バッコ博士の構造塾

建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

耐震等級の最もわかりやすい説明:これを知らずに家を建てるなかれ

家を建てる際、耐震性が気になるという方はたくさんいます。地震に強い家を建てるための情報を求めて、いろいろなワードで検索します。

 

そのとき必ず出会うのが「耐震等級」という言葉です。いろいろなサイトで耐震等級の説明がなされており、建物の耐震性を表すために広く使用されている指標と言えるでしょう。

 

しかし、どのサイトを見ても書かれていることは同じです。本当にあれだけの情報で「よしわかった、うちは等級2にしよう」と判断できるのでしょうか。

 

実は、「どう説明すれば一番耐震等級のことを理解してもらえるだろうか」という研究が慶応大学で行われています。せっかくなのでその研究を簡単に紹介してみようと思います。

 

耐震等級のことをよく分かっているという人にもぜひ読んでいただきたいです。

 

なお、耐震等級取得のための具体的な内容については以下の記事をご参照ください。 

 

 

耐震等級の一般的な説明

・耐震等級は1から3まであり、3が最高評価

・耐震等級1は現行の建築基準を満たす耐震性を有している

・耐震等級2は耐震等級1の1.25倍の強さを有している

・耐震等級3は耐震等級1の1.5倍の強さを有している

 

基本的にどのサイトを見ても書かれていることは上記のような内容です。あとは地震保険の割引やフラット35Sの利用等、耐震等級2以上を取得することで受けられる優遇措置に関する補助的な説明があるかないかの違いです。

 

さて、では本当にこの説明で理解できたのでしょうか。なんとなく理解した気にはなれると思いますが、正直なところよくわからないのではないかと思います。

 

1.25倍、1.5倍強くなると一体何が違うのでしょうか。どのくらい被害が小さくなるのでしょうか。よくよく考えてみるとさっぱりわかりません。

 

耐震等級の異なる説明方法

震度の大きさに対する被害発生確率

震度に応じた各等級での建物の倒壊する確率です。

 

震度6強の地震の揺れで倒壊する確率

 耐震等級1: 1.3%

 耐震等級2: 0.11% (等級1の約12分の1)

 耐震等級3: 0.021%(等級1の約65分の1)

 

震度7の地震の揺れで倒壊する確率

 耐震等級1: 28%

 耐震等級2: 7.9%(等級1の約4分の1)

 耐震等級3: 3.5%(等級1の約8分の1)

 

強さが1.5倍であれば倒壊する確率が1.5分の1になるかというとそうではありません。等級を上げることで倒壊確率は劇的に下がります

 

どうでしょう、最初の説明と比べてだいぶ印象が変わったのではないでしょうか。耐震等級を上げることの意味がよくわかると思います。

 

建物の供用期間に応じた被害発生確率

建物を使用する年数に応じた各等級での建物の倒壊する確率です。

 

今後30年間に地震の揺れで倒壊する確率

 耐震等級1: 0.50%

 耐震等級2: 0.10% (等級1の約5分の1)

 耐震等級3: 0.039%(等級1の約10分の1)

 

今後50年間に地震の揺れで倒壊する確率

 耐震等級1: 0.86%

 耐震等級2: 0.19% (等級1の約5分の1)

 耐震等級3: 0.080%(等級1の約10分の1)

 

さきほどの「震度別の確率」に比べてわかりにくいと感じる人も多いようですが、これが一番わかりやすいと感じる人もいるようです。

 

日本の住宅の平均使用年数は30年程度です。その間に耐震等級1だと200棟に1棟が地震で倒壊することになります。

 

40歳前後で家を新築される方は50年程度住むことになるでしょうか。その場合、耐震等級1だと116棟に1棟が地震で倒壊することになります。

 

「子供や孫に家を残してやりたい」となると50年では足りないでしょう。また、倒壊しないまでも被害を受ける確率は当然ながらもっと高くなります。

 

しかし、震度7を想定した場合に比べて倒壊確率は大幅に小さくなっています。50年程度の使用では震度7を経験する可能性は低いということがわかります。

 

耐震等級アップに必要なコスト

耐震等級の違いによる耐震性能の違いについてはなんとなく雰囲気がつかめたかと思います。ではどのくらいのコストで実現できるのでしょうか。

 

耐震等級1を基準とした場合のコストアップ

 耐震等級2: 1~3%

 耐震等級3: 3~5%

 

どうでしょうか。思ったよりコストの増加分は小さいと感じたのではないでしょうか。

 

「耐震等級を上げた場合にどの程度コストアップになるか」について一般の方にアンケートを取ったところ、耐震等級2で10%程度、耐震等級3で20%程度アップするという結果が一番多くなっています。

 

また、耐震性の増加分と合わせて耐震等級2で25%、耐震等級3で50%アップするという回答もかなり見られます。アンケートの実施は2006年11月と古いものではありますが、まだまだ誤解があるのではないでしょうか。

 

耐震等級をよく理解し、家づくりの参考にしていただければ幸いです。

 

参考文献

佐々木、小檜山:被害発生確率を用いた耐震等級の説明の有効性、日本地震工学会論文集、第7巻、第6号、2007、p.31-47