バッコ博士の構造塾

建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

構造設計者の住まい:専門家がどんな家に住んでいるか聞いてみた

建物の強さの現状をよく知っている構造設計者ですが、自宅を設計することは稀です。

 

□■□疑問■□■

構造設計者はどういった基準で住まいを選ぶのでしょうか。

 

□■□回答■□■

値段、間取り、立地、その他みなさんが重視することと基本的には同じです。もちろん構造安全性については気になりますが、それを最重要事項とする設計者は少ないです。現行の建築基準で十分な安全性が確保されていると考える設計者もいますし、「免震にしか住まない」という設計者もいます。超高層マンションに住む設計者も何人か知っています。

 

 

建築士もただの人

一級建築士だから、構造設計一級建築士だからといって給料が劇的に増えることはありません。大手設計事務所やゼネコンでは資格を持っていて当たり前なところがあるので、給料が増えないところが多いです。自ずと住めるところの選択肢は限られます。

 

値段、間取り、立地、住環境はもちろん重要ですし、配偶者の意向も無視できません。死ぬまでに遭遇しないかもしれない大地震のために、どこまで備えるかは人に依ります。一般の人との違いは、構造安全性を重視したいと思ったときに「配偶者を説得しやすい」ということだけかもしれません。

 

社内、知人に聞き回って得た感想は、「構造設計者は意匠設計者ほど住むところにこだわりがない」ということです。通常より強ければうれしい、免震ならうれしい、そうじゃなくてもまぁ仕方ないかという感じです。

 

普段、構造にコストを掛けない施主に「たった数%のコスト増で安全性が50%増になるのに」と内心思っているわりには、いざ自分が払う段になると躊躇してしまいます。地震の発生確率と安全率の関係をよく知っているからともいえます。

 

マンションor戸建住宅

家族構成や共働きかどうか、その他の要素によって様々ですが、構造安全性を重視したからマンションにした、あるいは戸建住宅にした、という意見は聞いたことがありません。マンションだから強い、戸建住宅だから強いということはなく、設計が適切かどうかだけがその強さを決めます。地震以外の、例えば水害であれば設計に依らずマンションの方が良さそうですが。

 

マンションにするならできるだけ大手が設計したものを、という先輩。大手ハウスメーカーの建売だから安心感がある、という若手。工務店が提案した地盤改良の深さよりも「あと2m深くまで改良して」とお願いした同期。

 

この程度のこだわりの構造設計者が多いようです。ただ、自分で設計するとなると大分違ってくると思います。

 

超高層マンションに住む構造設計者

「超高層マンションが揺れる?中層階は地面よりも揺れが小さくなる場合も多いぞ」という同僚。「湾岸は地盤が緩い?そんなことは織り込み済みの設計だから関係ないだろ」という上司。「2回3回と大地震が来ても超高層マンションなら倒壊なんてあり得ない」という別の上司。「俺は住みたくない」という戸建住宅派の同期。

 

東北地方太平洋沖地震以降、超高層マンションの需要が一時落ちましたが、構造設計者の間では特に不安視されませんでした。しっかりと設計されていることを知っているため、安全性に関する見解は特に揺らいでいません。

 

免震に住む構造設計者

「いや免震しかないですよ」とわざわざ免震のマンションを中古で買った後輩。「ちょっと高過ぎ」と購入を見送った友人。「免震にしておけばよかった」とどこかで地震が起こる度に嘆く先輩。

 

必ず生きているうちに大地震が起こるとわかっていれば免震にする人も多いでしょう。構造設計者も同じです。起こるほうに賭けるか、起こらないほうに賭けるか、結局専門家だろうと誰だろうとわからないものはわからないです。

 

やはりどんな家に住むかというのは個人が決めることで、我々はあくまでもアドバイザーでしかありません。