構造設計に関するブログを書いていると、家づくりの相談に乗ってほしいという問い合わせがきます。専門家からすると意外なところで悩んでいる方もおり、まだまだ情報発信をする価値はあるのかなと感じます。
ここでは比較的よくある相談内容である「基礎の配筋・コンクリートの不具合」について私見を書いておきます。
基礎について
建物の重さを支える鉄筋コンクリートの部材が「基礎」です。住宅の低層部を見れば、コンクリートがグルリと周囲を囲んでいることがわかります。
住宅の大部分は木造ですが、基礎は鉄筋コンクリートにしなくてはなりません。水や土といった「外部」と接する部材なので、耐久性のあるコンクリートを使用するのです。
重力・地震・台風・その他なんであれ、すべての力は基礎を通って地面まで流れていきます。非常に重要な部材といっていいでしょう。
しかし、不備・不具合が多いところでもあります。
コンクリートの施工は一発勝負、固まってしまえばもう手を付けられません。事前にしっかり確認しなくてはなりません。
相談:「解体してやり直してもらった方がいいのでしょうか」
基礎の不備・不具合を見つけた方からの相談で一番多いのが「解体してやり直してもらった方がいいのでしょうか」というものです。補修や補強の方法について聞かれる方も、最後に「やはり解体したほうが・・・」という一文が付いていることが多いです。
解体したくなった理由としては、改めて写真を見てみたら貫通孔の補強がなんだか変じゃないか、一体打ちと思っていたのに二度打ちじゃないか、ひび割れが入っているじゃないか、などなど。
気持ちはよくわかります。私も家づくりで痛い目を見ました。内心は「全部やり直せ!」でしたね。
でも、本当にいい家にしたいのなら、グッと我慢して冷静に考えてみましょう。
基礎の不備・不具合に対する私見
本当にどうしようもないミスがあるのであれば解体もありでしょう。でも実際にそういう状況はほとんどありません。基本的に「解体は無し」です。
「ミス」はあるものと心得よ
建築の現場というのはミスが多いものです。毎回施工の条件は違いますし、土やコンクリートはばらつきも大きいので、ちょっとしたミスはあるものと割り切った方がいいと思います。
こういうことを書くと怒る人もいるでしょうが、そもそも設計図書自体にもミスがたくさんあります。短い設計期間で建物の隅から隅まで目を行き届かせるということはかなり大変です。
そうした前提に立つと、100点じゃないからといっていちいち大騒ぎしていては体がもちません。80-90点くらいならまあいいか、と大きな気持ちでいるほうがよいです。
そして、ミスが多いからこそ補修方法もいろいろと用意されています。補修さえしっかりすれば問題ないことが大半です。
「モチベーション」を下げるな
「せっかくのマイホームなのに出だしの基礎からつまずいちゃったよ」、となるのは嫌だと思います。でもそれは工務店にしても同じです。
「え、こんなことで解体させられちゃうの」と思えばその後の作業が嫌になります。せっかく自分がつくったものを壊すのも嫌ですし、同じものをまたつくるのも嫌なものです。
建築主としては「じゃあ最初から100点のものをつくってよ」という気持ちにもなりますが、作業をするのは同じ人間だということを忘れないようにしてください。
やる気がある人間がつくった家と、やる気のない人間がつくった家、どちらの品質が高いかは明らかです。些細な基礎のミスの改善のために、その上に建つ家の質を損ねてしまっては何の意味もありません。
「貸し」をつくれ
ミスへの対処法には段階があります。大きなミスであれば解体ですが、部分的な補修で済むこともあれば、建築主が我慢すれば済むレベルのものもあります。
なんでも「解体!」「やり直し!」ではなく、場合によっては「ここに関しては我慢するよ」というところがあってもいいかもしれません。それによって工務店にひとつ貸しができます。
家づくりをしていると、工事の途中でもどんどんと新しい要望が出てくるものです。でも予算には限りがあります。
そんなとき、貸しがあれば「あそこを譲ってあげたんだから、ここはなんとかしてよ」ということも言いやすくなります。仕様のアップやちょっとした変更に対応してもらえることもあるでしょう。
家づくりはトータルで考えよう
家の各部分をそれぞれ完璧に仕上げていけば、出来上がった家も完璧なのでしょうが、あまり現実的ではありません。それよりは、「うまくいったところ、いかなかったところもあるけど、いい家ができたな」と思えるような家づくりの方がうまくいくのではないかと思っています。
不具合に対する具体的な対処方法を期待していた方もいるかもしれませんが、あえて抽象的なことばかり書きました。同じ不具合であっても建築主ごとに受け止め方は異なり、一般論とはならないからです。
もし何かお困りでしたら、直接相談していただければと思います。