バッコ博士の構造塾

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一級建築士の転職事情:設計業務に疲れたら

転職市場が開かれ、会社をやめることのハードルがどんどん下がってきています。

 

□■□疑問■□■

建築の設計業務は激務と聞きます。体調を崩したり、仕事が合わなかったりしたらと考えると不安です。資格があれば転職も容易でしょうか。

 

□■□回答■□■

近年は過重労働が問題となりやすいので、大手各社も業務改善が進められています。とはいえ、まだまだ定時で上がれるような環境ではないところが大半でしょう。しかし、他の業界で一般的に言われている離職率に比べるとかなり低いと思われます。仕事が合わないからと配置転換を希望する方はかなり少数です。退職される方もいますが、積極的な理由で出ていく場合も多いように思います。離職、配置転換、転職について詳しく見てみましょう。

 

 

大手設計社員の離職率

離職率は「7・5・3」だ、とよく言われます。新卒社員の3年以内の離職率が中卒で7割、高卒で5割、大卒で3割程度だということです。我慢が苦手な人の割合が多いのか、労働条件が良くない場合が多いのか、あるいはその両方かはわかりませんが、だいたいこのくらいの比率で推移しているようです。

 

大手設計事務所、ゼネコン設計部では、大半の新入社員が大学院を修了しています。そのため「7・5・3」と直接比べることはできませんが、7・5・3とくれば次は1でしょうか。同僚・知人から聞いて回った限りでは、概ねこの「1割」に近いかもう少し小さいようです。

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建築の「設計」に携われる人間はそれほど多くはありません。大手ではほぼ大学院修了が必須の条件です。「設計」をしたいという明確な意思があることと、業務内容を入社前からある程度理解しているということが離職率の低さに繋がっていると思われます。

 

〇〇商事や○○TVと言った会社名への漠然とした憧れではなく、自分の専門を生かしたい人達が目的を持って集まってくる部署と言えます。

 

設計部からの配置転換

社内での配置転換を希望する場合、設計事務所に比べ会社規模の大きいゼネコンの方が、設計部以外の部署は多様です。とはいえ、大部分を占める施工部門に行きたいという人は少数派なので、あまり大差ないかもしれません。よく行く配置転換先を挙げてみます。

 

設計部の管理部門

設計部といっても全員が設計をしているわけではありません。設計内にも管理部があります。締め切りに追われているわけではないので、繁忙度は大分違います。部内の移動で済むので調整が楽ですし、新たに人間関係を構築しなくてもいいので異動する本人も楽です。

 

設計部の監理部門

「管理」ではなく「監理」です。設計図書通りに建物が建てられているかをチェックすることを「監理」といい、これも建築士の重要な仕事です。自分が設計を行った建物を自分で監理する場合もありますが、大手では監理専門の部署を持っていることが多いです。

鉄筋コンクリートの家づくり:工事監理をしないと大変なことに

 

全国の現場を飛び回ったり、大量の図面をチェックしたりと大変ではありますが、「徹夜して仕上げる」と言うような環境ではありません。何より精神的な負担は大分少なくなります。経験を積んだ年配の方が多いですが、若手でも入れてもらえます。

 

研究所

意匠設計者ではなく、構造設計、設備設計限定にはなりますが、研究所も有力な移動先です。高い専門性を有しており、空きがあれば受け入れてもらえるでしょう。実務の経験も豊富なので、実用性の高い開発や研究を進めることができます。

 

社内からのプレッシャーはあるものの、基本的にはゆっくりと働くことができます。大型の実験施設が必要な都合上、設計部がある都市部から外れたところにある場合が多いので引越しが必要かもしれません。

 

設計部からの転職先

独立

建築士と言えば独立して設計事務所を開業するようなイメージがありますが、大手からはかなり少ないです。大型案件を取り扱うため、個人では対応できないような仕事が主で、独立後に役立つような経験はあまりできません。将来独立を考えている人は小さいところへ行くのが普通です。

 

それでも全く独立する人がいないわけではありません。しかし営業力が必要ですし、結局元々いた会社の下請けのような仕事が主となってしまう人もいます。

 

公務員

設計に限らず、現場マンからも人気なのが公務員です。一番人気ではないでしょうか。完全に「設計」に疲れてしまった人が行き着く先というイメージがあります。「資格や経験があるから」という理由だけで、別に建築関係の仕事をしたいわけではないという人が多いです。

 

安定していますし、設計よりはよほど人間的な生活ができそうです。

 

審査機関

建築確認(建物建設の許可)を行う審査機関に行く人もいます。設計する側から設計内容をチェックする側に移ることになります。

 

審査員の資格がありますので、先々の転職先の選択肢を増やしておきたい人は早めに取得しておいた方がいいでしょう。

 

デベロッパー

大手デベロッパーでは設計内容や工事をしっかりと監理できる専門家を欲しています。業務を通して懇意になったデベロッパーへ転職する人もいます。

 

工事監理が主たる業務になるようです。ゼネコンより給料がいい、と噂では聞きます。

 

大学教員

博士号を持っていると選択肢に入ってきます。学会活動を積極的に行っており、うまくタイミングが合えば「先生」になれる可能性もあります。

 

しかしかなり能力がある方限定になってしまいます。研究所から大学に戻られる方は多いですが、設計からでは狭き門です。

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もちろんこれ以外のところへ転職する方もたくさんいますが、主たるところはこのくらいでしょうか。なんにせよ、自分の市場価値を高めておく必要があります。