バッコ博士の構造塾

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エキスパンションジョイント(EXP.J)とは?橋から免震まで

橋や高速道路と言った土木構造物、スタジアムや超高層ビルと言った建築構造物、これらは人間が造るものの中で最も大きなものの一つでしょう。

 

大きいということは、それだけで特別なことです。大きいが故にいろいろな問題を引き起こす場合があります。どれだけ精巧に作っても、縮小模型では再現できないのです。

 

なぜなら、物体は大きさによって支配的になる力が変わるからです。昆虫はビルの上から落ちても大丈夫でしょうが、象にはちょっとした段差でも命取りになることがあります。巨大な建造物を造る際には、必ずどんな問題が生じるか事前に考えておかなくてはなりません。

 

しかし、場合によっては簡単に解決することができます。大きいことが問題であるのなら、問題にならないくらい小さくすればいいのです。

 

そして、それに用いられるのが「エキスパンションジョイント」です。うまく活用することで多くの問題を解決できます。

 

 

エキスパンションジョイントとは

巨大な建造物であっても、いくつかに分割すれば巨大ではなくなります。巨大でなくなれば、大きさに起因した問題は生じなくなります。

 

しかし、分割すると違う問題が出てきます。分割した個所の通行ができなくなったり、雨水が侵入したりするかもしれません。

 

それを解決するのがエキスパンションジョイント(以下、EXP.J)です。エキスパンションとは「Expansion(拡張、拡大)」、ジョイントとは「Joint(繋ぎ目、接合部)」です。

 

EXP.Jでは、ただ単に2つのものを繋ぎ合わせているのではなく、繋ぎ目が自由に動くことができるのです。それが「拡張」と呼ばれる所以です。

 

もし繋ぎ目がガチガチに固まっていると、繋がっている2つのものは一体化して動いてしまいます。せっかく分割したものが一体化してしまっては意味がありません。そのため自由に動くのです。

 

もちろん動くことによって隙間が生じたり、可動部が損傷したりはしません。構造自体は分割されますが、機能は一体化する、それがEXP.Jです。

 

橋に用いられるEXP.J

EXP.Jの一番わかりやすい例が「橋」ではないでしょうか。橋を渡るとき足元に注意していれば、ギザギザな繋ぎ目があることに気が付くはずです。これが橋のEXP.Jです。

 

では、なぜ橋にEXP.Jがあるのでしょうか。それは、温度変化による橋の伸び縮みを吸収するためです。

 

金属やコンクリートを熱すれば、僅かではありますが体積が大きくなります。橋桁が長大になると、この「僅か」がバカにならない量になります。夏と冬とでは、橋の長さが違うのです。

 

長さが変わらないよう無理やり端部を押さえつけると、そこに大きな力が作用します。また、部分的に弱いところがあると、そこに温度変化に伴う変形が集中してしまうことにもなりかねません。

 

では橋の端部だけを自由に動けるようにしておけばいいかというと、そうもいきません。それだけ大きな変形に追従できる繋ぎ目を実現するのは大変ですし、季節によっては段差ができて乗り心地が悪くなる可能性もあります。

 

そのため一定間隔毎にEXP.Jを設け、伸び量を調整しているのです。もちろん橋だけでなく、長大な平面を持つ高速道路やビルにも用いられています。

 

L字型平面の建物に用いられるEXP.J

小学校の教室やマンションの各住戸は、大きさが大体決まっています。極端に広い部屋、狭い部屋を設けることはありません。似たような大きさの部屋が横一列に配置されます。

 

そのため、自然と建物の平面形状は横長になっていきます。限られた敷地の中でより多くの部屋を確保しようとすると、途中で折り曲げて「L字型」にすることになります。

 

用途上、各部屋の間には壁が設けられることが多いです。そのため、平面的に長い側より短い側の方が壁の量が多く、建物が硬くなる傾向にあります。

 

横長の長方形状の平面であれば短辺方向に硬く、長辺方向に柔らかくなるだけで問題ありません。しかし、L字型だと一部が硬くて一部が柔らかいという状況が生まれます。

 

硬さが違えば、地震時の揺れ方が違います。それを無理やり同じように揺れさせようとすると、硬い部分と柔らかい部分の境界に大きな力が生じて壊れてしまいます。

 

そこでLを分割し、「-」と「|」に分けるのです。分けてさえしまえばただの長方形が二つあるだけなので、設計が非常に楽になります。

 

L字型平面の建物であれば、「L」の角の部分に金属製の床が貼られていることが多いです。これが建物分割用のEXP.Jです。

 

免震建物のEXP.J

上述の2つとは異なる理由で設けられるEXP.Jがあります。温度変化や建物形状に由来するものではありません。

 

それは「免震」です。免震構造の建物には必ずと言っていいほどEXP.Jが設けられます。

 

免震とは地震の力が建物に伝わらないよう、建物下部に「免震層」と呼ばれる特殊な層を持った建物のことです。この層のおかげで地震時に建物に生じる地震の力は大幅に小さくなりますが、免震層自体は大きく変形します。

免震構造がよくわかる

 

免震層が変形するということは、その上にある建物が大きく移動するということです。設計にもよりますが、最大で40cm程度動きます。

 

建物がそれだけ移動するには、建物の周りに動くスペースが必要です。大半の場合、建物周囲に堀のようなものを設けます。

 

しかし、そんな堀のようなものがあっては人の往来には不向きです。そのため堀には床板が架け渡されています。これが免震のEXP.Jです。

 

地震時には堀の幅が広くなったり狭くなったりするわけですが、免震のEXP.Jはこの動きに追従できるようになっています。そのおかげで地震の際に床板が落ちたり、堀と建物間に人が挟まったりしないのです。

 

免震用のEXP.Jには大きく分けて2つのタイプがあります。「跳ね上げ式」と「スライド式」です。

 

跳ね上げ式では、普段は一般の床とEXP.Jとの間に段差はありません。床を一段低くし、その上にEXP.Jを載せているからです。そして堀が広くなる動きの時はその段差が表れ、堀が狭くなる動きの時は段差を乗り上げて動きます。普段はフラットでいいのですが、地震時に段差ができたり、床板が乗り上げてきたりとやや危ない面もあります。

 

スライド式では、ただ単に堀の上にEXP.Jが架け渡されているだけです。そのため、普段からEXP.Jの厚みだけ段差があります。ただ、地震時には単に建物に追従してスライドするだけなので、構造は非常にシンプルです。地震時も段差の大きさは変わらないので、危険度も低いです。

 

EXP.Jのクリアランス

EXP.Jは動くことが前提です。その動きの量に合わせて動き代を設けておく必要があります。

 

橋であれば、温度の変化量、分割された橋の長さに応じて決めることになります。当然寒暖差が激しく、橋の分割数が少なければ大きめの値になります。

 

L字型平面の建物に設ける場合は、分割した建物同士がぶつからないよう、地震時の変形量から決めます。建物の変形の上限を高さの1/100とするのが一般的なので、高さ30m地点で繋げる場合は30m÷100×2=60cmとなります。

 

免震建物では堀の幅で決まります。堀の幅自体は解析により求まった建物の移動量に余裕をみた値にします。50~70cmというのが一般的な値でしょう。