バッコ博士の構造塾

建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

コンテナハウスは地震に強いか:耐震性を数字で比較してみた

昔は、家といえば木造で、LDK以外に寝室が3つと客間に使える和室があって、というようなステレオタイプなものが多数ありました。しかし昨今は、もっと多様な中から自分の好みにあったものを選びやすくなっています。

 

コンテナハウスもその中の一つでしょう。どちらかというと、小さくておしゃれなカフェやショップというイメージがありますが、住宅用としても今後増えていくのではないでしょうか。

 

コンテナハウスは耐震性が非常に高いと言われています。「海上輸送にも耐えられる頑丈な鉄の箱だから」と言われれば確かにそんな気がします。

 

ですが、本当にそうなのかどうか、数字も交えながら確認してみましょう。

 

 

建築用コンテナ・海洋輸送用コンテナ

大きな港に行けば、クレーンでコンテナが船に積み込まれているのを見ることができます。踏み切りが開くのを待っている間に目の前を貨物列車が通ることもあるでしょうし、街中でもトラックによって運搬されている姿を目にするかもしれません。

 

コンテナが「いろいろなものの輸送に使う、規格化された大きな鉄の箱」だということはご存じかと思います。

 

しかし、コンテナハウスは皆さんがイメージするコンテナと同じものではありません。あれはあくまでも「海洋輸送用」であって、「建築用」ではないのです。

 

では両者で何が違うか、それは日本の建築基準を満たすような構造になっているかどうかです。海洋輸送用コンテナでは基準を満たさず、建物をつくることはできません。

 

海洋輸送用コンテナは、薄いパネルを折り曲げて箱状に形成されています。非常に強い構造なのですが、窓などのために開口部を設けたりすると、急激に弱くなってしまいます。また、使用している鉄自体が建築の基準に適合しません。

 

一方、建築用コンテナは四隅に柱があり、しっかりとしたフレームが組まれています。外壁の折版は無くてもよく、自由に開口を空けることができます。当然、使用している鉄も建築の基準に適合しています。

 

建築用コンテナは主要な部分が鉄でできている「鉄骨造」で、柱や梁で構成される「純ラーメン構造」に分類されることになります。

ラーメン構造がよくわかる

 

輸送にともなう力

建築用コンテナは海洋輸送用のコンテナ同様、船や車で運ぶことができます。そして、この「運ぶ」という行為は、思いのほか大きな力が作用します。

 

建築は「不動産」と呼ばれているくらいですから、基本的には動くものではありません。動かさないことが前提の建物と、動かすことが前提の建物、厳しい条件である後者の方が頑丈に作られているのは間違いないでしょう。

 

では、どのくらい頑丈なのか、見ていきましょう。

 

吊り上げ

コンテナを運ぶには、コンテナを乗り物に載せる必要があります。そのためにはフォークリフトやクレーンを使います。

 

普段コンテナは地面に直に置かれているか、他のコンテナの上に積まれています。つまり、下から支えられている状態にあります。

 

下から持ち上げるタイプのフォークリフトを使用する場合であれば、普段置かれている状況と力のかかり方はあまり変わりません。しかし、クレーンで吊り上げる場合や上から持ち上げるタイプのフォークリフトであれば、コンテナの下ではなく上から支えることになります。

 

支えられる位置が下から上に変わると、普段は重力によって「圧縮」の力がかかっていたものが、重力によって「引張」の力がかかるようになります。力の向きがただ逆になるだけなのですが、普通の建物にとっては意外にこれが厳しい状況です。

 

コンクリートは圧縮に強いですが、引張に対しては非常に弱いです。鉄筋コンクリート造の場合、吊られただけでも柱がひび割れだらけになる可能性があります。

 

木は圧縮にも引張にもそれなりに強いですが、部材の接合部分はあまり引張に強くありません。圧縮は木と木が接しているので問題無く力を伝えられるのですが、引張は木と木が離れてしまうので金物頼りになってしまいます。

 

その点、鉄でできているコンテナは圧縮も引張も同じ強さです。吊り上げられても影響はありません。

 

「吊り上げても壊れない」ということ自体が強さを物語っています。

 

船による輸送

コンテナを運ぶような大きな船というのは比較的ゆっくり動くので、あまり激しい揺れを伴わないイメージがあります。仮に急発進や急ブレーキをしたとしても、車や電車と比べれば激しいものではないでしょう。

 

しかし、運行中の傾きという意味ではかなり大きな値になります。通常の運行中で±数度、最大で30度くらいは傾く可能性があるようです。

 

この30度という値は、非常に大きな値です。スキーのジャンプ台(ノーマルヒル)の傾きが31度以上ということなので、気をつけないと転がってしまうような傾斜です。

 

実際に船が30度傾くと、積荷にはその重さの半分の力が積荷を倒そうとする力として働きます。重力の大きさを1Gと表せば、0.5Gの力がかかるということになります。そして通常の建物というのは、0.2Gの力に対して損傷しなければよいという設計しかされていません。

 

もし世の中にある建物をすべて30度傾けたとしたら、高層建物はほとんどが倒れてしまうでしょう。戸建て住宅も古いものは軒並み倒れてしまうでしょうし、仮に新しいものであってもかなりの損傷を受けるか、場合によっては倒れてしまうかもしれません。

 

もちろんコンテナの場合は、それだけ傾いても何も損傷しないようにつくられているはずです。

 

車による輸送

船と違い、車はそれほど大きく傾きません。しかし、有事の際には急ブレーキが踏まれることになります。

 

ブレーキというのは、タイヤと路面の摩擦力よりも大きくなることができません。無理やりタイヤの回転を止めたとしても、路面を滑ってしまうだけで急に停止してしまうということはありません。

 

タイヤと路面の摩擦係数は最大でも1.0以下になるそうで、これは先ほど同様Gで表すと1.0Gに相当します。コンテナを運ぶようなトラックが実際にこれだけ急激なブレーキをかけられるかというと疑問ですが、かなり大きな力がかかりそうです。

 

また、ブレーキをかけなくても、高速で走行すると積荷には力が生じます。仮に加速や減速をせず速度を一定に保ったとしても、路面の凸凹によってガタガタと揺れてしまうからです。条件によって大きく変化しますが、このとき生じる力の大きさは1.0Gを超えます。

 

そして、当然コンテナはこうした力にくり返しさらされても問題無いようなつくりとなっています。明らかに他の建物より強いことがうかがえます。

 

鉄骨ラーメン構造

前述のように、コンテナハウスは鉄骨ラーメン構造です。そしてこの構造は、くり返しの揺れに対してかなり強いと言えます。

 

まず、木造の場合、くり返しの揺れを受けると、部材を繋いでいる釘が少しずつ緩んでいきます。揺れを受ければ受けるほど、建物の耐震性が下がっていくことになります。

 

次に鉄筋コンクリート造ですが、こちらはひび割れが問題になります。地震によってひび割れが入れば、その部分はどうしても性能が低下します。その後もくり返し揺れを受けると、鉄筋とコンクリートとの一体化が損なわれてしまうこともあります。

 

鉄骨造であっても、ブレースという細い材を斜めに設置している場合は要注意です。一度伸びてしまうと、次はさらに大きく伸ばされるまで用をなさなくなります。

ブレース構造がわかる

 

その点鉄骨ラーメン構造では、そうした心配はありません。部材が緩むようなことはなく、ブレースも使われていません。

 

というわけで、コンテナハウスは耐震性が高く、くり返しの揺れにも有効な構造であると言えます。