいことがあるかもしれません。ただ、人脈を駆使して社内をうまく立ち回れるかどうかよりも、高い技術力を持っているかどうかが一番肝心です。

 

評価されたいなら技術力を高める、これに尽きます。もちろん他にも重要な要素はたくさんあるでしょう。しかしエンジニアである以上、技術力が評価の絶対的な物差しです。

 

自分だけの武器を持て

技術力を高めるとは具体的に何をすることでしょうか。日々の業務の中で疑問に思ったことを、専門書を読む、論文を読む、詳しい人に聞く、こうして解消していくのは重要なことです。自分の技術力の基礎体力の向上にはもってこいだと思います。

 

しかし、周りにいる構造設計者も同じ様なことをしています。どんな建物でも地面に接しているので、地盤の知識は必要です。基礎はコンクリートでできているので、コンクリートについても知らなくてはなりません。構造に関する法律が変われば確認が必要です。これだけをやっていては、その他の設計者と差別化にならないのです。

 

そこで重要になってくるのが「これに関しては自分が社内で一番だ」と言える分野を作ることです。さらに専門性の高い本を読む、論文を書く、関連資格を取得するといったことが必要になるかもしれません。

 

かなり大変かも知れませんが、アドバンテージがある分野、例えば自分の修士論文のテーマに即した分野であれば比較的簡単です。一歩リードした状態からのスタートが切れるので、苦労は少ないはずです。

 

自信を持って先輩社員に反対意見を言えるくらいになると、立派な武器だと言えます。一目置いてもらえることでしょう。

 

建築は工学か?

「建築は工学ではない」と言っていた先生がいます。白か黒か、1か0かで決まる電気や機械とは違うのだそうです。

 

確かに講義では心理学や宗教まで触れますし、建築の歴史まで学んでしまいます。おそらく機械の歴史を一生懸命調べても博士論文にはならないでしょう。工学でないかはわかりませんが、かなり毛色が違うのはわかります。

 

海外では、意匠設計をやりたい人は建築学科、構造設計をやりたい人は土木学科です。どちらもまとめて工学部建築学科に放り込まれる日本は特殊だそうです。

 

しかし、建築物が構造設計から完全に自由になることはありませんし、デザインの無い建築物などただの箱に過ぎません。やはり意匠と構造は切っても切れない関係にあるのです。そして日本で建築を修めたということは、意匠と構造の両方の感覚を持ち合わせた意匠設計者、あるいは構造設計者になる資質があるのです。

 

意匠設計に理解の無い構造設計者は評価されません。「構造美は力学的合理性の近傍にある」と言った人がいます。どこかに欠点があるから美しいのかもしれません。

 

完全に左右対称の顔をした人が稀にいるそうですが、機械的で冷たい印象を与えることがあるそうです。そういう場合は敢えて左右のメイクを若干変えることで優しい印象を作り出すのだとか。

 

技術力が一番大切ではあるものの、技術力を高めるだけではいい構造設計者にはなれません。そこが建築の面白い部分だと思います。

 

優秀な構造設計者の共通点

社内の優秀だと思う構造設計者の特徴を挙げてみます。

 

元気がある

まずこれが大事です。やはり肉体的に辛い時期はあります。そんなとき、元気がないとどうにもなりません。仕事のやり方を変えなくてはならないのでしょうが、変わるまでにはまだ時間がかかります。

 

また、元気がある人は周りを巻き込んでいくパワーというかエネルギーがあります。建築は一人ではできないので、これは非常に重要です。新しい構法、新しい材料、新しい技術、新しいものを導入するにはたくさんのハードルがあります。これを超えていくには元気を出して頑張るしかありません。

 

自信がある 

いい建物を造るには、上司や意匠設計者からの批判や反対意見に負けない強さが必要です。自分は優れている、よく理解できているという自信なくしては途中で折れてしまいます。

 

傲慢になってはいけませんが、上述したように「誰よりも私が一番わかっている」というのは強いです。技術論の前には上司も部下もありません。正しいものは正しいのです。正しいと思うことをしっかりと言う、そのためにはバックボーンとなる技術力と自信が必要です。

 

物づくりが好き

設計者は図面を描くのが仕事ではありますが、その図面はいつか本物の建物になります。図面を描いているのではなく、建物を造っているという意識が無いと気の利いた図面は描けません。

 

当たり前ですが、図面が大事なのではなく図面を基にできあがる建物が大事です。日頃から建築系の雑誌に目を通したり、街を歩く時も建物を観察したりと、建築が好きなことも重要です。

 

技術者然としてお堅い感じの人は、技術力はあってもいい建築に結びついていないことが多い気がします。必要な人材ではありますが、評価としてはまあまあ止まりです。