バッコ博士の構造塾

建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

構造から見る低層・中層・高層・超高層の区分け

「駅前に高層ビルができたね」だとか「停電時は低層のほうが安心だ」というような会話を交わしたことがあるかと思います。

 

建物の高さを表す際に、いちいち「○階建て」「○○mくらい」とは言わず、低層・中層・高層と表現したほうが便利な場面も多いです。また、中低層・中高層というようにそれらを組み合わせて使用することもあります。

 

しかし、実際にそれらの言葉がどのくらいの高さを表しているかはあいまいです。同じ「高層」という言葉を使っていても、人によってイメージする高さには差があります。

 

ここでは、法律等での位置づけをもとに低層・中層・高層・超高層のそれぞれが何mの高さを表しているのか見てみましょう。

 

 

建物の高さと構造性能

重力や地震に対する建物の安全性は「構造計算」により検証されています。

構造計算とは

 

構造計算にはいろいろな種類があり、比較的簡単なものから国土交通大臣の認定が必要となる高度なものまであります。高さが低い建物であれば簡易な計算、高い建物であれば高度な計算をしなくてはなりません。

 

なぜ建物の高さによって計算方法を変えなくてはならないかというと、建物の高さによって地震時の建物の揺れ方が変化するからです。高い建物ほどゆっくり、かつ複雑な揺れ方をします。

タワーマンションの何階が安全?

 

揺れ方の違いを考慮し、法律には「○○mの建物は●●の計算をしなさい」というようなことが書かれています。ここから、低層・中層・高層の区分を読み取ることができるわけです。

 

低層:許容応力度計算

構造計算の基本ともいえる、もっとも簡便な計算方法が「許容応力度計算」です。中規模の地震に対して建物が損傷しないかを検証する方法です。

許容応力度計算

 

鉄骨造の場合、高さ13m以下でないとこの計算が適用できません。

 

木造の場合、2階建て以下で、かつ高さが13m以下であればそもそも計算が不要です。3階建ての場合は計算が必要となりますが、高さ13m以下であれば許容応力度計算が適用できます。

 

ということで、もっとも簡易な計算が適用できる高さ13m以下を低層建物と考えてよいでしょう。

 

高層:保有水平耐力計算

低層の次は中層と行きたいところですが、先に高層を取り上げます。中層は低層と高層の間ということで自動的に決まるからです。

 

許容応力度計算よりも高度な計算として「保有水平耐力計算」があります。大規模な地震に対して倒壊しないかを検証する方法です。

 

建物の高さが31mを超える場合、木造であれ鉄骨造であれ、構造形式に関わらずこの計算により安全性を検証しなければなりません。

 

また、この31mを境に、建物の設備等でも制約が増えます。1919(大正8)年に制定された市街地建築物法で住居地域以外の建物の高さ制限を100尺(≒31m)としていたことに由来します。

 

そのため、高さ31mを超えると高層建物となります。

 

超高層:時刻歴応答解析

保有水平耐力計算よりもさらに高度な計算として「時刻歴応答解析」があります。地震時に建物に作用する力をより詳細に検証する方法です。

時刻歴応答解析

 

建物が高くなると、どのような設計をするかで建物の揺れ方は大きく変わります。また、揺れを低減させるダンパーという装置を使用することも多く、この装置の効果を適切に評価するには時刻歴応答解析が必要です。

制振・制震ダンパーの種類と特徴

 

そして、この計算が必須となるのは高さが60mを超える場合と法律に記載されています。高さ60mを超えると超高層建物ということです。

 

なんとなくキリのいい高さ100mが超高層建物だと思いがちですが、実際には60mです。よく霞が関ビルが日本初の超高層ビルだと言われますが、正確には「初の100m超え」になります。

 

1936年に国会議事堂(65.45m)、1964年にホテル・ニューオオタニ(72m、大成建設)、1965年にホテル・エンパイア(93m、大林組)、そして1968年に霞が関ビル(147m、鹿島建設)が竣工しています。

 

ちなみに、100mを超えると超超高層と呼ぶ構造設計者もいます。しかしこれには明確な数値は存在せず、150m、200m、300mくらいでないとそう呼ばない人もいます。

 

構造以外の法・指針による低層・中層・高層の位置づけ

都市計画法施行令

以下はWikipediaでの記載内容です。

“都市計画法施行令では(中略)、実務上、低層は1-2、中層は3-5階、高層は6階以上とされている”とあります。

 

階数によって低・中・高が分かれています。明快ではありますが、高さが100mあったとしても2階建てなら低層になるということになってしまいます。

 

さすがに2階建てで高さ100mということは無いと思いますが、巨大な工場や倉庫などでは階高が10mや20mを超える場合もあります。

長寿社会対応住宅設計指針

こちらもWikipediaからですが、建設省が1995年に策定したこの指針には“6階以上の高層住宅にはエレベーターを設置するとともに、できる限り3-5階の中層住宅等にもエレベーターを設ける”とあります。

 

やはり階数によって低・中・高が分かれています。

 

まとめ

以上をまとめると以下のようになります。言葉からイメージするものよりも高かったでしょうか。低かったでしょうか。

 

低層  :13m以下

中層  :13m超~31m以下

高層  :31m超~60m以下

超高層 :60m超

超超高層:100m超?

 

ちなみにほとんどの建物の階高は3m弱から4m強の範囲にありますので、階数表示だと以下のようになります。構造以外の法・指針での区分と概ね対応していますね。

 

低層  :3階以下

中層  :3階~10階以下

高層  :7階~20階以下

超高層 :20階超

超超高層:30階超?

 

おまけ:中低層

低層と中層を併せて中低層という言い方をすることがありますが、ここではあえて「低層と中層の間」の高さという意味で考えてみます。

 

これに対応するような明快な区分はありませんが、あえて挙げるなら鉄筋コンクリート造(RC造)に許容応力度計算が適用できる高さの限界である高さ20m以下を中低層建物と考えてもいいかもしれません。

 

なお、前述の市街地建築物法では住居地域の高さ制限を65尺(≒20m)としています。

 

中層の下限の13mと上限の31mの中間の22mと近い値ですね。