バッコ博士の構造塾

建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

構造設計一級建築士試験の本当の難易度:ここ数年の合格率と一級建築士との違い

f:id:bakko-taishin:20180901113941j:plain

2008年から一級建築士の上位資格である「構造設計一級建築士」「設備設計一級建築士」が新設されました。比較的新しい両資格ですが、いったいどのくらい難易度が高い資格なのでしょうか。

 

まずその前段の「一級建築士試験」ですが、合格率は1割強と低く、難関試験に位置付けられています。建設業従事者の中でも、一級建築士資格の保有者はそれほど多いとは言えません。

一級建築士試験の難易度は?新旧試験の比較とゼネコンマンが思うこと

 

その難関試験を合格した一級建築士資格の保有者だけが、構造設計一級建築士、設備設計一級建築士試験を受けることができます。しかし、合格率はそこまで高くはありません。建設業界のトップ層である一級建築士にとっても難易度が高い試験であると言えます。

 

ただ、大手建設会社の設計部や設計事務所の社員の合格率は非常に高いです。超高層ビルや特殊技術を導入した最先端のビルを扱う人たちにとっては、さして難しい試験ではないと捉えられています。

 

やはり、専門が「構造」、あるいは「設備」であれば、その上位資格は取っておかないといけないでしょう。

 

 

試験構成の違い

一級建築士では建築に関する知識を問われる「学科」と、実際に建物の模擬設計を行う「設計・製図」が課されます。学科合格者のみが設計・製図試験を受けることができます。

 

構造設計一級建築士では2日間の「講義」を受け、「法適合確認」および「構造設計」の両方の試験に合格する必要があります。

 

設備設計一級建築士では3日間の「講義」を受け、「法適合確認」および「設計製図」の両方の試験に合格する必要があります。

 

合格率の違い

ここ数年間でのおおよその値です。

  

一級建築士

学科試験:受験者数26,000人、合格率18%、合格者数4,700人

設計製図:受験者数9,200人、合格率40%、合格者数3,700人

 

構造設計一級建築士

申込み区分Ⅰ:受験者数650人、合格率22%、合格者数150人(両科目受験)

申込み区分Ⅱ:受験者数82人、合格率39%、合格者数32人(法適合のみ受験)

申込み区分Ⅲ:受験者数110人、合格率46%、合格者数48人(構造設計のみ受験)

全体としては合格率27%

 

設備設計一級建築士

申込み区分Ⅰ:受験者数190人、合格率29%、合格者数55人(両科目受験)

申込み区分Ⅱ:受験者数26人、合格率68%、合格者数18人(法適合のみ受験)

申込み区分Ⅲ:受験者数56人、合格率54%、合格者数30人(設計製図のみ受験)

申込み区分Ⅳ:受験者数150人、合格率68%、合格者数100人(建築設備士)

全体としては合格率49%、ただここ3年は60%近く

 

資格が新設された年は大量の合格者が出ましたが、以降それほど合格者数は多くありません。一級建築士の合格者数に比べて非常に少ないことから、構造および設備を専門とする建築士がいかに少ないかがうかがえます。

 

受験資格の違い

一級建築士

学歴だけでは受験できず、最低でも2年以上の実務が経験必要です。また、二級建築士、あるいは建築設備士としての実務が4年以上あれば受験可能です。早ければ24歳で受験できることになります。

 

構造設計一級建築士

一級建築士として構造設計に関する実務経験が5年以上が必要であり、なかなか厳しい要件です。最短でも30歳(早生まれなら29歳)までなることができない計算になります。 

 

設備設計一級建築士

一級建築士として設備設計に関する実務経験が5年以上必要ですが、建築設備士としての実務経験も含めることができます。

 

構造、設備ともに一級建築士資格の保有者で、かつ設計業務に5年以上従事している必要があるため、構造、設備の専門家だけが受けられる試験と言えます。

 

構造設計一級建築士試験の本当の難易度

資格創設以前は、一級建築士さえ持っていればどんな建物であろうが構造設計をすることができましたが、今ではかなり小規模なものに限られています。この資格を取って、初めて構造設計者が名乗れるのです。

 

合格率と受験資格は上述したので、外から見た場合の難易度についてはある程度理解いただけたかと思います。ですので、ここでは話を大手の構造設計者に限ってみます。

 

まず結論を言ってしまいましょう。構造設計一級建築士試験は難しい試験ではなく、むしろ簡単な試験です。

 

ある大手の構造設計部では、最近の合格率は80%程度でしょうか。もう少し高いかもしれません。試験用の勉強はしますが、それほどきついものではありません。

構造一級建築士試験体験記:勉強法と有資格者の位置づけ

 

資格創設時の試験では「一級建築士として実務5年以上」に該当する社員が大量におり、何十人と試験を受けました。結果は「社内に1人だけ不合格者がいるらしい」という真偽不明の噂が出たほどで、全員が合格だった可能性が高いです。

 

「市井にはこんな試験も通らない構造設計者がこれまでいたのか」といった意見さえありました。ハウスメーカーや建材メーカーの方も受験されているので、不合格者の全員が全員バリバリの構造設計者ではないと思いますが、能力不足の設計士がいることは否めません。

 

また、構造設計一級建築士であれば構造のことが何でもわかるわけでもありません。構造設計者のスタートラインに着いた、とまではいいませんが、学ぶべきことは多いです。そもそも、耐震工学自体がまだまだわからないことだらけですので。

 

同じ構造設計者であっても、そのレベルは千差万別であることを知っていただきたいです。