バッコ博士の構造塾

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大型振動台一覧と振動台実験:大手ゼネコンから法人まで

地震が起こったときにどんな被害が出るか、それを確かめるには実際に地震が起こったときと同じように揺すってみるのが一番です。そのための装置として「振動台」があります。

 

しかし、建物のように巨大なもので実験するには大型の振動台が必要です。大型になると装置の値段も維持費も高額になるので、誰でも簡単に保有できるものではありません。基本的には借りることになるでしょう。

 

どこの誰がどんな振動台を保有しているか、いざ実験をしてみようと思ったときにいちいち調べるのは大変です。そこで有名どころの大型振動台の一覧を作ってみました。

 

また、振動台のスペックと再現できる地震動の大きさについても言及しています。

 

 

大型振動台の一覧

スーパーゼネコン

日本のトップ建設会社5社(スーパーゼネコン:大林、鹿島、清水、大成、竹中)はそれぞれ大型の振動台を保有しています。鹿島と清水は大型と小型の2台を保有しており、大きな変位の再現も可能です。

スーパーゼネコン各社の特徴

 

その他ゼネコン・企業

スーパーゼネコン以外にも大手ゼネコンであれば振動台を保有しています。また、建設会社以外にも保有しているところはたくさんあります。特にNTTファシリティーズの振動台は、三軸では世界最大の変位を再現できます。

 

法人

国立研究開発法人などの法人は企業よりも一回り大きな振動台を保有しています。防災科学技術研究所(防災科研)、土木研究所(土研)、鉄道総合技術研究所(鉄道総研)などです。特に有名なのは防災科研のE-ディフェンスで、世界最大の三軸振動台としてギネス登録されています。

 

海外

海外にももちろん振動台はあります。有名なものとしてカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD:University of California, San Diego)のスペックを載せておきます。

 

 

一軸、二軸、三軸

地震では地面が東西・南北・上下の3方向に揺れます。そのため、地震の揺れを正確に再現するには三軸の振動台が必要になります。

 

しかし、一般的な建物の設計では上下方向の揺れは考慮しません。また、東西の揺れと南北の揺れとを分けて考える場合が大半です。ですから一軸の振動台でも確認できることは多いです。

 

家具の転倒などでは上下方向の揺れも影響が大きいこともあるので、できれば三軸の試験をしたいところです。

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地震の変位・速度・加速度

変位

直下型の地震で震度が6を超えるようであれば地表が10-20cm程度動きます。海溝型のゆっくりとした地震(長周期地震動)では数十cmにもおよぶこともあります。

南海トラフ地震関東大震災を引き起こした相模トラフ

 

ただし、断層の近傍ではその程度ではすみません。ズルっとmも動くことがあります。こうなるととても振動台では再現できなくなります。

速度

地震による被害は速度と比較的強い相関があります。速度とはエネルギーに関係した値なので、地震のエネルギーの大きさを表すからです。

地震の速度

 

超高層建物の設計をするときに使用する地震は、最大速度を50kineに規準化します。大型の振動台では問題なく再現できる値です。

 

しかし、試験体を壊すくらいのエネルギーを与えたいのであれば100kine以上が必要な場合もあります。

加速度

過去に観測された最大クラスの一方向の加速度は3Gに近い値です。大型振動台の中でも一部のものしか再現できない大きさです。

地震の加速度

 

加速度が大きいからといって被害が大きくなるとは限らないので、実際にはもっと加速度を小さい地震動を使用することが多いです。

 

建物内部の揺れの再現

地震の再現といっても、何も地面の揺れを再現するとは限りません。家具や設備を揺する場合、建物内部の揺れを再現することも多いです。

 

地震の揺れは建物というフィルターを通ることで特性が変化します。元々の地震の特性にもよりますが、基本的には建物内部で増幅されてしまいます。

 

超高層ビルの最上階では水平に数m揺れることもあります。それに伴って速度も速くなります。

 

超高層ビルの場合、加速度は地面より小さくなることもありますが、低層のビルであればほぼ間違いなく加速度は増幅します。

 

地面の揺れを再現するより建物の揺れを再現するほうが大変です。

 

不要な要素のカット

振動台の性能は決められているので、それを超える大きさの揺れを用いて実験をすることはできません。では実験を諦めるしかないかというと、そうでもありません。やりようはあります。

 

例えば、縮小した試験体を用いる場合は試験体の周期が元のものより短くなっています。それに合わせて揺れの周期を調整すると、加速度が大きくなりますが、変位を小さくすることができます。

 

他にも、試験体の揺れにあまり影響を与えない成分をカットすると、加速度や変位を小さくすることができます。忠実な再現ではないかもしれませんが、どの程度の影響があるか理解していればそうした実験も可能です。