言わずと知れた日本一高い建造物、スカイツリー。建造物としてもブルジュハリファ(828m)に次ぐ世界第二位の高さを誇ります。
通常の超高層ビルではデザインを担当する意匠設計者が主役ですが、高くすること自体が主たる目的の電波塔では構造設計者が主役と言えるかもしれません。
これだけのものを地震や台風が頻発する日本につくるわけですから、当然難しい問題が山積です。それらを解決するためにいろいろな工夫が凝らされています。
スカイツリーの構造をできる範囲で紐解いていきたいと思います。
スカイツリーの重さ
高さが634mもあるので、スカイツリーがとてつもなく重たいであろうことは想像がつくかと思います。調べてみると、なんと地上部分だけで約4万トン(参照するサイトによって幅がありますが概ねこの程度のようです)にも達するそうです。
4万トンと言われてもピンとこないと思いますので、基準化してみましょう。
まず建築面積あたりの重さですが、地上部の面積(約2,000m2:一辺68mの正三角形)で割ると20t/m2です。実はこれ、15階建てのマンションと同じくらいしかありません。
ビルのように各階に床があるわけではないので意外に軽いです。上部に向かって細くなっているのも効いています。
次に体積あたりの重さですが、底面が一辺68mの正三角形で、高さが634mの三角錐(約42万m3)だとすると0.1トン/m3以下になります。これは木造住宅と似たような数字です。
平米あたりの重さはいいとしても、普通は立米あたりの重さを比べるというようなことはしません。しかし「思ったより軽いんだな」というイメージを持ってもらえたのではないでしょうか。
思ったより軽いということは、合理的に634mの高さを実現しているということです。
巨大な基礎:ナックル・ウォール
基礎設計の課題
先ほどはスカイツリーの重さを見てみましたが、今度はその重さを支える基礎を見てみます。
地上部の重量約4万トン、これを三角形の各点で支えるわけですから、一ヵ所あたりの負担は1.3万トンになります。これは高さ200mを超える超高層ビルの柱が負担する重さの2~3倍になります。
しかし、実際には一ヵ所に何本も柱があります。柱一本一本でみれば過去に例を見ないというほどではありません。
では従来の技術で問題なく対処できるかというとそうではありません。ポイントはやはりその高さにあります。
平面形状が一辺約68mの正三角形ですので、一番幅が小さいところは60m以下になります。高さが634mですので、高さと幅の比率(塔状比)は10を超えます。
これは、「地震や強風によりスカイツリーの一番高いところに横向きに1の力が作用したとすると、足元では10以上の力で押し込まれたり引っ張られたりする」ということを意味しています。そのため、重さを支えるだけでなく引き抜かれる力にも抵抗しなくてはいけません。
壁状の場所打ち杭
この課題を解決するために、大林組は「ナックル・ウォール」という技術を用いました。
基礎にはいろいろな形式がありますが、スカイツリーでは「場所打ちコンクリート杭」が採用されています。「現場で穴を掘って、そこにコンクリートを打ち込んでつくる杭」のことです。
普通はドリルでぐりぐりと掘っていくので円柱状の杭になるのですが、より大きな杭をつくるべく壁状(長方形断面)の杭としています。そして一番の特徴は壁の途中に突起があるということです。この突起が杭を引き抜こうとする力を受けたときに周囲の地盤に引っかかり抵抗することができるのです。
地上からの作業で地中に突起をつくるのは思った以上に大変です。穴を掘る機械の先端部分を地中で大きく膨らませ、部分的に穴を大きくしなくてはなりません。超巨大プロジェクトを多く担うスーパーゼネコンならではの技術と言えます。
三角形から円へ
なぜスカイツリーは下と上とで形が違うのだろうと思ったことはありませんか。一番下は正三角形ですが、上に行くにしたがって少しずつ丸くなっていき、地上300mで完全な円形になります。
展望台の眺望のために上のほうでは円にしたかったという説明も見られます。確かにそういう面もあるでしょう。しかし、最初から下のほうもすべて円にするという方法もありえたはずです。
ではなぜ三角形から円へと移行する必要があったのか、その答えもやはり高さにありました。
足を大きく開くほど横から押されても倒れづらく安定しているように、スカイツリーもできるだけ柱の間隔を広げて建設したかったはずです。しかし当然ながら敷地の形状・大きさには制約があります。
足を開く幅を同じにした場合、一番面積を小さくできるのが三角形です。足を目一杯開きつつも周辺への影響が最も小さくする三角形が選ばれたのです。
心柱制振とはなにか
スカイツリーに組み込まれている構造システムの中で一番目を引くのが「心柱制振システム」です。いったいどういう機構なのでしょうか。
まず、スカイツリーは頂部のアンテナを支える外側の鉄骨本体の部分と、その内側にある円筒状の鉄筋コンクリートの部分から構成されています。このコンクリートの円筒を心柱と呼んでいるようです。
鉄骨とコンクリートとの間には1mの隙間があり、それぞれ別々に動くことができます。
内側の円筒(高さ375m、直径約8m、最大厚さ60cm)は外側の鉄骨に比べて非常に細く、フラフラした状態と言えます。鉄骨は硬く、コンクリートは柔らかいので、地震時や強風時に両者は異なる揺れ方をします。
揺れ方が違うので、鉄骨部分とコンクリート部分との隙間が開いたり狭まったりします。そこで両者を「オイルダンパー」という装置でつなぐと、揺れのたびに装置が伸び縮みしてエネルギーを吸収してくれるのです。
一般的にはこうしたシステムを「TMD(Tuned Mass Damper:チューンド・マス・ダンパー)」と呼びます。新宿の「三井ビル」や台湾の「台北101」にも導入されています。
ではなぜスカイツリーではTMDとは呼ばすに心柱制振と呼ぶかというと、見た目がちょっと違うからです。三井ビルではフラフラ揺れる巨大な鉄の振り子を屋上階に置いていますが、これが普通のTMDです。地上から高さ375mまで伸びた巨大な柱状のものを利用しているものはなく、ここがスカイツリーのオリジナルなところです。
この見た目が五重塔の心柱っぽいので「心柱制振」と称しているのです。実際には五重塔の心柱と似たような働きをしているわけではないですし、そもそも心柱が地震に効果があるかどうかさえまだわかっていません。
スカイツリーは面白い
とりあえず思いつくところを解説してみました。
実際には設計者の日建設計、施工者の大林組の知恵や工夫がもっと詰まっていると思います。風の検討や最適化設計など、いろいろと新しいこと・面白いことをやっていると聞いています。
が、まずは一構造設計者として外から見てわかることを書いてみました。ほかにも何か気になる点があれば質問を寄せていただければと思います。