バッコ博士の構造塾

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CLT住宅の耐震性:高性能木材による家づくりの是非

基本的に高層ビルの骨組はコンクリートや鉄で造られていますが、近年は環境負荷の低減のため「木材」を活用しようという機運が高まっています。

 

高層ビルの骨組には住宅などの低層の建物に比べて大きな力がかかります。そのため山から切り出してきた木そのままではなく、いろいろと処理を施した高性能な木材を使用します。

 

その中でも特に有望視されているのが「CLT(直交集成板)」です。実際に多くの高層ビルで使われ始めています。

 

元々は低層の建物にしか使えなかった木材を中・高層ビルにも使えるように開発されたものですが、「そんなにいい材なら住宅にも使えるのではないか」ということでCLTを住宅に使用するハウスメーカーが出てきています。

 

実際のところ、CLTを用いた住宅の性能はどうなのでしょうか。構造的な観点から見てみましょう。

 

 

CLTとは

CLTとは「Cross Laminated Timber」の略語です。そのまま「シー・エル・ティー」と読みます。交差(Cross)させて積み重ねた(Laminated)木材(Timber)のことで、「直交集成板」とも呼ばれます。

 

通常の集成材では木材を長さ方向に重ねつつ繋ぎ合わせていくので、細長い「線状」の部材ができます。そのため柱や梁などの長さが必要な部材に使用されます。

 

一方CLTでは重ねる際に木材の向きを90°変えます。細い木材を「川」のように縦に並べたらその上に「三」のように横に並べ、その次はまた「川」のように、と繰り返していくので「面状」の部材ができます。そのため床や壁などの面積が必要な部材に使用されます。

 

ここ数年でCLTという言葉は急速に広まりましたが、最先端の技術というわけではありません。ヨーロッパでは20年以上前から使用されており、ある程度成熟してきた技術と言えます。

 

CLTは強いのか

いたるところでCLTの良さ・強さが喧伝されています。これまでの木材にはない、夢の材料かのように取り上げられることもあります。

 

しかし、そもそもCLTという材は本当に「強い」と言えるのでしょうか。

 

普通の木材より強いのか

まず、CLTの強さがCLTを構成する木そのものより強くなることはあり得ません。木を繋いで造ったものですから、最高でも木と同じ強さです。

 

ただ、いくつもの材を集めてあるので、個々の材が持つ強さのばらつきを平均化できるという利点はあります。1本ずつ木を使う場合は「もし平均よりも弱い材だったら」ということを考慮しなくてはいけませんが、その必要がない分だけ強いとは言えます。

 

当然ながら他の集成材でも同じことが言えるので、CLTだけが特別強いわけではありません。小さな材を複数組み合わせていれば欠点が少ない材ができるというだけです。

 

直交すると強いのか

木材は力を加える方向で強さが変わります。繊維方向に引っ張ると非常に強いですが、繊維と直交する方向に対してはそうでもありません。

 

こうした性質を「異方性」と言います。CLTでは材を重ねる向きを90°変えているので異方性が小さくなります。

 

これはどの方向に対しても「強い方向」と「弱い方向」の中間の強さを発揮するということです。確かに弱点は無くなりますが、強くなったと言われると違和感があります。

 

CLTの強さ

結局CLTというのは木材そのものより劇的に強いというわけではありません。ではなぜこれだけ注目されているのでしょうか。

 

それは「厚い面状の材(面材)」であるという点です。細長い木を使って床や壁のような面をつくれることに価値があります。

 

CLT以外で面をつくるには合板を使うことになります。合板は木材をかつら剥きのように薄くスライスし、それをCLT同様90°向きを変えて積み重ねてつくります。

 

薄い材を何枚も重ねてつくるので、合板自身もそれほど厚いものにはなりません。その点CLTはそれなりに厚みのある細長い板材を重ねるので、分厚い材がつくれるのです。

 

そして、当然ながら薄い合板よりも分厚いCLTの方が強いです。面材なのに「厚さ」を確保できる、これがCLTの強さです。

 

CLT住宅の構造性能

CLT自身について長々と書いてきましたが、ようやくここからCLTを使用した住宅の性能についてです。

 

壁:耐震性

住宅の耐震性は壁の量でほぼ決まります。壁の量とは「壁の長さ」×「壁の強さ」です。

壁量とは

 

合板とCLTでは厚さが全く違います。厚い=強いですから、CLTを壁に使えば壁の長さを短くできます。

 

中高層ビルにも使っていこうというくらいですから、CLTは相当に強いです。規模が小さく、かつ重量が小さい木造の住宅であればほとんど配置する必要がありません。

 

しかもオフィスと違って住宅では全面ガラス張りということはなく、家具の配置やプライバシー確保のために自然とそれなりの量の壁ができます。

 

ということで、普通に設計するだけで耐震性の高い建物となるでしょう。わざわざ制振ダンパーなどを設置しなくても十分だと思われます。

 

床:剛床の確保

一般的なビルでは床をコンクリートでつくります。床が大きな1枚のコンクリート板になるので非常に硬くなります。

 

床が硬いと建物が一体化して動きます。壁に地震の力をまんべんなく伝えやすくなります。

剛床とは

 

しかし、一般的な住宅の床は木造です。薄い合板をいくつも継ぎ足していくので、十分に硬いとは言えない場合があります。

 

その点CLTであれば大きな分厚い板で床をつくれるので、硬さを確保しやすくなります。

 

床:空間の多様性

普通の合板では梁と梁との間を直接架け渡せるほどの強さがありません。梁の間隔を狭くしたり、根太という材でさらに細かく区切ったりする必要があります。

 

しかしCLTであればそうしたことは必要ありません。むしろ梁の間隔を広げることもできますし、梁をなくすこともできます。結果、柱の数も少なくて済みます。

 

梁+合板よりもCLT単体の方が薄くできますので、建物の高さが同じであれば天井は高くなります。

 

また、床のはね出しを大きくすることもできます。下に柱を設置しない場合、バルコニーの奥行きは1m以下とするのが一般的ですが、CLTであれば2m、あるいはそれ以上も可能です。

 

性能とコスト

CLTを使用すれば耐震性を高めつつ、広い空間を確保することも可能です。

 

ただ、コストはかなり高くなるものと思われます。CLT自身単価が高いですし、どんな工務店でも建てられるというわけではないからです。

 

耐震性を確保したいだけであればCLTを使わなくても優秀な構造設計者に任せることで安価に実現できるでしょう。耐震性のためだけにCLTを使用するのはオーバースペックな感があります。

 

どうせCLTを使って住宅を建てるなら、耐震性+αの性能を求めてほしいと思います。